24:森の部族の宴

 シャドウエルフはあまり出歩かないことを条件に、私たちに四人に部屋を一つ貸してくれた。つまり、部屋貸してやるから宴まで大人しく待ってな。いいか、ウロウロすんじゃねーぞって言うのを好意的に言われたっぽいかな?


「ところでチィ。なぜそんなに緑竜に会いたいんだ」

「んー、竜に会いたいっていうより、あっちの方の魔力が異様に高いような気がしてるんだよね」

 高位の竜が棲むので魔力が高いのか、魔力が高いから竜が棲むのか。

 まぁなんにしろ、八割のここよりも高いと言うことはマジで期待してもいいんじゃないかなぁ~と思ってるわ。


「危ないことはやめてくれよ」

「善処するわ」

 そう返してみたら、『こいつやるな……』と言う諦めの視線が返ってきた。

 私は心の中で謝っておく。

 ここで帰れるかも~と思えば、多少の無茶だってするよね?



 宴まではまだ時間があるので部屋でしばし休憩だ。

 宴は夕刻、しかし今の時刻は昼中くらいでまだ外は明るく、部屋から出るなと言われているのだからやることは一つ。

 前に遺跡で手に入れた鉱石の実験だよねー


 腰を落ち着けて、カバンから鉱石を取り出した私を見てソフィアが、

「驚いた。あんたはすぐに行くと思っていたよ」

 と、不思議そうに呟いた。

「普通は暗くなってからでしょ」

 魔法はあるけれど、こんな日中に忍び込むなんて『どうぞ見つけてください』と言っているようなものじゃないか。

「ハァ……。僕は行かないと言って欲しかったよ」

「行くよ。絶対に行くからー」

「念を押されても困る。本当に緑竜が襲ってきたらどうする?」

「魔法で数秒耐えられれば【転移の魔法陣】の動作は終わるわよ」

「それは発動することが前提だろう。魔法陣が動かなかったらどうするんだ」

「逃げる方が楽でいいわね」

 倒すよりはとはもちろん言わない。

「逃がしてくれるだろうか」

「頭の固いトカゲみたいだしイケるんじゃない。

 そうそう、実験は私だけで行くから、みんなは来なくていいわよ」

「えっ?」

「だから、ここに【転移の魔法陣】を置いておくわ。

 だから成功したらここに戻ってくるからね。今度はもう一度みんなで行って正式に帰りましょう」

「怒っている竜を二度も出し抜けると本気で思ってるのか?」

「まぁ大丈夫でしょ。なるようになるっていうじゃない」

 妹を無事に帰すためならそのくらいはやって見せるわよ……







 宴の準備が終わったと言われて村の中心にある広場へ案内された。

 広場にはテーブルが数個運び込まれていて、その上には料理が盛られた大きな木の皿がいくつか載っていた。

 どうやらバイキング形式っぽいね。


 皆が注目する中で私たち四人が紹介され、代表で妹が挨拶し、その挨拶が終わると村長さんらしきエルフが乾杯を叫び宴が始まった。


 さっそくシャドウエルフに囲まれた妹─イーネスが護衛についてくれている─。

 本当は私が隣に居たいところなんだけどね……

 おねーちゃんは近接では全く役に立たないのでごめんなさい!!

 その代り【神聖守護ディヴァインシールド】とか支援魔法は惜しまず掛けたよ!


 チラチラっと妹の方を気にしながら、ソフィアにくっ付いて、ざざっとテーブルの上の皿を見渡していく。ざっと見た感じ、外とは関係を閉ざしている部族ゆえに、皿に並ぶ食事は珍しい品が多い様だわ。


 例えばそうだなぁ……

「この白いもやしの様な炒め物はなんだろう」

「気になるのなら食べてみたら?」

 ソフィアに薦めつつ、私はなんとなくその正体に勘づいた。

「それもそうだな」

 ソフィアは大皿に備え付けられた木のスプーンを使い、自分の小皿に盛っていく。

 一杯~二杯~と、スプーンが動いた。

 味見前にそんなに盛るとは、ソフィアはバイキング形式に慣れていないのかな?


