1話 わたしは動物
ハッと気づいて、ゆっくりと目を開けて周りを見渡した。
「草っぱ・・・・ここ、どこぉ」
視線には、緑に覆われた草木が一面にあった。
その奥には、森なのであろう、大きな木々がひしめきあっているのが
分かる。
「何だ、夢か?」
見慣れない風景が飛び込んできたからだ。
通常起きた時は、家のベットの上で天上を見る。
職場なら、いつもデスクに伏せて寝ているので、
職場の風景が映るのだ。
「じゃぁ、また寝よう・・・・・」
「いや・・・・・変だ、違う違う違う」
夢かもしれないという思いもあるが、
感覚が、現実だと伝えているのが分かる。
今、横になっている為に、痛くは無いが草木が身体にチクチク当たっている感触もすれば、草木の青々しい匂いもする。
どうやら、現実らしいという事を
徐々に脳が冴えてきて、気付き始めている。
「ひとまず冷静に・・・・冷静に・・・・・」
現状把握をしていく。
まずは、自分の身体の状況である。
「ハハハハハハ」
あまりにも現実離れし過ぎると、驚けない。
ある意味、笑ってしまう物だと初めて知った。
何と毛深い、真っ白で綺麗な毛で身体が覆われているのが分かる。
パツパツでモコモコである。
つまり、動物らしい、服を着ていない。
気持ちは女なのだが・・・・・性別は分からない。
大きさは、小さい気がする。
中型犬くらいだろうか?
昔、柴犬を飼っていた事があって、柴犬の目線で良く遊んでいた。
それに視線が近い気がする。
手が足なのだ・・・・・蹄(ひづめ)がある。
指が使えない、握れない。
現状、フォルムからして羊っぽい気がするが、全容が見れないし分からない。
「はぁ・・・・そうなのだね」
何より、立った時に4本足の安定感と、視線の低さに、思わず
人間ではないという証拠を叩きつけられたのだ。
場所について、考察してみる。
周りをみても、草っぱだらけで、現状何も無いので分からないのである。
「まぁ地球のようだけれど、日本なのか」
「良く死んだ後に転生される異世界なのか・・・・分からん」
のちのち分かるだろうという結論を出す。
次に、こうなった経緯を思い出してみる。
「たしか・・・・車に跳ねられて死んだな・・・・・」
「その死ぬ間際に、神様にお願いして・・・・」
死んだ状況は詳しく思い出せる。
たしか、こんなお願いをしたような・・・・・
「次の人生は、ブラック企業の下っ端従業員ではなくて、初めから社長令嬢のような
偉い身分で生まれたい」
「もっと可愛い容姿に生れたい」
「今のような自分ではなく、違う自分に変わりたい」
私は気づいてしまった。
「あっやっちまった・・・・・・・」
『もっと可愛らしい容姿に生まれたい』
「コレかぁ・・・・顔は見えないけれど、コレかぁぁぁぁぁ・・・・」
たしかに・・・・このフォルムから想像すると、可愛い気がする。
どうやら、神様は、願い事を叶えてくれたらしい。
「たしかに、自分ではなく、違う自分だ・・・・」
これも当てはまる。
「神様・・・・普通、人間へ転生する物でしょう?」
「ん・・・もしかして違うのか?」
「まぁ、しょうがない。」
心清い学生であれば、この状態を泣き、悲しむのが常だと思うが
28歳にもなれば、こんな状況を認めて、生きて行くにはどうするかを
考える冷静さも生まれる。
「食い物と住処(すみか)だな」
気持ちの切り替えは嫌でも上手になる物だ。
「遅くまで働く必要も無いし、まぁ生き返ったらしいから、
この状態で、少しでも楽しく生きられるようにしよう。」
そう決めつつ。
「私は可愛いよな?」
目で見れる範囲で、自分の身体の丸っこくて、触りたくなるようなフワフワの
真っ白い毛を見ながら、独り言をつぶやく。
「まずは、顔を見よう・・・・見てみたい」
「のども乾いたし、綺麗な水辺を探そう」
周りを見渡しても、人や動物がいる雰囲気が無いのである。
「同族も見つけよう、その方が上手に生きられるはずだ」
奥に見える森林の中に、ひとまず水辺があるかもしれない。
足の歩みは、強くないものの
「まぁ、一回死んだのだから、恐い物も無いよね」
そう自分に言い聞かせながら、いそいそと森林に入って行った。
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