【完結】星空と、初恋と、そして――

空豆 空(そらまめくう)

第1話 初恋と、キーホルダー

「えっと……スマホの位置はここでいいかな、ちゃんと全身映ってる……よね?」


「よしよし、OK! じゃあ、はじめよかな!」


――1・2・3・GO‼


 カウントダウンと共に、私はスマホに笑顔を向けて勢いよく踊り出した。

 ダンスは子どもの頃から習っているけど、動画投稿は高校生になってからはじめた。


 普段おとなしい私でも、自己表現出来る感じが好き。



 ほんの一分ほどの動画。

 何回も撮り直しする。

 

 うんうん、今回はいい感じ!

 よし、もうすぐ曲が終わる。そう思った時。



「詩織ー。入るわよー」


 間の悪い母親が、私の部屋のドアを開けた。




「もぉーお母さん、入るわよーって……入って来てんじゃん。

邪魔しないでよ、今動画撮ってるんだから!」


「え? 動画? あんたまた動画サイトにそんなの載せてるの? そんな事よりもうすぐ夏休みでしょ。学校から荷物いっぱい持って帰って来る前に、部屋の整理しておきなさい」




――母親はいつもこうだ。少しは思春期の子どもの気持ちとかプライバシーってものを考えて欲しい。


「……はーい」


 私が不機嫌な返事をすると、母親はため息をついて部屋から出て行った。




 別に母親を嫌いなわけじゃないけど、私の夢中になっていることを“そんな事” 呼ばわりするのはやめて欲しい。


 あーあ。最近フォロワーさんも少しだけ増えてきて、新作撮る気満々だったのに。

なんかしらけちゃった。



 私はぶつぶつと文句を言いながらスタンドから撮影用に固定していたスマホを取り外すと、おとなしくクローゼットの整理をすることにした。




 気乗りせずにはじめた整理だったけど、クローゼットの中から小さな頃の思い出箱を見つけてふと手が止まる。


「あれ? 懐かしいな! あーこれ、理央たちと撮ったプリクラじゃんー」


 こういうの、片付けあるあるなんだろうな。私は整理そっちのけで懐かしい物たちを眺めて物思いにふけりだした。




 そして、その中からひときわ私の胸をトクンと跳ねるさせるものを見つけた。


「……これ、結局渡せなかったんだよね……」


 それは、星をモチーフにした私の誕生石入りのキーホルダーと、開封される事なくくたびれた小さな紙袋。




 ……紙袋の中には、九月の誕生石入りのキーホルダーが入っている。 


 


  私の中に蘇る、甘くて切ない初恋の記憶。


「もう、渡すこともないし、両方つけちゃおうかな!」


 私は役目が果たされることがなかったその紙袋を開けて、二つのキーホルダーをカバンに付けた。


 久しぶりに光をまとったその赤い石と青い石は、キラキラと人知れず輝いた。


――――――――――――――――――――――――――――――

ぜひ3話まで読んでみてください…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る