私と、Misskey.io中央公園の話

 Misskey.ioのローカルタイムラインの表通りから離れて、ストロングゼロを買ってきて、すこし歩いたところにある中央公園のベンチに座っている。ビリジアンの木々が夜風と囁き合っているのを聞き流しながら、ストゼロを啜って、トンカツをソースもつけずに頬張る。周りに人はほとんどいない。居てもベンチで寝ているか睦み合うかしていて、こちらを振り向くものなどいない。

 碧色の空を見上げると、いつものエメラルドの月は今日は新月で、そのかわり小さな星々がきらきらと輝いているのが見える。Misskey.ioの空に浮かぶ星座の名前を私は知らない。いっそ自分勝手に名付けてでもしまおうかと思ったとき、星の一つがゆっくりと降ってくるのが見て取れた。流れ星にしては遅い、UFOにしてはただ降ってくるのみで意志が見えない、そんなことを考えている間に、星は私の目の前に落ちてきた。とても小さい、手のひらに乗るほどの、いまにも消えそうな、幼い星。

 ベンチから立ち上がって、ふらつく足取りで近づいて、その幼い星を拾い上げる。Misskey.ioの空に輝く星々と同じくグリーンの、しかし今にも泣きそうな光だった。星は星として生まれた時に母を無くして独りで輝くことになる。その悲しみを宿命的に背負った星の、まだ大人になり切れていない光。Misskey.ioのミスキストの多くも幼い精神を捨てられぬまま世間に放たれて彷徨う歪な存在だ。私はこの手のひらの中の星もミスキストも愛おしい。

 この幼い星の写真を撮ってノートにする気にはなれない。なんだかそんなことをしたら光が消えてしまいそうだったから。かといって碧色の空に戻す方法が分からない。検索しても望遠鏡の広告ばかり出てきてちっとも役に立たない。Misskeyで情報を求めたほうがいいのだろうか。

 公園の木々の囁き合いに耳を澄ます。風が知っている、風に訊けという。私は風の話す言語を知らない。そういえばMisskey.ioに吹く風は他の場所と同じ風なのだろうか。.designや.artなどのサーバーやMastodonなどと同じ風なのだとしたら、風は互いの街を行き来してそこにある木々の花粉を運び、身を成す助けをしていることになる。だとしたら、それぞれの場所にいる人々をつなぐものが言葉であるとして、風こそ言葉そのものなのではないか。そうか、何も難しく考えず、風に話しかければよいのだ。

「こんばんは。この手の中の幼い星を、どうやって夜空に帰してあげればいいかな」

 そう訊くと、しゅるり、と私の周りにつむじ風が巻いて、手元の幼い星が空高く舞い上がった。涙のような光が尾を引いて上昇し、私の真上の遠い空でふたたび、六等星になった。

 それでいい。私はストゼロをぐいと喉に傾けて、深呼吸をして、ベンチにのけぞりながら、碧色の星空を、その夜はずっと見上げていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る