第6話 花火大会と、彼との別れ

 待ち合わせに集まったのは、私を含めて女の子が三人、男の子が二人。彼だけが来ていない。


 すると、一番最後に来た彼の親友の凌馬りょうま君が、私が聞くより先に話しはじめた。


「優星のやつ、急に来れなくなったんだってさ……」


 普段は明るい子なのに、その声はいつもより低いトーンで。


 私の心の中に、ズドンと黒い何かが落ちた。


 なんだ……彼は来ないんだ……。そう思うと、急にドキドキしていた気持ちも、わくわくしていた気持ちもすべてが暗闇に包まれて、目の前を行きかう人たちが灰のように見えた。


 そんな私を察したのか、凌馬君はそっと私に話しかけた。


「笹原、優星がごめんなって言ってた。優星、今日すごく楽しみにしてたんだ。だから、責めないでやってくれよな。優星いないけど、俺らでめいいっぱい楽しもうぜっ!」


 語尾を明るくして励ましてくれる凌馬君に、


「うん!」


 私は精一杯明るく答えた。明るくしていないと、泣いてしまいそうだった。だから、集まったみんなとも精一杯の笑顔で花火大会を楽しんだ。……フリをした。


 内心は……悲しかった。寂しかった。来ないとわかってるくせに、人混みの中に彼の姿を探していた。


 私以外の女の子二人は可愛い浴衣姿で、そこに来てた男の子達とそれぞれ両思いなんだろうなぁって感じで。なんだか私だけが取り残されているような、切ない気持ちで、もしかしたら私も、その子たちみたいに笑ってたかもしれないのに、と、少し期待していた自分に気付いて、虚しくなった。



 その日の夜空は、どんよりとした雲がかかっていて、やる気のなさそうな風が時々吹くくらいで、雲も花火の煙も、いつまでもそこにふてぶてしく居座っていて、ほとんど星は見えなくて。それはまるで、私の心模様のようだった……。





 ――結局、林間学校の最終日が、彼と会った最後だった。




 夏休み中、彼が立ち寄りそうなところに行ってみたけど……彼の姿はなくて。

 始業式の日も、今日こそはと気合いを入れていたけど、……来なかった。



 彼は、急に決まったお父さんの転勤で、夏休み中に引っ越してしまっていた。


 そのことを残念そうにみんなに告げる担任の先生の顔を、私はただ、よどんだ水の中から空を見上げるような気持ちで、眺めていた――

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