2話 わたしは羊

 森の中に入ると、獣道と呼ばれる歩きやすい道を進んで行く。

野生動物がいつも通っているので、草木が生えづらかったり

少ししか生えていない、歩きやすい道を進んで行く。


30分ほど歩いてみて、少し分かってきた事がある。

今までの人生で見たコトのない形態の草花が咲いていたり、

動物も見かけるのだ。


「わぁ、綺麗、匂いは? 凄い甘い香り。何だこの大きいの・・・・・」

青色の透き通った花だったり、顔ほどの巨大なクローバー


「わぁ、びっくりした。リス・・・・では無いな?」

ササっと木から降りてきた動物が、自分の目の前を横切る。

一瞬、こちらに振り向いて、そそくさとまるで逃げるように生い茂った草に

入っていった。

小型の動物らしいが、色がオレンジと黒の縞模様で毒々しく感じる。

リスとの大きな違いは、口で、くちばしがあって尖っている。

あまり可愛いとは思えない。


「これは地球じゃないな・・・・間違いなく異世界だな」

そう思いながら・・・・自分の容姿がさらに気になってきた。


(流石に可愛いでしょう私? 可愛くなかったらテンション下がるわ・・・・)

そんなふと、自分の心の声を聞いて

もう人間じゃないのを受けれている自分を、なんか可笑しく感じながら

歩いていく。


 それからしばらく歩くと、川のせせらぎが遠くから聞こえてくるのが分かった。

「やった、助かった」

動物だからか、長らく歩いてはいるが、疲れは少なく足早にその音を頼りに

進んで行く。


 到着すると、急いで水を飲む。

見るからに透き通った綺麗な水。

「ごくごく、ごくごく、ゴホッゴホッ、ごくごくごく」


 慌てて飲んだ為、むせながらも、飲むコトは止めず

無心となって満足するまで飲む。


「あぁ、生き返った」

落ち着きながら、顔を見ようとしたが、水の透明感がありすぎて反射せず自分が映らない。


「あそこ、水が溜まっているな、映るかも」

周りを見渡すと近くに、丁度、雨水がたまっている、ため池がある

そこで、自分の顔を映してみようと、近づいていく。


今度は映りそうだ。ゆっくりとため池をのぞき込む。

「あっ、可愛い。これが私なのね」


 そこには、キュートな子羊の顔が映っている。

特徴としては・・・・それはそれは立派な巻角が付いている。

色は黒で、キラキラと日の光が当たる度に金色に光輝く。

お目目はクリクリ、生き生きとしている。

角は、ぐるんと、後ろから前に曲がっており、顔の3分の1を占めるほど大きい。

横向きで見ると、まん丸でモコモコの様子が分かる。


「少し安心した。たしかに可愛い、願いは叶った」

などと、不思議と満足している自分がいる。


 そんな時に、水面がガバっと波立ち、一瞬の内に

視界が真っ黒になった。

「何が起こったの?何、何」

魔物が、子羊の私を食べようとして、くわえたのだ。


 丁度、顔だけを挟んで、ガブガブしながら、沼に引きずりこもうとしているが、

まったくビクともしないようで、魔物が、困惑しているようでもある。

何故、困惑しているのが分かるのかというと、声が聞こえるのである。


「食えん・・・・硬い・・・・重い・・・・」

「んんんん・・・・食えん・・・・」


 そんな声を聞きながら、ガブガブが1分間ほど続く。

「ハハハ、少しくすぐったいが、これは食われているよな・・・・・」

その間、冷静になりながら、分析していた。


 そう、本人は甘噛みをされているとしか思えず、

引っ張られている感じがするが、弱く、力を入れずただ立っているだけである。

(私は特殊なのか?何なのだ?)

この可愛い私を食べようとしている事に、怒りが沸々と湧いてきた。


 この状態の間々いても、らちが明かないので、ガブッと噛まれた瞬間に、

身体をひねって、沼から引き釣り出す。

「おりゃ、何してんだこのぉ」


 そうすると、スポッと噛んでいた魔物が天高く10mほど一気に上がり、

ゆっくりと落ちて行く。

「ドサッ」という音と共に「グァ」という声が響く。


 その瞬間、私は驚いて時が止まる。

「何て、頑丈で力持ちなの私・・・・・」

「やっつけた?死んだ?」


 恐る恐る、伸びている魔物を見ると、

何とワニのようだが、目が5つもある。

全部白目を向いている。

こげ茶色でどす黒く、ゴツゴツしている。

全長3mもあり、顔と口が異様に大きい。

口から泡を吹いており、ゴフゴフ言っている。

身体の半分を顔が占めており、見るからに魔物だった。


「ひぇ、気持ち悪い、恐い、ムリ」

人は、誰でも初めて見るモノは恐かったりする。

流石に心が折れ、探索どころではなくなり、

今きた道を戻る事にした。


「羊なんだから、やっぱり草原が住まいだよね・・・・」

「そうだよね・・・・森の中にはいないよね・・・・」

そう自分に言い聞かせ、少し涙ぐみながら

初めて起きた場所に戻る為に歩きだした。

























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