第5話 花火大会当日

 花火大会当日。約束の時間は六時なのに、私は昼頃からそわそわしていた。


 浴衣着て行こうかな、あーでも、みんな私服だったら浮いちゃうしな。

 あれ? そーいえば誰が来るんだろう? 

 あぁ、もっといろいろ聞いておけばよかった! 


 そんなことをグルグルと考えては、そわそわ、そわそわ。




 結局、私服で行くことに決めて、そしたら今度はどの服を着ていくかに悩んで。

 あーでもない、こーでもない。




 服装が決まったら次は髪型。やっぱり花火大会なんだから、アップがいいかな、と思ったものの、普段やり慣れてないからSNSでヘアアレンジを調べては悪戦苦闘。




 そうして着替えとヘアアレンジが済んでからは、変なところはないかと何回も鏡の前でくるくる、くるくる。


 服装は、これでいいよね? スカート丈、こんなもんだよね? 髪は乱れてないかな、後ろ姿は大丈夫?


 何度も鏡とにらめっこした。




 そして。




 林間学校の時に渡せなかったキーホルダーが入った袋を、両手で持って見つめる。


 よし! 今日こそは渡すんだっ! って……心の中で決意する。


 袋を持つ手に、自然と力が入る。何度も渡そうとしているうちに、ずいぶん袋もくたびれてしまった。




 結局落ち着かなくて、早めに家を出た。


 約束の時間の三十分も早く着いたけど、花火大会の日だから駅前はすごくごった返してて、待ち合わせのコンビニもお客さんがいっぱいいて、中で時間を潰せるような雰囲気じゃなくて、ただただ、人の往来を見つめながら、みんなが来るのを待っていた。



 その間も落ち着かなくて、何度もポケットに手を入れては、そっと袋を確認する。 


 約束の十分前くらいになって、同じクラスの女の子が来て、一緒に花火大会に行くメンバーだと知った。その子はピンクの浴衣に、美容院でセットしてもらったアップヘアで、いつもと違う姿がすごく、輝いて見えて。私も浴衣で来たら良かったなぁなんて思いながら、彼が来るのをそわそわと待った。




 だんだんと、メンバーが集まってくる。


 ひとり増えるたびに、約束の時間に近づくたびに、私の心臓は、どんどん、どんどん跳ね上がってきて、どんどん、どんどん、息苦しくなって、けれど彼に会いたくて、どんどん増える人ごみの中を、目を凝らしてずっと探していた。




――けれど。




 その日、約束の場所に……彼は現れなかった。

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