 ─やっぱり木のフォークを使い─ソフィアがそのもやしの様な白い物を口に入れた。

「クニクニとした食感で……、噛むとじゅわっと甘い味が広がるぞ」

「甘いと言うことは果物に棲む幼虫かー」

「えっ?」

 そう言ったソフィアの顔からはサァと血の気が引いた。

「どうかした、プッ」

 なるべく平静に返そうとしたがダメだった。

 ソフィアの今にも泣きだしそうな顔が面白くて笑いが漏れたよ。普段の凛々しさの欠片も残ってないわー

 くははははっ


「よ、幼虫と言うのは、ほ、ほんとなのか!?」

「よく見れば分かるわ。歯のある首の方は丁寧に処理されているみたいだし、手間を惜しまない、よい料理人の様ね」

 この場合、丁寧な仕事の所為で見誤ったとも言うが……

「なぁチィは森エルフだったな。

 すまない代わりに──」

「だが断る!」

 虫なんて食えるか!!

 涙目のソフィアに対し、残酷だが「お残しはしないように~」と告げた─これも生母の教えだ─。


 でもまぁ、生理的にダメなものはダメなわけで……

 このまま涙目で固まっているのも可哀そうだしねぇ。

 本格的にリバースされる前に、遠巻きに眺めていた子供たちにお皿を渡したよ─きっと宴会の豪華な料理だろうとアタリを付けたのだ─

 目論み通りだったらしく、その時の子供たちの喜びようったら無かったよ。

 心の中ではチクリと罪悪感。

 うう残飯処理に使ってごめんね!



 次からのソフィアはとても慎重だった。

「これは……」

「見るからに虫ね」

 だって羽生えてるもん。

「こっちは?」

「幼虫でしょうね」

 今度はしっかりと首があるわ。

 つかこれ、まだ動いてない!?

 私、活けづくりが許されるのはお魚さんだけだと思うの……

「これも?」

「これは卵じゃないかしら?」

 サラダ風の器に入っている茎にはプチプチと黄色い球が沢山付いている。パッと見は色の違う海ブドウのように見えるけどここには海は無い。

 ってことは~と【鑑定】したら案の定、虫の卵でした。


「彼らは虫が主食なのだろうか」

「野草に果物、そしてキノコに虫。確かにお肉が無いみたいだけど、不思議ね」

 ここのエルフはたんぱく質はすべて虫で賄っているのかしらね?

「確かに先ほどのアレも食べてみれば美味しかったけど……」

「だったら私の分も食べていいわよ」

「いや遠慮しよう。僕は虫だけはダメなんだよ……」

 申し訳なさそうに言うソフィア。

 あ~うん。

 虫─を食べるの─が得意な女子はそんなに居ないと思うから気にすんな!




 煮たり焼いたり、形を失った物には何が入っているか分からないので、私とソフィアは果物や木の実などと言った形が残った品だけにターゲットを決めて、ひたすらそれを喰っていた。

「やっと解放された~」

 そこへ、ふひぃ~と、シャドウエルフの挨拶攻撃から解放された妹がため息をつきながら帰ってきた。

「あらお帰り」

「お姉ちゃん何食べてるの?」

「果物。一つ食べる?」

「ありがと。でも珍しいねー」

「何がぁ?」

「だってお姉ちゃんが出された物を素直に食べるなんてさ」

「失礼なっ、私だっていつも疑ってはいないよ!」

 【敵意感知センスエネミー】貼りっぱなし&【鑑定】はしてるけどね。


「ソフィアさんは何食べてるの」

「芋を煮た物だ」

「お芋?」

「ああ、鍋で煮ていたのを先ほど貰ってきた。

 小ぶりだからそのまま食べるそうだ」

 食べると中からジューシーな美味しいタレが出てくるらしく、先ほどからこればかり食べているのだが……

「お芋じゃないよ、それー」

 あぁ妹よ、ついにそれを言ってしまうのか。

 これから行われる死刑宣告に、私は思わず天を仰いだよ……


 隣からは「えっ?」と、ソフィアの上擦った声が聞こえた。

 ソフィアは目をうるうるさせて私の方を見つめてくる。

 それは虫じゃないって言ったよね!? と言う視線だろうか。

 仕方がないじゃないか。

 私が果物を取りに行ったとき、彼女も席を立ってこれを持って帰ってきたんだよ!

 私が席に帰ってきたら、それはもう美味しそうに食べてたんだもん!

 止める間もないよ!


 それは確かに茶色い色をした里芋の様な奴だけど、残念かな芋に非ず〝大ナナフシの卵〟なのです……

 その正体を知ったソフィアは顔を真っ青にしてプツッと意識を失った。

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