第33話 Fクラス VS Eクラス①


 王立学園の授業カリキュラムには、実に様々な科目が存在する。


 歴史学や思想学といった座学中心の科目。

 武道やダンジョン実習といった運動中心の授業。

 等々、他にも他にも……。


 今日行われるのは、それら科目の中の”魔法演習”という授業だ。


 どちらかといえば座学中心の魔法学において、攻撃魔法や防御魔法といった実践的な魔法を実際に訓練する。


 中でも攻撃魔法は見ていて派手なので、魔法をまだ使えない新入生たちには人気の授業なのだとか。


 ちなみに今回の”魔法演習”はEクラスとの合同授業。

 Fクラスが他クラスと合同授業するのは、これが初めてである。


 そんなワケで、Fクラスは校庭に出て授業が始まるのを待っているワケなのだが――


「クックック……」


「クスクス……」


 俺たちは笑われていた。

 Eクラスの奴らに。

 明らかに馬鹿にされた感じで。


 そんなEクラスメンバーの態度に、マティアスは「チッ」と舌打ちする。


「おいお前ら……さっきからなにがそんなにおかしいんだよ」


「ああ、悪いんだが話しかけないでもらえるかな? 男爵ごときに”キング”の座を譲ったクラスと話す舌など持たないのでね」


 Eクラスの中で一番偉そうな男が、露骨に見下したような言い方で答えた。


 ――おっと?

 これは早速波乱の予感?


「……なんだと?」


「全く理解できないよ、マティアス侯爵。Fクラスにはキミやイヴァン公爵もいるというのに、よりにもよってあの最低最悪の男爵が……。キミたちも落ちぶれたものだね」


「「……」」


 名前を出されて険しい顔をするマティアスとイヴァン。


 あとレティシアの眉間にもシワが寄る。

 かなり不快そうに。


 ――やや伸ばしたウェーブヘアを七三に分けた、一目で貴族と分かる出で立ちの男。


 雰囲気からして、おそらくコイツがEクラスの”キング”だろうな。


 Eクラスの”キング”は言葉を続け、


「それに、退学者を一人も出さずに”キング”を決めるなんて……本当にこの王立学園でやっていく気があるとは思えないよ」


 呆れたと言わんばかりに肩をすくめる。

 なんか段々俺もムカついてきたな。


「教師たちは評価してるらしいけど、僕はそう思わない。王立学園の本質は優勝劣敗、弱肉強食。自らの有能さを証明するために他者を蹴落とす場所なんだ。決してお遊戯会をするところなんかじゃないんだよ」


 よく見ると、Eクラスのメンバー数は十人よりも少ない。

 ひい、ふう、みい……全部で八名。


 どうやらEクラスからは二名が退学しているらしい。

 

 この男との権力争いに敗れて、退学に追い込まれたってところだろうな。


 まあ、言ってることはわからんでもない。


 王立学園は生徒同士による熾烈な蹴落とし合いの場。

 しかも今年は新校則などとほざいて、貴族同士の権力争いを疑似的に再現している。


 そんな中にあって、誰一人欠けることなくトップの席が決まる――。


 激しい競争の末に王座を勝ち取った者から見れば、俺たちが仲良しこよしでお遊戯会でもしてるように映るのかもな。


 少なくとも高位階級のイヴァンやマティアスなんかは、やる気を疑われても仕方ないかもしれない。


 しかし、


「……お遊戯会、か」


 イヴァンが眼鏡をクイっと動かし、不敵な笑みを浮かべる。


「ならば、今日の”魔法演習”で確かめてみるがいい。オードラン男爵の才が本当にお遊戯会レベルなのかどうか、な」


「なに……?」


 煽るような口調で言うイヴァン。

 その時、ようやくパウラ先生が校庭にやって来る。


「皆さん、お待たせしました! 今日はFクラスとEクラスの合同授業! 楽しみましょうね!」


「「「…………」」」


「うんうん、早くも殺伐とした険悪なムードで素晴らしい! 仲良く蹴落とし合ってください!」


 相変わらず発言が闘争厨なパウラ先生。


 この人本当に生徒同士を争わせるの好きだよなぁ……。

 教師やるより軍人とかの方が向いてるんじゃないかと思うんだが……。


「それでは”魔法演習”の授業を始めていきますね! まず初めに、既に魔法が使える人は挙手!」


 彼女が尋ねると、パラパラと手が上がる。


 俺やレティシアを始め、他にイヴァンやEクラスの”キング”も手を上げた。


「お、あなたはえーっと、Eクラスのミケラルド・カファロくん! あなたも魔法が使えるんですね!」


「勿論です。カファロ侯爵家の人間ならば当たり前ですよ」


 自慢気に前髪をかき上げるEクラス”キング”。


 コイツの名前はミケラルドと言うらしい。

 まあ、もの凄くどうでもいいが。


「ではせっかくなので、Fクラスの”キング”とEクラスの”キング”に魔法戦の攻防を再現してもらいましょう!」


「え?」


 予想外の一言。

 まさか自分の名前が呼ばれると思っていなかった俺は、一瞬目をパチクリさせる。


「ほう、これは丁度いい」


 俺とは対照的に、微妙に嬉しそうな表情をするミケラルド。


「こんなにも早く確かめるタイミングが来るとは僥倖。Fクラスの実力など、所詮お遊びだということを教えてあげようではないか」


 ククク、と奴は笑う。

 既に勝ち誇ったように。


「……面倒くせぇ」


 怠い。

 やりたくねぇ。

 だって結果なんて分かり切ってるし。


 俺としては、レティシアが絡まないなら別に頑張る必要なんて――


「アルバン」


 なんて思っていると、レティシアが俺に声を掛けてくる。


「あなたの格好いいところ、私に見せて?」


 ドキッとするような微笑を浮かべて、彼女は言った。


 ……。

 …………。

 ………………。


「勿論! 見ていてくれレティシア!」


 うん、超やる気出てきたわ。

 ハイパーやる気モードになったわ。


 愛する妻に格好いいところを期待されて、裏切れる夫はこの世にいないからな!


 俺とミケラルドは二人で校庭の中央に立ち、相対する。


「では遠慮なく魔法を撃ってきたまえ。競争の末に”キング”となった者とそうでないもの、その格の違いを見せつけてあげよう」


「遠慮しなくていいのか?」


「当然だ。どうせ大した魔法なんて――」


「じゃ、いくぞ」





 ――この後、俺はSランク魔法や混合魔法を使って、ミケラルドを完膚なきまでに蹂躙した。


――――――――――  

★おすすめレビューのお礼(8/6時点)m(_ _)m

@katakatachan様

作品のレビューコメントありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る