第15話 やっぱり絡まれる悪役令嬢


 入学式、学園長の挨拶、国歌斉唱――


 それら面倒なイベントも、ようやくほとんどが終わった。


 しかし学園長の挨拶ってのは、どうしてあんなに長い上に退屈なんだろうな?


 俺は別にファウスト学園長を舐めてなどいない。

 彼が凄い人物なのは気配でわかる。

 言っていることの重みも理解できる。


 だが、いざ生徒の立場で聞かされるとどうしても眠くなってくるのだ。


 あれは学園長の挨拶という場面に込められた一種の呪いだよ、本当に……。


「ふわ~あ……まだ眠気が……」


 中庭の長椅子に腰掛けながら、豪快にあくびをする俺。


 ……にしても、さっきからやたらと視線を感じるんだよな。


「あれが悪名高いアルバン・オードラン男爵か……」


「聞いたか? なんでも入学前に教師を叩きのめしたんだってよ」


「マウロ公爵の事件もあったし、変に関わらない方がいいわよね……」


 遠くからこちらを見つめ、ヒソヒソと小声で噂話をする生徒たち。


 あーあー、こりゃ警戒されちゃってるな。

 すっかり学園の人気者ってか。


 ま、変に突っかかってこないなら別にかまわないけど。


 この王立学園における、俺の最終目標。

 それは”破滅せずに卒業する”ことだ。

 勿論レティシアと一緒にな。


 未だにファンタジー小説の全容は思い出せないけど、アルバン・オードランは主人公との決闘に敗れて破滅していた。

 これは間違いない。

 

 それで物語から退場&学園から退学&爵位の剥奪というフルコンボを決めていたはず。


 考えるだけでも恐ろしい……。


 でもアルバン破滅のきっかけとなるレティシアとは仲良くなれたし、残る懸念は主人公だけだと思うのだが……。


 その主人公がどんな奴だったか、まだ鮮明に思い出せないんだよなぁ。


 どんな顔してたっけ?

 爵位はなんだったっけ?


 駄目だ、わからん。


 とにかく、トラブルを避けるに越したことはないだろう。


 何事もなく三年間を過ごせるなら、それが一番。


 ……ま、それでも喧嘩を売って来るような輩がいたら――徹底的に叩き潰すがな。


「そういえば、レティシア中々戻ってこないな……。どこまで行ってんだろ」

 

 俺はついさっきまで彼女と一緒にいたのだが、「お花を摘みに行ってくるわ」と言ったきり戻ってこない。


 普通に考えて、近くのトイレに行っただけだと思うのだが。


 ……な~んか、嫌な予感がするな。

 一応見に行くか。

 面倒くさいことになってなきゃいいんだけど……。


 俺は長椅子から立ち上がり、最寄りのトイレまで向かってみる。


 すると――


「やっぱりか……」


 レティシアは、三人の女生徒によって壁際に追い詰められていた。


 親睦を深めてる、って雰囲気でもなさそうな感じ。


「レティシア・バロウ、あなたよくも抜け抜けと学園に出てこられたものね」


「ここには没落した公爵令嬢なんかに居場所はなくてよ?」


「アンタのせいでマウロ様は……! 一体どう責任をとるつもり!?」


 そんな三人の女生徒の言葉を聞いて、やれやれとため息を漏らすレティシア。


「マウロは自業自得よ。それに私がどこにいようと、あなたたちに関係ないでしょう」


「はぁ? こっちはレティシア・バロウが視界に入るだけで不快なのよ」


「そうよそうよ! とっとと学園から出ていきなさい!」


 ――めちゃめちゃレティシアをいびる女生徒たち。


 こいつら、どうしてくれようか。


 言っておくが、俺はレティシア以外の女性に優しくする気などない。


 無論女性には紳士的に対応すべきと心得てはいるが、大事な嫁に危害を加えてくる相手となれば話は別。


 それに俺って悪役だし?

 女に手を上げるのもやぶさかじゃないってゆーか?


