第2話 林間学校の夜
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「ねぇねぇ、じゃあさ、次は……詩織の好きな人教えてよっ」
小学五年の林間学校の夜。私は友達と枕を寄せ合って、恋の話で盛り上がっていた。
「えー? 恥ずかしいから内緒!」
当時の私は好きな人が誰だかなんて、恥ずかしくて友達に言えないでいた。
すると、話はそのまま宿泊先のペンションのうわさ話になった。
「あ、ねぇねぇ、知ってる? このペンションてね、毎年七夕の夜に宿泊客みんな浴衣になって、ペンションの裏にある笹林に飾り付けをして、七夕祭りをするんだって!」
「えーそうなんだ! ステキ!」
「でねでね、この、空に近い山の頂上でそうやってみんなでお祭りをするから、夜空にいる織姫様と彦星様も、楽しそうなみんなにつられてこっそり七夕祭りに参加して行くんだって! そして楽しんだお礼に、みんなの願いを叶えていってくれるらしいよ」
「うわぁーロマンチックー」
当時の私は、その友達の話に夢中で聞き入った。
だからこのペンションには両思いのご利益があるとか、別れた人と再会出来るとか、たくさんの恋のジンクスがある事を聞いた。
盛り上がった会話の後、すっかり部屋にはみんなの寝息が響き渡った。
けれど私はなんとなく目が覚めて眠れなくて……ふと夜空を見上げたくなって、ペンションのデッキに向かった。
本当は夜間の外出は禁止されてたけど、林間学校の開放感のせいかな、私はいつもなら気にするそれを気にせずデッキへと向かったんだ。
そーっと、静かにデッキに続く扉を開ける。するとそこにはすでにひとりの先客がいて、白いベンチに座りながら夜空を見上げていた。
「……あ」
思わず漏れた私の声に、その先客が驚いたように振り向いた。
「あ、れぇ? 笹原?」
外灯に照らされる彼の顔とその声に、ドキリと私の胸が跳ねた。
……振り向いたその人は、私の片思いの相手――
「あ……えと、なんとなく、眠れなくて」
小さな声で答えた私に、彼は
「ふーん。そーなんだ。知ってる? 夜間の外出は、禁止されてるんだぞ」
そんなことを言う。
「えっ。あ、ごっごめんなさいっ」
思わず顔を伏せて反射的に謝る私に、
「なーんてなっ。俺だって同罪。星が綺麗だなーって、眺めてたんだ」
そう言って、イタズラっ子みたいに笑った。
街灯と星空に照らされる彼のその笑顔に、いつも以上にドキドキする胸を抑えながら
「あはは。そっか。私も……星が見たいなぁって思って来たんだ」
そう言うと
「そっか。隣……座る?」
彼は、ベンチの端に寄って、空いたスペースの汚れを払ってくれた。
え、隣?
私は好きな人の隣に座るなんて少し照れ臭かったけど、彼のその行為に、「あ、ありがと……」と、反射的に答えて彼の隣に座った。
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