22:期待と落胆の量は比例する

 土着文化を持った少数部族の棲むところへ入ったのは三日目の昼ごろのことだった。

 生粋のエルフではない私には【森魔法】は使えない。おまけに森の中で迷う情けないエルフだけれども、この場所になら迷わずに来れる自信がある。

 何故なら、魔力の高い場所へ向かえば自ずと辿り着くことが出来たからだ。


「凄いよ! 過去最高に魔力がある!」

 前の大陸基準で二割減と言ったところかな?

 これならいけるかも知れないと思って、久しぶりの【転移の魔法陣】を取り出して試してみた。


「その板で元の大陸に帰れるのか、魔法とは何とも不思議なものだな」

「良かったら一緒に行く?」

「ほかの大陸か……

 そうだな興味は、あるよ。イーネスはどうだい?」

「こっちに居てもどこかで野たれ死ぬだけだろうしね、死ぬ場所が変わるだけと思えば珍しい場所で死ぬ方が楽しそうだね」

「じゃあ乗って」

「ああ分かった」


 キーワードを使い魔法陣を発動させる。

 魔法陣に光が集まり魔力が巡回し始める。

 よし行ける!

 次の瞬間に景色が変わるはずが、ぷしゅぅ~と言う感じで魔法陣から光が失われた。

「お姉ちゃん止まったよ?」

「……」

「済まない僕らが悪いのだろうか?」

「……それは無いと思うわ」

 つまり八割でも魔力は足りないと言うことか……



 期待が高まってからの空振り。

 すっかり意気消沈した私は歩くのも億劫になり休憩をお願いした。

「分かった。丁度お昼時だし休憩を取ろう」

「じゃあ、あたしはお湯沸かすねー」

「あいよ、竈は任せな」

 皆が気を使ってくれているのが分かるが、まだ立ち直れそうにはない。

 不甲斐ないおねーちゃんでごめんなさい。







 かなり気を使われた様で、お昼のメニューは私の好物ばかりが並んだ。

 口に広がるのは慣れ親しんだ味で、妹が作ってくれたのだとすぐに分かる。

「美味しいよ」

「良かったー」

 妹の笑みを見て、私は先ほどまで考えていたことを言葉にする。

「あと少しの魔力を補えればきっと魔法陣は動き出すと思うんだ。だから私はこの場所に留まってもう少しだけ研究したいと思ってる。

 だめ、かな?」

「もともと行く宛のない旅なんだろう? だったらここで少しくらい時間を喰っても悪くないさね」

「失礼な、家に帰るって宛があるよ!」

「はははっすっかり元気になったようだな。

 ここにはどうやら魔力とやらがあるらしい。今までの道中に比べれば、魔法に頼れるだけ安全なのだろう?

 ならば無理に街に帰る必要はない、好きなだけ居ても構わないぞ」

「ちょっとソフィアさんー

 そういう言い方するとお姉ちゃんは年単位で考えるからダメだよー!」

「うっそうなのか?

 出来れば日単位、なんとか譲歩して一週間くらいで勘弁してくれると嬉しい」

「譲歩して一週間って短すぎ……」

「ほらぁ! だから言ったじゃんー」

「だったらここに家でも建てるかねぇ」

 そう言ってイーネスはくっくと嗤った。



 互いに笑いあった後、妹が真剣な表情を見せた。

「(お姉ちゃん)」

「(ええ、気付いてるわ)」

 私たちの雰囲気から異常を悟ったソフィアとイーネスも居住まいを正す。


 MPの自己回復が始まっているので、今は惜しげなく【敵意感知センスエネミー】に【生命感知センスライフ】、おまけにこんな場所なので【魔法感知センスマジック】まで併用して展開している。

 それに何かが引っ掛かり、警鐘を鳴らしていた。


 数は多い。

 いまは大きく取り囲み、徐々に範囲を狭めている所だろうか?

「(どうする?)」

「(矢と魔法が怖いわね)」

「(矢は任せて)」

「(了解。じゃあ)【魔法無効化キャンセレーション】」

「【矢よけミサイルプロテクション】」


 魔法の発動を察知して敵の動きが激しさを増した。

「くるよ!」

「了解だ!」

 言葉通り、森の中から矢が飛来する。

 【風魔法】の加護により、矢は反らされてあらぬ場所へ刺さった。


「範囲はこの広場だけ、深追いは禁止よ」

 対象を指定して使用する【魔法無効化キャンセレーション】と違って、【矢よけミサイルプロテクション】は場所指定の魔法だ。

 範囲を外れれば矢は普通に目標に刺さる。


「つまり! 敵が近づくのを待つしかないってことかい!?」

「いいえ、炙り出すわ!」

 言うが早いか、私の手から緑に光るゴルフボール大の弾がいくつも撃ち出されて森の奥へと消えていく。

 いま放ったのは決して的を外さない【魔法の矢マジックミサイル】と言う魔法だ。目に見えていなくとも、感知魔法で察知済みなのでそこに向かって撃ちこんでみた。

 遅れて悲鳴が森の奥で聞こえてくる。


 さらに弾が消えた逆の方では、「うわぁ!」と言う叫びが聞こえてきた。

 振り返れば、敵が草に巻き付かれて樹から吊るされていた。妹が使った【森魔法】の【植物操作コントロールプラント】だろうか?

 草木を操り相手を拘束する魔法だ。

 初手から攻撃魔法で殺しに行った私と違って妹は優しいわー


「お姉ちゃん逃げそう」

 一瞬で半分ほどが無力化されたのだからその判断は正しい。

 しかしここで逃がすほど私は甘くないよ!

「閉じて! 尋問すんのよ!」

「ええっ!?」

「なに、MP足りない!?」

「ううっ分かったよー

 【迷いの森メイズウッズ】」

 再び妹が【森魔法】を放った。

 周囲の森は巧みに変化し、道を閉ざす。逃げたと思った敵は、森に迷い再びここに帰ってくる。


「あいつらすぐに戻ってくるわよ。相手をお願いね」

「君たちは……、魔法が使えると相当厄介な相手だな」

「違いないねぇ。そっちの大陸ってのはあんたたちみたいな化け物ばかりなのかい」

「いいえ私らは例外の一握りだと思うわ」

「そうだよー、あたしたちのお母さんは魔王を倒した英雄なんだ。

 だから小さい頃から鍛えられてるだけだよ」

「魔王って……

 そんなのを相手にしたあんたらの母親は一体何者なんだい……」

「怒るととっても怖いのー」

 そうだねー

 そして私は無事に戻ったらその怖い人に折檻される予定なのだけどね……

 だから帰るまでは無事で、帰ったら半死の予定だよ。


 そんなことを話しながら、五分ほどが経過した。

 私たちは汗だくで逃げてもどってきた相手を難なく拘束した。

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