4話 わたしは魔王だった

 空の色は少しオレンジ色になってきて、太陽が沈みつつある。

太陽は1つで、見え方も日本の太陽そのものだ。

2つでもあれば、異世界だと分かるのに。

だから、あの植物や動物に会うまでは分からなかったのだ。


「こんなに歩いているのに、一匹も動物と出会はないのは何?」

「オカシイって・・・・」

「おーい羊たち」

「隠れてるの?」


 もう、2時間ほど歩いている。

だいぶ、嫌気が差してくる。

自分の予定では、すぐさま同族の羊と出会って、

この可愛らして弱弱しい私を演出して、チームに入れてもらい

羊会のアイドルとして、ちやほやされながら、食事は不満だけど、自由気ままに生き始める予定だったのだ。


 一抹の不安もある。

一向に動物らしい生き物がいない。

羊じゃなくても、猫だったり、犬だったり、可愛いリスだったり、

いても良いはずだと思っていたが、正直、不安になってくる。

そもそも・・・・動物がいなかったらどうしよう。

(私ってこの世界では1匹だけ?)


 そんな不安もよぎったが、さらに、オレンジ色が濃くなってきた

空の様子に、現実をどうするかという思考に切り替わる。


「なんて残酷なのかしら・・・・」

「夜、どうするの?これ」

「家も無いし・・・・そこらへんで寝ろっていうの?独りで」

「こんなに可愛らしい私に?」

「絶対に、恐い魔物に襲われるわ」

「初めから、ハードな人生過ぎるわ・・・」

「神様はバカなの?」


 やる事成す事、上手く行かない。

この理不尽さ、もっと楽に生きられるように、してくれなかったのは神だ。

まず、何で人間じゃないのか?

沸々と、怒りが湧き上がる。


 仲間を捜し始めた当初は、人間じゃなくても、こんな可愛い動物として

転生してくれた事に、多少感謝はしていたのだが・・・・・


 この理不尽を味わっているという、怒りの感情をぶつけられる存在は、

神様しかいない。

こうなった原因は・・・・・私に、この異世界で羊として転生させた

神様だからだ。

この気持ちをぶつける事で、気持ちを解消するしか無いのである。


 愚痴りつつ歩いていると、「ストッ」と突然目の前に、人らしい者が降りてきた。

あまりに唐突だったので頭が働かず、何の感情も抱かずトコトコと通り抜けている。


 危ない事は、変な者には無視して敢えて近づかない方が良い。

本能がそう叫ぶのだ。

一切視線を合わせない事も重要だ。

そもそも、今までこの草原で生き物に出会わなかったのに、「人」というのは、

ありえない、それも急に現れたのだ、今は警戒した方が良い。


「魔王様お迎えに参りました」

後ろから声が聞こえたが、人違い、いや羊違いなので、無視して歩く。

ああいう輩は、無視するのが良い。

関わっては、絶対に不幸になる。


 トコトコ歩ていると、上空から、「バサッ」と漆黒色の蝙蝠のような翼を

羽ばたかせながら、先ほどの人が前に降りたつ。

「魔王様、お城にお連れ致します」


 膝を立て、深々と頭を下げて、それはそれは丁寧な口調で話しかけてきた。

もしかして、私に言っているの?

近くにその、「魔王」という人がいて、その人に言っているのかもしれない?

キョロキョロと周りを見渡しても誰もいないのを確認した。


「ひ、人違いです」

「いいえ、魔王様、お迎えに参りました」


 顔を上げたその存在を、まじまじと見ていると、人ではないのが分かる。

ついさっきの翼でも分かったが、

赤い色の瞳、尖った耳、頭からは片方だけ角が生えている。

きっと、魔族なのだろう。

角は片方だけなのでバランスが変で、ついつい視線がいってしまうが

かなりのイケメンで、身長180cmぐらい、タキシードのような服を着ており

細マッチョだという事は、何となく見て分かる。

正直言おう・・・・・タイプだ。


「あのう・・・・私に言ってます?」

もし、話が通じるのであれば、魔王はさておいて

現状困っている、仲間は何処にいる、夜何処に寝れば良い。

という解決に繋がるかもしれない。

コミュニケーションを図ってみる事にした。

会話が出来る事は、ストレス解消にもなる。

イケメンだし。


「私、羊なもので、魔王じゃないです」

「その姿こそ、魔王様です」

とてもさわやかな笑顔でそう答てくれる。


「私のような羊を捜しているのですが、知りませんか?」

「そのような容姿は、魔王様おひとりのみ、なので存じません」

ニコニコと、答える顔が素敵だ。


「私のような容姿の存在は、他にいないって事なんですかね?」

「はい、その容姿であった事で見つけられました」


 衝撃の事実を叩きつけられて、時が止まる。

頭の中で、色んな事をぐるぐる考えすぎて、パンクしてしまい

何もせず、立ち尽くす。


 そんな中、そのイケメンが私の事を背中から「ギュッ」と

がっしりめに抱きかかえたのが分かった。

背中に、イケメンの鍛えあげられている胸が、がっしりと当たり

思わず、鼓動が早くなる、恥ずかしくなってくるのが分かる。


「ひぃぃ何してるんですか!」

「お城にお連れ致します」


 そんな乙女のドキドキは一瞬にして地獄へと変わる。

思いもよらないスピードで、天高く雲の上まで上がって行き、

強風の中、結構なスピードで飛んでいく。

私は、高所恐怖症なのだ・・・・・


「ひぃぃ高い、それとスピードが出過ぎです」

「早く、お連れしたいので、しばし我慢下さい」


「高い所が苦手なんです」

「なら、急ぎますね」


 いやいや、そういう事ではない。

何故、低く飛ぼうとしない。

(低く飛んでくれない)


「低く!低く!」

「見つかると困るので、ご了承下さい。」


 そう言うと、さらにスピードをひと段階上げて飛んでいく。

私は諦める事にした、目を閉じて、無になる


 どうやら私は魔王らしい。




































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