第3話 流れ星と、キーホルダー


 ベンチに座って、二人揃って星空を見上げる。


 頂上に近い山の真夜中なだけあって、掴めそうなほど大きく光る星。その瞬く星々が一面に散りばめられた空は、目を奪われるほどにすごくすごく……綺麗だった。


「うわぁー綺麗……」


 思わず漏れる私の声に、彼も声はなく微笑んだ。



 しばらく無言のまま星空に見惚れる。それは普段見慣れているそれの何倍も綺麗で、私の心臓も、普段の何倍も速くて。だけど彼の隣にいることは……すごく、落ち着くような、不思議な感覚。


 このまま、ふたりが座るベンチがふわっと浮いて、そのまま星空に吸い込まれてしまいそうな、そんな感覚になった。その時。



「あ!」



 流れ星が瞬いた。

 


「ねぇ! 今の、見た⁉ 流れ星だったよねっ」


 思わず声を弾ませる私の顔を、彼はまっすぐ見つめて微笑んだ。


「うん。笹原来る前から、何回か見てる」



 あんまりにもまっすぐな瞳で微笑むから、少し……照れた。



「あ……そ、そうなんだっ。なにか願い事……した?」


 俯きがちにそう言う私に、彼は答えた。


「うん。した。願い事。そしたら、叶った」




「え? もう叶ったの?」


「うん。好きなやつと……一緒にこの星空を見られたらいいなぁって。そしたら、笹原が来た」


「え……⁉」




 それってどういう意味……そう聞こうとした時、彼がパーカーのポケットから何かを取り出しながら話し始めた。


「あのさぁ……笹原。お前……こないだ誕生日だっただろ? これ、ここの売店で見つけたんだ。可愛かったから、やる」



「え? あ、ありがと……」



 小さなお土産袋に入ったそれ。ずっとポケットに入れてたのか、袋は少し、くたびれていた。


「あ……迷惑だったら、捨ててくれていいからっ」


 彼が伏目がちにそう言った時、ピューッと風が通り過ぎた。初夏とはいえ、山中の真夜中はやっぱり肌寒い。私が思わず身をすくめた時、彼は自分のパーカーに一瞬手をかけてから、その手を降ろして、


「あ……風が出てきたな。そろそろ中に……入ろっか」


 そう言うから、


「あ、うん……」


 私もそう答えて、ペンションの中に戻った。




 男性用のフロアと女性用のフロアの分かれ道、


「じゃあな、笹原。また明日。おやすみ」


「あ、うん。おやすみなさい」



 彼とあいさつを交わした後。私は部屋に戻って行く彼の背中を少しの間見つめてから、自分の部屋へと戻った。


 そして、彼との会話を思い出してまたドキドキとしながら、彼がくれた紙袋を開けてみた。


 そこに入っていたのは、私の誕生石——赤いルビーがついたキーホルダー。




「これ……」




……寝る前に友達が話していた、このペンションにまつわる恋のジンクスを思い出して、さらに胸がドキドキした。



“ここのペンションオリジナルの誕生石の入ったキーホルダーね、恋のお守りになるんだって。好きな人と互いに贈り合えたら、その恋は、ずーっと続くらしいよ”



 彼がそのジンクスを知っていたかどうかはわからない。


 けど……私はその夜、胸が高鳴り過ぎて眠れなかった――。

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