23:森の部族

 捕らえた敵の数は十二人。

 こちらは言わずもなが、敵に死者は無し─一人二発撃ちこんだ【魔法の矢マジックミサイル】では死ななかったという結果論─。


 さて捕らえた敵を見て、

「これは驚いたな」

「ああそうさねぇ」

 と、二人が驚いていた。

 何故なら縛られている者の耳はツンと長く、まるでエルフの様。しかしその肌は褐色で色白なエルフとは真逆、ついでに言えば髪はエルフに多い薄い金髪ではなくて、白髪であった。


「ダークエルフ?」

「どうだろう」

 魔王に加担し闇落ちしたエルフと言う意味で使われるいみされる言葉。

 その言い方をこちらの大陸でしても良いのかは私にはわからない。



「話が聞きたい、代表はだれかしら?」

「ふんっ縄をかけておいて話を聞きたいとは笑わせる」

 ごもっともだけどねぇ……

「敵意丸出しで襲っておいて、負けたら言い訳なんて見苦しいわね」

 その喧嘩買ってやろうじゃないの!


「怪しげな術にやられたのだ。一騎打ちなら負けない」

「はぁ? 三倍連れてきて何言ってんのよ。一騎打ちどころかその三倍であんたらは負けたのよ!!」

「違うっ我らはお前たちの汚い奇襲に負けたのだ!」

「最初に攻撃したのはそっち。いい、あんたらの放った矢が最初の攻撃なの。私らは専守防衛、理解してる?」

 こっちは防御魔法から使ってんだから効かなかっただけじゃん。


「お姉ちゃん、ちょーっと黙ろうか」

 妹が私の肩を掴んで制止した。

 なんでよ! とばかりに振り向けば、そこには笑みを浮かべた妹が……

 ただしその眼は笑っていない。まるで母のようであり……

「はい、ちょっとおねーちゃん黙ってますね」

 妹に場所を譲って、私はその場から脱兎のごとく逃げた。


「珍しく素直じゃないか」

「あーいう時の妹は怖いのよ!」

「そうかな、僕にはいつもと違っているようには見えないけどな」

「分かった時、あんたは死ぬわ」

「……肝に銘じよう」







 約一時間後……

「我らはシャドウエルフを名乗っております。

 申し遅れました、わたしはこの隊の隊長アルフです」

 何があったのか、シャドウエルフを名乗る十二人は縄を解かれて、妹に傅く感じに畏まって話すようになっていた。


「魔王に手を貸すのがダークエルフで、彼らシャドウエルフっていうのは信じる神が違うだけのただのエルフ族だってさー」

「ええツゥ様の仰る通りです。

 わたしたちは、森の守護神たる〝緑竜グリーンドラゴン〟様を信仰しお護りしております」


「おい、君の妹が〝様〟付けになっているぞ」

「しっ!」

 あれは何があったとか聞いちゃダメなやつなの!

 あとね、妹はエルフなのよ。今のセリフも聞こえてるから、口を開いたら負けと思いなさいよね!


 遠巻きにそんなことをひそひそと話していると、一人では危なかろうと、先ほどまで妹と一緒に居たイーネスがこちらへ戻ってきた。


 ソフィアとイーネスは妹たちから距離を置き、

「あれはどういう──」

「ソフィア、世の中には知らない方が良い事が沢山あるのさ……」

「そ、そうか……」

 どこか悟ったような目を見せるイーネスに、ソフィアは引き攣った笑みを見せるばかりだった。



 すっかり懐柔? 教育? 洗脳? う~ん……

 まぁいいや。

 とりあえず妹の言うことだけは従順に従うようになったシャドウエルフたち。

 彼らは歓迎の宴が開きたいらしく、我々を村へ案内すると言うのだが……

「どういうつもりだろうか?」

「残念ながら敵意も悪意も感じないわ。すっかり調教済みよ」

 さっきから【嘘発見センスライ】も【敵意感知センスエネミー】反応なしだよ。気のせいかしら目から光が消えてるような……?

「そ、そうなんだ」

「この流れは行くしかない奴だねぇ」


 そんなこんなで私たちは妹を先頭に、シャドウエルフの村へを向かった。







 その村は森の樹を使った不思議な空間。

 大きな樹の上に小屋が乗っていたり、大木がくり抜かれて部屋が出来ていたり、アスレチック大好きな子供だと歓喜すんじゃないかな?


 シャドウエルフの人口は老人や子供を入れても四〇人ほど。呼び名は違えどやはりエルフ族同様、出生率は低く、徐々に数を減らしているのだとか。

 だから少数部族になったんだなーとちょっと納得したよ。



 村に入ってすぐに私はある方角が気になっていた。

 何気にそちらを見てしまうと言うか……、う~ん気になるなぁ。

「同じ方ばかり見てどうしたんだ」

「何かあるような気がするのよ」

「お姉ちゃんも? 実はあたしも気になってるんだー」

 私と妹の声のトーンは同じだけど、妹がそう言った瞬間に案内役のシャドウエルフから返答があった。

「あちらには森の守護神がおられます」

「〝緑竜グリーンドラゴン〟かしら?」

「……」

 つぃと不自然に視線を反らされた挙句、無視されたわ……


「どうなのー?」

「はい、森の守護神たる〝緑竜グリーンドラゴン〟様がおられます」

 しかしジト目の妹が問えば丁寧な答えが返ってきた。

 妹経由じゃないと会話もできないとか、なんだこいつら?


「見てみたいな」と、妹に視線を送り、

「見れるかな?」と、妹が問う。

「いけません。我らの同胞以外が近づけばお怒りになりますれば、近づいた者は容赦なく……」

 言葉尻が濁されたが続く言葉くらいは想像できる。

 つまり喰われるor死ぬのだろう。


「ドラゴンには良い思い出が無いのだけど、やっぱり知能が低いのかしら?」

 私が前世で出会った奴は腐れてましたし……

「お姉ちゃんの質問にちゃんと答えてー」

「畏まりました。

 森の守護神は聡明でございます。きっとあなた方がこの村に来ていることもすでに知っておられるかと愚考いたします」

「話が通じるのであれば会っても大丈夫じゃないの?」

「いいえ我ら以外が近づけはお怒りになられるでしょう」

 それは何か? 言語が話せるだけで言葉が通じないと言う意味でよろしいか……?

 そんなのただの喋る緑の大きなトカゲじゃん!

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