第2話
「アレ○サ、ショパンの
ピアノは子供の頃に習ったことがある。
この前奏曲も練習したことがあるので、何となく口ずさんでしまう。
ボウルは一つしかないので、ラーメン丼を出した。
朝、スムージーを作る時に使ったブレンダーが出しっぱなしになっているので、ホイッパーのアタッチメントを取り付ける。
生クリームを丼に入れて、ホイッパーで泡立て始める。
八分立てにしたら、半量程さっきのボウルに移してスパチュラでかき混ぜる。よく混ざったら残りも混ぜる。
焼き上がったタルト生地にフロマージュフィリングを流し込み、ふんわりとラップをかけて冷蔵庫に入れた時は、胃薬のCMでお馴染みの曲が流れた。
あとは固まるまで二、三時間置く。
使った調理器具を洗ってから、日焼け止めを塗り、髪を梳かす。
クローゼットからコートを出して羽織り、ポケットに財布とスマホ、内ポケットには鍵を入れてマンションの部屋を出た。
急須を買いに行くのだ。
いつもは三角のパックに入ったものを飲んでいるのだが、取引先の製茶工場が社内販売に来た時に袋入りのものを買ってしまった。
付き合いもあるのだが、煎れる道具がないことに気づいたのは帰宅してからだった。
なので今日、タルトが固まるまでの間に買いに行くことにしたのだ。
日差しは強いのに、山から吹き下りてくる風はどこか湿気を帯びて震え上がる程冷たく、肩を竦めた。
大きな通りに出ると、遥かに雪を被った山が見える。
土曜日なので、観光客などでいつもより人通りが多い。
その時、遠くから金管楽器の演奏が聞こえてきた。
ロベルト・シュトルツ作曲の『国連行進曲(UNO-Marsch)』だ。
そういえば、今日と明日はお城の桜祭りが開催されると、支店内で話題になっていた。
以前、お城の花見は社内の恒例行事だったようだが、今の支店長が時間外や休日まで会社の縛りを強いるのは良くない、と去年から取りやめになったそうだ。
なので、行きたい人だけ、あくまで個人で行くようにと先日朝礼で命令が出た。
そういう行事には参加しなくてはならないのは義務だと思って覚悟していたが、上が公私の区別をきっちりつける人なので助かった。
そのお陰で、こうして一人気ままに散歩がてら買い物に来れるのだから。
行進曲を聞きながら、道を曲がって大通りから閑静な裏通りに入った。
昔ながらの商店街を進み、お茶屋さんの前で緑茶の香りに誘われた。
本当なら商店街の先にある大型スーパーで買おうと思っていたのだが、何となく足を止めてしまった。
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