21:治安が悪い街より自己責任の森
数十年前にエルフを見たと言う場所は知れず。
ただし森の奥の方には、国に属さない小さな部族が残っていて、そちらの方では今だに精霊信仰の様な土着文化があるぞと言う情報を手に入れた。
「精霊信仰って、ずいぶんとまぁ時代錯誤だねぇ……」
「しかし貴重な情報だからな。当然行くんだろう?」
「この街で詐欺まがいなことに巻き込まれるのももう飽きたわ」
「あはははっ違いないねぇ」
「しかし森を闇雲に歩くのは危険ではないか?」
「大丈夫だよー、この森はとっても素直だもん」
「と、妹が言っているから大丈夫よ」
「僕にはその素直と言う意味が分からないのだけどなぁ……」
安心してよ、私にもわからないから~とはもちろん言わない。
手早く旅の準備を終えて、私たちは森に入って行った─馬車は冒険者ギルドに前金を渡して管理して貰っている─。
まず初日。
早朝に門を出て森へ入ると、
「はーい、ここでストップー」
大きな樹の裏側で皆を止めて、効果範囲を広げる『
全員の姿が消えたのを確認して、仲良く手を繋いで森の奥へ進んていく。
MPの都合で三〇分だけだけど、これでよからぬことを企んで尾行してきた奴の大半は撒けたと思う。
さて残った奴は……
「ただいまー」
「お帰り、どう誰かいた?」
「うんー、足跡を追跡している風の人が数人いたよ」
「へぇやっぱりね。それでどうしておいた?」
「こっちの足跡は消して、熊の足跡の方へ誘導しておいた」
「ぐっじょぶ!」
森のプロ、真エルフの妹様を舐めんなよ!
なんでこんな小細工をしたかと言えば、宿に泊まっていた数日の間に、私が魔法で感知する悪意がどんどんと増えていったからだ。
最悪の結果であるエルフバレはしなかったのだけど、女だけの集団が泊まっていると言う噂が普通に流れて、それをどうにか手に入れようと考える輩が増えたってことだね。
こんな時じゃなければ人気が集まるのは悪い気はしないんだけどねぇ……
さて後ろからの追手は首尾よく撒いたのだが、森の中ではたびたび、今度は街の輩とは無関係な野盗とニアミスをした。
なぜニアミスかと言えば、【
戦闘がほとんど避けれたことで、昼の休憩のときにはかなり奥の方まで進んでいた。
「魔力がまた上がったわ」
前の大陸の1.0ほどではないが、半分近くはありそうだ─ぶっちゃけこの大陸では最高値だよ!─。
しかしまだ【転移の魔法陣】を使うには少ない。でもこの差は大きい。その証拠に、ゆっくりとではあるが、私のMPが〝自己回復〟を開始している。
寝なければ治らなかったことを思えば、使い放題ではないが、やや無茶な使い方をしてもなんとかなりそうね。
※
情報を手に入れた際に部族の大体の分布図を描いて貰っていた。
描いてくれた相手は、大きな森だからこんなの意味がないぞと言っていたけれど、そんなことは無い。
森の住人であるエルフに掛かれば、森の中で方向を見失うなんてありえないのだ。
「お姉ちゃんそっちじゃないよー」
「えっ?」
あれぇずっと真っ直ぐってこっちじゃない? と、私はけもの道を差しながら首を傾げた。
「なぁエルフの意見が分かれた場合は、あたいらはどっちを信じりゃいいんだい?」
「妹の方でお願いします……」
「つまりチィは迷うんだな」
「お姉ちゃんは森で迷う珍しいエルフなんだよー」
「なるほどねぇ」
と、二人がこちらをじっと見る。
やめてっそういう目で見ないで!?
妹を先頭に隊列はゆっくりと進んでいた。武器に布を巻き、鎧の上から厚手のコートを羽織って足元だけを見ながら無言で歩く。
時折、妹が大きな樹の側に生えているキノコや野草を抜く以外に音は無い。
本当ならこれに加えて、木に成る果実を採るのだが……
この大陸では、枝から枝にぴょんぴょんと飛び乗る芸当は無し。あれは【風魔法】と【森魔法】の助けがあって初めて出来る芸当だ。
それでも四人が食べるには十分な食材が集まっていた。
二時間ほど歩いて、やっと、
「少し休憩をしよう」
無言と言うのは精神的に疲れる行為だと私は思う。
事前に貰っていた各部族の分布図によると、ここらは耳の良い好戦的な部族が住んでいるらしく、下手に刺激しないように注意していたのだ。
たぶんそこを抜けたと妹から合図があったのだろうね。
「いやぁ疲れたねぇ~、気分転換に火が焚きたいところさね」
「森の中で火は不味いだろう」
「そうでもないわよ。ちゃんと管理すれば使ってもいいわ。
でも今回はどうかしら?」
「部族の縄張りを出てまだ少しだから止めた方がいいと思うー
匂いとか灯りは工夫すればそんなだけどね、煙ってのはかなり遠くまで見えちゃうんだよ」
「だそうだ」
「ありゃ残念さね」
「ねえイーネス、火を熾して何がしたかったの?」
「こんな時に温かいスープが飲めれば元気がでるだろう?
まぁ火が無いんじゃ仕方ない。あたいは生ぬるい水で我慢するよ……」
「つまりお湯があればいいのね、任せて」
幸いこの森の魔力がちょっぴり高い、ここで少しばかりのMPを使っても問題は無かろう。そんな事よりも士気が上がる方が大事ってもんよ!
ついでに言えば私も飲みたいです!
私は【生活魔法】で真水を造りだし金属の鍋に入れた。それを【
普通は着火するだけの魔法なんだけど、煙を出したくないときはこんな使い方も出来るのだよ。
そんなことを五回ほど繰り返したところでお湯が沸いた。
湧いたお湯は妹へ。
先ほど採取した野草やらキノコを使って即席のスープが振る舞われた。
「このスープはとても美味いな」
「ああそうさねぇ、今まで飲んだことが無いほど美味いよ」
「懐かしい味だわー」
「そりゃそうだよー。だってこの水、お姉ちゃんが出したんでしょ?」
「ああそういうことか」
首を傾げている二人に、私はこちらの水の味の酷さを懇切丁寧に教えてあげた─つまり濾過の技術が低くて不衛生で不味いと言う話だ─。
「なるほどこれが真水という奴か、初めて飲んだが水を美味いと思ったのは初めてだ」
その時のソフィアは真顔だった。
やっぱりこちらの人も
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