18:エルヴァスティは森の国

 エルヴァスティに馬車で入るには一つコツがあるらしい。


 そんな事を話していたので、途中の街道でもブチ切れてるのかな~と思いきや、そんなんじゃなくて、もっと単純なお話でした。



 まず馬車で北上していきエルヴァスティに入る手前の一番大きな街に立ち寄った。

 ここで補給と、もう一つ。

 そのコツとやらを解消するんだってさ。


 と言う訳で、私たちを宿に残してソフィアとイーネスは、エルヴァスティに入る商団がいないか聞くために、商人ギルドの方へ出向いて行った。


「なんで商団と交渉が必要なんだろーね?」

「馬車が一人でノコノコ歩いていると、どうぞ襲ってくださいと言うアピールになるのでしょうね」

「あーそういう意味なんだ。

 ねぇお姉ちゃんそういうの嫌いでしょ、見て見ぬふりするのー?」

 好きな人はいないと思うよと冗談交じりに返せないほどに私は仏頂面だった。


 そうだなぁ

 もしもここが魔法使い放題な土地だったら、あえて一台で行って襲ってきた奴らを絶対に後悔させてやったと思う。

 だけど今は魔法が使えない。

 しかし……、もしも使えたとしても妹を巻き込むのは本心ではないので、やっぱりやらないかな?

 私の優先順位は、悪党駆逐よりも妹の安全だよ。



 その夜、戻った二人からエルヴァスティの首都へ向かう商団が発見されたと聞いた。

「出発は明後日の朝だ。

 商団に混じらせてもらう代わりに、護衛役も兼ねていると思ってくれ」

「うわっケチくさー」

 それを聞いて私も苦笑した。

 旅団に混じる対価に護衛を言いつけてくるのだから、妹が漏らしたボヤキも分からないでもないわ。


「そこは我慢してくれ。今回はもともと護衛が足りているところに、無理を言って混ぜて貰ったんだからね」

「そう言うことか。だったら他の人に期待しても良いのかしら?」

「いいんじゃないかい、あたいらが露骨に押し付けなきゃ大丈夫さね」

「おっけー。それとなくやれってことだねー」

 それでいいよとイーネスはくっくと嗤った。




 今回エルヴァスティに向かう馬車は私らを入れて全部で十一台だ。

 前二つと後ろ二つ、中央の二つには商人らの護衛が乗っているそうだ─荷物は満遍なく積まれている─。

 私たちは後ろ二つのひとつ前。つまりケツから三番目ですねー


 なお今回雇われたのは冒険者ではなくて、ガチの護衛。

 つまり傭兵さん。

 馬車に乗り込む前の動きも、冒険者のだらっと弛緩した雰囲気とは違ってキビキビと訓練さながらのキレキレな動きを見せていた。

「軍人さんの動きはすごいねー」

「勘違いすんじゃないよ、みんながみんなあんなんじゃないからさ」

「つまりイーネスの居た傭兵団は緩かったと?」

「うちは団長からして緩かったからねぇ、そこらの冒険者と変わらなかったさね」

 その代り戦うと強かったと言うが……

 まぁ弱い傭兵なんてなかなか居ないだろうし本当の事だろう。



 傭兵さんは数人ほどが単騎で斥候に出ていて、決められた時間になると必ず報告に帰ってきた。その際に、大きな声で「異常ありません!」とか言うもんだから何事かと最初は身構えたよ。

 傭兵と言うよりもう軍隊だね。


 なお私たちが何をしているかと言えば……

 馬車の上で談笑ですわー



 今朝がたの事。私たちは決められた集合場所に行き商人さんと挨拶を交わした。

 そこで傭兵の隊長さんと副隊長さんを紹介して貰って、後は護衛同士で話しを詰めようか~と持ち掛けてみれば、

「悪いが他人が入ると隊の統制が乱れる。

 こちらは勝手にやるから、そちらも勝手にやってくれれば構わない。ただし、足だけは引っ張ってくれるなよ」

 片目に黒い眼帯を付けた渋めのおじさんだったのだけど、この発言で私の評価は最底辺に落ち込んだわ。



 同意見だったのか、馬車に戻ると珍しくソフィアが愚痴を漏らした。

「勝手にやれではなくて、僕には手を出すなと聞こえたね」

「うん同感よ。折角護ってくれると言うのだから、ここはお言葉に甘えましょうか」

「でもさぁ、商人らの手前働いているそぶりは見せないと不味いんじゃないのかい?」

「確かに不味そうだな」

 しかしあの態度だ。

 手を出せばきっと怒り出すのは明白だよね?


 私はしばし試案した結果、

「だったら戦闘以外で役に立ちましょう」

「どういうことだい?」



 エルヴァスティの首都は森の奥。そのため、ここは森の中を突っ切る道なので、左右は木々に囲まれている。

 そこを馬車がゆっくり進むわけで、当然だが、音に驚き道を横切って飛ぶ鳥もいる。

 それを弓の名手である妹が射抜く。


 落ちた獲物の回収は軽装で、身が軽いイーネスが請け負ってくれた。

 ちなみに私だってエルフ族なのだから身が軽いのだけど、「お前は心配だ」と言われて馬車から出して貰えなかったわ。

 失礼な話よね!


 お昼の休憩に入る頃には鳥やら兎が十羽ほどゲットできた。私たちは傭兵さん含め、皆で囲む火にそれらを提供したのだ。

 エルヴァスティの首都まではまだ長い距離がある。

 そこに新鮮なお肉が提供されれば、悪い評価にはなるまい。


 予想通り、そのお肉のサプライズは、商人さんも傭兵さんもどちらもが喜んでくれたわ。

 そして、

「姉ちゃんが射たんだよな。俺ぁ見てたけど百発百中だったぜ」

「そっちの姉ちゃんもすげーけど、こっちの姐さんもすげーぞ。

 馬車から飛び降りて獲物を掴み取って戻ってくんだぜ? こんなけ体力がありゃあ安心だぜ!」

 と、妹とイーネスの評価は鰻登りだ。


 その輪の蚊帳の外にいるのが私とソフィアで……、誰もこちらを見やしない。

 うわぁ疎外感半端ないわー



 それから数日。

 弓の名手の妹と、健脚のイーネスは評価が高く。

 御者のソフィアは「まぁ御者だし仕方がないよね~」と許容ムードが漂い始めたのだが、ニートの私だけは「なんであいつ居るんだ?」と辛らつな視線が向けられることも増えてきた。


 この大陸に来てからずっとニートそうなので言われなくても知ってるよ!

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