5話 わたしはお城に着く

 お城に着いた時、私はぐったりしていた・・・・

飛行時間は、実質30分ぐらい。

時々意識を失いながら、運ばれたようだ。

記憶が飛んでいる。


 そして窓から、とある部屋に入っていき、ベットに丁寧に下ろされたようだ。

薄目しか開かないが、確認出来る。

言いたい事は山ほどあるが、怒鳴る気力もなければ、一言も発する気力も無い、身動きしたくないのである。


「魔王様、部屋の外に使用人が待機しております」

「少し休まれましたら、お声をおかけ下さい」

「魔王様にお会いしたい部下が山ほどおりますので」


(少し休んでから?会いたい部下?)

(そんなのどうでも良い・・・・)

(ひとまず、このまま寝たい、眠り・・・・・・・)


 とてつもなく疲れている私は、ふわふわと心地よい、ベットの上でモノの数秒で眠りに着いていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ハッ」となって起きたが、一瞬で眠気が醒める。

ここは、魔王のお城のはずだ、そして私は魔王らしい・・・・

どうする?

どれだけ睡眠をとったのか分からないが、外は明るい陽射しが差していた。


 死ぬ前に、そういえば願ったな・・・・

「次の人生は、ブラック企業の下っ端従業員ではなくて、


 コレだよね・・・・願いは叶っている?

正直、嬉しくない。

いやいや・・・・社長令嬢のよう、じゃなくて、魔王って社長じゃん・・・・

偉いだろうけれど。

神様違うよね・・・・間違えちゃってない?

社長令嬢だって、ある意味大変だろうけど、社長と比べると

責任の重さが違う。

魔王なんて、大変そうだし、困った・・・・・


 正直言うと、面倒事は御免だ。

前世は苦労したんだから、もっと楽をして生きたいのだ。

もう起きる出来事が、予測出来る範囲を超えてしまっており、心の準備が出来ないのである。


 でも・・・・待てよ。

魔王って一番偉いんだから(きっと)

部下もいるって言っていたし、私がある意味、会社でいう社長なのだから、

部下に任せて、楽できるんじゃねぇ?

