19:エルヴァスティは森の国②

 森の街道に入って、全体の行程の半分に達する三日目。

「ねぇ気付いてる?」

「うんー? あっ!」


ビンッ!

パシュッ!


「よっこらせっと」


「で、お姉ちゃんなんだっけ?」

 今しがた飛んだ鳥に矢を射て、撃ち落とした妹がこちらを振り向いた。途中のよっこらせはイーネスで彼女が落ちた獲物を取る為に馬車を飛び下りたのだ。


 おねーちゃんよりも鳥ですかー

 これは悲しいぞ……


「この森、魔力が少し増えているわ」

「うーんエルフがいるっていう噂も眉唾じゃないってことかなー?」

 とは言え魔力量はあの洞窟と同じく0.2とかそういう話だけどね。


「【森魔法】は使えそう?」

 生粋のエルフではない私には使えない【森魔法】の中には、森にいるモノの存在を察知する呪文があったはずなのだが……

「範囲が狭くてまだ何も分かんないよー」

「そっか、思い出したらでいいからたまに試してね」

「はあい」







 あと三日で首都と言うこの日の夜。

 ついに野盗が現れた。


 それは妹の夜営の番の時だった。

「(お姉ちゃん、【森魔法】に引っかかったよ)」

「う~ん。何がぁ?」

「(敵よ! 早く起きる!)」

「(マジかっ)」

 慌てて声のトーンを落とすと、すぐに【魔法感知センスマジック】と【敵意感知センスエネミー】、さらに【生命感知センスライフ】を発動させた。


 視界に広がる反応を分析していると、

「(悪い遅れた。数は?)」

「(囲まれてるよー)」

「(見える範囲で二十は超えてるわね)」

 魔力の都合で範囲は狭いが危険色の数はかなり存在していた。



「(傭兵たちの様子は?)」

「(ここからじゃわからないな)」

 夜営で起きている傭兵は四人だったはず。

 二人がペアで行動して、片方が馬車を端から端まで確認して戻る。もう片方は中央で待機だ。報告を聞き、ペアが交代してまた巡回を繰り返していた。

 哨戒のペアが時間になっても戻らなければ、彼らは手順通りに周りを起こし、非常時に備えるはずだ。

 私たちの察知が早くまだ殺されていないか、それとも殺されていて時間待ちか……


「(イーネス、頼める?)」

「(あいよ。ちょっとケツを蹴飛ばしてくるさね)」



「(いい? 傭兵が起きると一斉に襲ってくるわよ)」

「(だろうな)」

「(商人の護衛を優先したいところね)」

「(ああそうだな。いい加減、僕も使えない子扱いの視線に耐えるのも飽きてきたところだ)」

「(やっぱり? 私も同じだわ)」

「(灯り頼めるかな?)」

「ええいいわよ。【閃光フラッシュ】」

 閃光が夜の森を照らした。


 こちらを無防備に見ていた野盗はこれで大半が視力を失っていた。

 その頭上に、今度は淡く光る【光源ライト】が現れる。

 すっかり姿を浮かび上がらせた野盗たち。

 それを見てソフィアは薄くニィと嗤うと、「じゃあ行ってくる!」と言って駆け始める─彼女は森では取り回しが邪魔だからと、大盾カイトシールドから円盾バックラーに切り替えていた─。

 その後ろから無数の矢が飛び、目を覆って狼狽えている野盗を射抜いていく。

 横から真っ直ぐ槍を構えて走り込んでくるのはイーネスだ。

「あたいが戻ってないってのに先に始めるなんて!

 随分と冷たい仲間を持ったもんだよ!!」

 こうして目の見えない敵を一方的に蹂躙する形になり、野盗は討伐された。




 戦闘が終わると傭兵団の見る目が変わった。

 ソフィアは騎士として、そして私は稀有な魔法使いとして認識された様だ─傭兵団の数人が魔法を使っている者の噂を知っていた─。

 しかし、「魔法使いの噂を聞きたいわ」と尋ねたが、実際には会っていないらしく、ただ北の方でそういう噂を聞くとだけ教えてくれた。

 あの魔力を吸う宇宙船の位置が南西だと考えれば、やはり北東方向がアタリなのだろうか?



 そして、

「捕らえた奴はどーするね?」

 そう言うイーネスの足元には、血だらけの野盗が数人縄で縛られて転がされていた。

 その姿……

 捕らえたっつーか、運よく死ななかったの間違いだと思うわ。


「尋問たーいむ!」

「悪いがこいつらが喋るとは思えない」

「本人の意思なんて関係ない。

 さあ吐いて貰おうか! 【嘘発見センスライ】、これでお前は嘘がつけない!」


 最初は頑なに首を振っていたし、舌を噛んで自決しようとしたのだが、その度に【小治癒ヒール】してやったら心が折れたらしい。

 そして分かったこと。

 驚くことに彼らはエルヴァスティ連合国の関連機関に雇われた傭兵だった。

「まさか国が指示していたとはな」

「これを種に脅迫すると殺されそうよねー」

 呆れ顔でこちらを見つめてくるソフィアとイーネス、ついでに傭兵団の隊長さん。

「お姉ちゃんダメだからね」

 やらないってばー

 信用無いなーと肩を落としながら、

「身の安全を優先するなら聞かなかったことにすべきよねー」

 チロッと隊長さんを見れば、彼は無言で頷いた─ただし剣に手を掛けて─。


 その態度で理解した。

 悪いけどそんなシーンは見たくもないので、私たち四人は後ろ手を振りながらその場を後にしたわ。



 しっかしこの国……

 事前にイーネスらから危ないとは聞いていたがこれほどとはね。入ったら入ったで普段の何倍も用心しないと危ないわね。

 まぁなんにしろ早めに知れてよかったわ。

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