最近アイツの部屋にアタシの生霊が出るらしい
錫木
第1話
思わず画面を二度見するほど珍しい、アイツからの電話。生きてるか?なんて失礼な言い方にかろうじてね、なんて返して。半年ぶりに会うアイツは相変わらず自信に溢れていて。
笑うと目尻に寄るシワが愛おしくて、酷く憎たらしかった。
「俺さぁ、昨日もお前見たんだよ」
3杯目のハイボールを一口飲んでアイツが言う。
「は? どこで?」
「俺んち」
「もう酔ったの? 弱くなった?」
「違ぇよ。マジな話。」
何を言ってるのかわからない。私が最後にコイツの家に行ったのは3年も前で、コイツはしとどに酔っ払って私にキスをして、そんで寝た。忘れるわけがない。
「行ってないけど」
「でもいるんだよなぁ、お前。多分さ、生霊ってやつだよ」
「……やっぱ酔ってるよアンタ。今日は早めに帰れば?」
「家にいるとさ、なんか視界の隅に入るんだよ。気のせいかなーって思って寝るんだけど
、夜中目が覚める。目を開けるとお前がじーっと俺の顔覗き込んでんの。最初はマジビビったよね。お前死んだかと思って電話しちゃった」
「それで生きてる? なわけね。っつーかそれ夢じゃん? 出演料取るよ」
「それがさぁ、毎日なんだよ。段々寝てるときじゃなくても見えるようになってきてさ。部屋の隅でじーっとこっち見てんの。なぁ、お前俺のこと恨んでたりする?」
「馬鹿じゃん。そんなに恨んでたらとっくに刺してるっつーの」
「それな。でも絶対お前なんだよ。昨日は真っ赤なニットにグレーのタイトスカート履いてさ。」
どきりとする。それは確かに私が昨日着ていたコーデだ。インスタにも上げてない、おニューのニット。
高校の同級生、ずっと好きな男の家に私の生霊は出るらしい。
馬鹿みたい。ほんとに私なら見たもの全部共有しろよ。
私といないときのアイツ。仕事が終わって1人でビール飲みながらYouTube見てるアイツの姿、私にも見せてよ。
っつーか私の生霊なら酔っ払ったアイツを襲うくらいしてみろよ。
いや無理か、アタシだもんね。
あの日私にキスをして、そのまま寝たアイツを襲えなかった私にそっくりな私の生霊。
10年も見てるだけで満足してる私にそっくりな意気地無しの生霊だ。
「お前さ、いつまでそんな格好してんの?俺らもう三十路よ?」
「アタシはアタシのために好きな格好してんの。歳とか関係ない。」
男っていつもそう。メイクとすっぴんに差があっちゃいけない。ネイルはベージュかピンクまで。服は年相応に。だけどスタイルはキープして、たまに自分だけのためにエロい格好もして。シワもシミもあっちゃいけないけど、風呂上がりいつまでも美容液を塗りこんでるババアに価値は無いって思ってる。
女のメイクもネイルもファッションも、全部自分のためだって思い込んでる。
またアイツからの連絡。昨日さ、お前の生霊スーって目の前で消えたんだよ。
何したと思う?
ナンパした女の子と部屋でヤってたら消えたんだよ。表情も変えずにさ。
幽霊がエロいこと苦手って聞くけどマジなのな。
クソッタレ私の生霊は根性なしだ。
私ならアイツの射精する顔をまじまじと見ててやるのに。
六条御息所みたいに、アイツが連れ込んだ女のこと祟り殺せれば良いのに。
いや、そんなチカラがあったら先に殺すのはアイツだけど。
最近さ、お前の生霊段々近づいてくるんだよ。俺ってお前に取り憑かれてるわけ?
やっぱ目の前でセックスしたから怒ってんのかな?
なぁ、何とかしてくれよ。だってお前の生霊だろ?
結婚とか無理だよなあ。お前の生霊が家にいるだけでストレスなのに、生きた女となんて暮らせねぇよ。
お前さ、髪切れよ。部屋にお前の髪の毛落ちてて彼女に怒られたんだよ。浮気相手家に連れ込むわけねぇのにさ。
昨日さ、酔っ払っててムラムラしてさ。お前の生霊押し倒したんだよな。ウケるだろ?霊なのに触れんだよ。
そしたらさ、ついてたよやっぱ。霊でもお前はお前なんだな。
それ見たら萎えちゃってさ、お前の生霊消えちゃったわ。
ガッデムファッキンアタシの生霊。
霊なら姿くらい好きに変えて見せろ。
最近アイツの部屋にアタシの生霊が出るらしい 錫木 @juca7188
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