と、急にポディティブに考えが巡ってくる。


「そうだ、任せて楽しもう」

「そうしよう」

「もう、一回死んでいるんだから」

「どうにかなるでしょ」


 前の人生とは違って、何か生き生きとしている自分を客観的に見る。

「何か私ってこんなに、強かったっけ?」

「これが本当の私だったのかなぁ?」

そんな新たな一面をみて、少し今の自分って好きかもとも思える。


「さて、次にやる事は、そう部屋の外に使用人がいるので、

声をかけて、部下に会うんだっけ」


 気がかりは、部下の容姿だ・・・・・

あの外見だけは良い魔族のような姿ならまだいい。

ただグロテスクな魔物がいたら、ご遠慮したい。

正直、トラウマとなっている。


 どうしても、気持ちの葛藤が起きてしまう。

絶対にグロテスクだぜ、気持ち悪いのがワンサカいるぜ、

という悪魔のささやきと

大丈夫だよ、可愛かったりカッコイイ魔族しかいないよ

という天使のささやきの対決である。

うるさく、言い争いをしてしまい、先へ進めなくなるのだ。


「えい、うるさい」

「もう、私に恐いモノは無い、魔王だ」

「世界いち、かわいい容姿の魔王だ」

「私は魔王だ」

「ワハハハハ」

「どうにでもなれ」


 まるで、自己暗示をかけるかのように、何度も何度も言いながら、

気持ちを高めて行く。

そうでもしないと、次の行動が出来ないのだ。 

部屋から、その勢いを維持しつつ、ドアの無い部屋の外に

ヒョコっと顔を出し、

使用人っぽい、緑色をした女性らしい魔族に話かけてみる。


「待たせたな、さぁどうすれば良い」

何となく魔王っぽく、少し声を低くして偉そうに言ってみる。


急に言われた使用人は、ビックリとした表情で、顔をひきつりながら答える。

「ま、魔王様、お目覚めになるのをお待ちしておりました」

「広間に皆を集めますので、もう一度お部屋でお待ちください」

「すぐ、お呼びいたします」


 そういうと、目にも素早いスピードで、まるで飛んでいるかのように

タッタッタッと駆けて行った。


 その様子を見送って、また部屋に入ってベットの上に座ってみる。

あの容姿は、ゴブリンかなぁ。

メイド服のような姿をしていた。

「何か、秋葉原のメイド服のような感じだけれど・・・・・」

「何か・・・・コスプレっぽくないか?」


 何となく、先ほどの使用人の衣装は可愛かった。

そういえば・・・あのタキシード野郎もビシっと決まっていた。


 元から、この世界は、そういう恰好なのか?

もしかして、前魔王の趣味なのか?

わからん・・・・・

今日も朝から、頭を使い過ぎてるぞ・・・・

大丈夫か私。


 いかんいかん。

そんな事より、まずは、部下がいるらしいから・・・・

挨拶をしないといけないよね・・・・

何を挨拶すれば良いの?


 予行練習しておこう。

ここは、偉く見せないと、魔王としての立場が危うくなるかもしれない。

容姿は羊だが、この異世界は、羊が魔王らしいから

見た目とは違うように、恐そうに言わなければ舐められかねない。

初めが肝心だ。


「待たせたな、魔王だ」

「記憶が曖昧で、詳しい事が分からない」

「状況を説明できる者は、説明をするがいい」


 まぁ、これなら良いよね・・・・・・

あとは、ウンウン聞いていればいい、


 閉めに

「理解した」

「皆の者、下がるが良い」

「自分の仕事に戻るが良い」

「必要があれば、呼ぶ」

「解散」


 ええと、こんな感じかなぁ・・・・・・

今、魔族の部下が皆集まってきているはず、

そう思うと、徐々に緊張してくる。


「うぁぁぁ、逃げ出したい」

「何でこんな事になっているの・・・・・」


 そうしている内に部屋の外で声が聞こえてくる。

「魔王様、部下が皆そろいました」

「ご案内いたします」

さきほどの使用人だ。


「ハ、ハイすぐ行きます・・・」

思わず、魔王とは言えないような高い、可愛い声が出たが、すぐさま低い声に言い換える

「わかった、頼む」


 ベットから降りて、大きく一呼吸してから部屋を出て行く。

出入口は筒抜けとなっており、扉が無い。

よくよく考えると、それは、羊の容姿の私専用のようである。

ドアノブをまわしたり、扉をスライドしたりする必要が無いからである。


 先ほどの使用人についていくが、ピョコピョコとしか歩けない。

あまりの緊張で歩き方を忘れてしまい、上手に歩けないのである。


 まず、前後の右足を一緒に前に出して、

次に前後の左足を一緒に前に出しながら歩いている。

よく小学生の時に、緊張して右手と右足を同時に出して歩いてしまう

あれだ。


 自分でも分かっているが、これでしか歩けない。

(もうイイ・・・・もうダメ・・・・・)

そう心で叫びながらも、表情を変えず歩いていく。

鼓動は「ドクドク」と高まっていく。


 使用人の後についていき、螺旋階段を下って行く。

そこそこ歩いているが、かなりの広さのお城だという事が想像つく。


「魔王様がお見えになられました」

金色と赤の大きくて豪華な扉の前にて、大声で、使用人が告げる。


 いままで静かだったのに、一斉に「ドドドドド」と拍手と歓声が沸き起こる。

そう、かなりの人数の部下が待っているが分かる。

10人20人どころではない、100人200人とも思われるぐらいと思われる。

地響きになっている。


 私は、足を震わせながら扉の向こうへ、歩いていく。

(こえーよーーー、何なのこれーーーー)
















 

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