 ま、流石にぶつなら顔以外にするけど。


 なんて思いつつ、俺はレティシアを助けに入ろうとする。


 だが――その時だった。


「キミたち、その辺にしておけよ」


 一人の男子生徒が、彼女たちの中に割って入った。


「あ、れ……?」


 一瞬呆気に取られる俺。


 その男子生徒は短い金髪で精悍な顔つきをした、とても印象のいい優男。


 ぶっちゃけ俺よりイケメンかもしれない。


「な、なによあなた……?」


「もうやめろと言ったんだ。三人で寄ってたかって虐めるなんて……キミたちはそれでも貴族か?」


「あ、あなたには関係ないでしょ! どっか行きなさいよ!」


「断る。このまま続けるようなら、こっちもそれ相応の対応を取らせてもらうぞ」


「……フン、もういいわ。行きましょう」


 つまらなそうに去っていく三人組の女生徒たち。


 優男はレティシアの方へ振り向き、


「大丈夫だったか? まったく、意地の悪い生徒もいたものだ」


「い、いえ……。助けてくれて、どうもありがとう……」


「礼には及ばない。オレはただ見過ごせなかっただけさ」


 ちょっとだけレティシアに歩み寄る優男。


 あ、イカン。

 それ以上近付くな。

 なんか嫉妬しちゃいそうだから。


「はい、ストップ」


「え?」


「! アルバン……!」


 急ぎ彼女たちの下へ赴き、二人の間に割って入る俺。


「妻を助けてくれて礼を言うよ、優男。でもそれ以上近付かないでくれ」


「あ、ああ、キミの細君だったのか。これはすまない」


 慌てて距離を取る優男。

 よかった、空気の読める奴だったか。


 貴族社会においては、十六歳の夫婦など珍しくもない。


 故に王立学園に通っている生徒の中にも、既に結婚している者はそれなりにいるはず。


 だから優男も察してくれたのだろう。


 彼は俺の顔をしばらく見ると、


「……! もしかしてキミは――いやあなたはアルバン・オードラン男爵では!?」


 ふと気付いたように優男が聞いてくる。


「? ああ、そうだけど」


「やっぱりだ! あなたは平民・・の中でも特に有名だから、すぐにわかったよ!」


「平民……?」


「あ、ええっと……」


 優男は少し言いづらそうにしたが、


「オレは平民出身なんだ。”名誉試験”を突破して入学したんだよ」


「! へえ、そりゃ凄いな……!」


 ――『マグダラ・ファミリア王立学園』は在学者のほとんどを貴族が占める、超エリート校。


 とはいえ、貴族以外の者でも入学は可能だ。

 

 しかしその場合、実質顔パスで入れる貴族たちとは違い”名誉試験”と呼ばれるものを受けなくてはならない。


 名誉という名の通り頭脳を始め心技体あらゆる側面をテストされ、”平民だが貴族に負けないほどの才能と品格を持つ”ことを証明する必要があるのだとか。


 故に、並外れて優秀でなければまず受からない。

 毎年百名以上の平民が”名誉試験”に挑むそうだが、受かるのは精々二~三名らしい。


 まさに狭き門。

 その代わりに受かれば入学費用や学費が全て免除されるため、平民にとっては憧れの的だと聞いたことがある。


 そんな難しい試験を受かるとは……この優男かなり有能かもしれんな。


 ……ん?

 あれ、だけどなんか、どことなく既視感があるような……?


 それにこの顔も、どこか見覚えがある気がするんだよな……。


 ……待てよ?

 確かファンタジー小説だと、アルバン・オードランと同期で平民出身って――


「あなたは”民を苦しめる公爵の罪を裁いた名君”として、平民の間じゃ語り草なのさ!」


「そ、そうなんだ……。ところで、名前を聞いてもいいか……?」


「ああ、これは失礼!」


 優男は慌てて手を差し出す。


「オレはレオニール・ハイラント。レオって呼んでくれ。どうぞよろしく」


「よ、よろしく……」


 俺は彼の手を握り返した。

 瞬間――ようやく思い出す。


 ”レオニール・ハイラント”


 それはファンタジー小説の主人公の名前だと。


 いずれ、俺を破滅させる男の名前だと。


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