17:次の行先
港は空振り。
冒険者ギルドに向かったが、まだ依頼が出揃っていないとかで再び宿に戻った。
それから二日……
宿から出ない構えを見せていた私と違って、妹たち三人はちゃんと情報収集に勤しんでいた様で、五日が経った頃には次に向かう遺跡の候補がいくつか上がっていた。
その中で私の興味を引いたのは、当初の目的とは違う内陸部。
そこには古い時代から姿が変わらぬ森があるとかで、数十年前には森にひっそりと棲むエルフがいると言う噂が流れたとか?
出身大陸でそんな噂を聞けば、『数十年前って……あんた馬鹿じゃないの?』と一蹴しただろうけど、こちらの大陸ではそうも言っていられない。
なんせ私と妹がこっちに来て以来、私たち自身を除けば、エルフのエの字さえも噂に出なかったんだもの。
これが初めて出た私たち以外のエルフの噂と思えば、海岸線よりもそっちを優先したくなるのは仕方がないと思わない?
「内陸に移動するのは構わない。
しかしそちらの国はあまりいい噂を聞かないから注意が必要だ」
「と言うと?」
「今この時期に数十年前の噂が流れた理由を考えれば、という奴さ」
ああなるほど~と私が頷く隣で、
「ん~、わかんないー」
と、妹は可愛らしく首を傾げていた。
「つまり〝光陰のエルフ〟が遺跡や
「そうだ。美人と名高い上に、珍しい双子のエルフ姉妹。
「美人だなんてーてへへ」
「チィ……、そこは照れるところじゃないよ?」
「冗談はさておき、聞いて欲しい」
えっさっきの美人ってのは冗談だったの~と言うのはさておき、ソフィアの口調が真剣なものに変わったので居住まいを正してちゃんと聞く姿勢を見せた。
「噂の森があるのはエルヴァスティと言う国だ。
僕がそんな推測した理由だけど、さっきも言った通りこの国の名が出るときは悪い噂とセットなのさ」
「具体的には?」
「もともと森が多い国なんだが、かなりの数の野盗が存在している」
「治安が悪いと言う意味かしら?」
「いいや国を名乗ってはいるのだが、実態は色々な部族の寄り集まりでね。互いの足を引っ張ろうと、野盗のフリをして他の部族にやって来た旅人や商人らを襲っている……、と言われている」
「その物言いだと証拠がないと言うことかしら?」
「いいや、そんな大層な話じゃないさね。
この国の部族は口を揃えて『我が部族には弱い者はいない』って言うのさ。だから捕まるような弱い者は当然、我が部族なわけがないとさ」
「なにそれ。極論過ぎでしょ」
「あー実はさ。あたいは傭兵時代にあいつらと戦ったんだけどね。
戦った時よりも、終わった後、倒した敵の遺体を返す時の方が苦労したよ……」
同じ理由でそんなやつは知らんと言われたとか。
なお捕虜にした兵は、何らかの方法でみんな自決したそうだよ。
まぁそうだよねー
そんなお国柄だと捕虜から戻ってきても居場所なさそうだもんねー
二人からは行くなら止めないけど、素性は絶対にバラさないようにと再三念を押されたわ。
それを受けまして、私は「ふっふっふ」と意味ありげに嗤った。
この五日間、私は宿に引きこもりニートをしていたわけではない。
実験と言う崇高な行いをしていたのだ!
と言う訳で。
「こちらが完成した品でございます」
取り出したのは金と銀のお揃いのイヤリングだ─別の意味で注意を惹かないように高価な品ではない─。
「これは?」
「【
拾った鉱石を散々調べたんだけどまだ未解明な部分が多くて断念した。やっぱ無理か~と諦めかけた時にふと閃いてこれを作ってみたのだ。
そもそも鎧にかけた【
最初はいつも通り【
しかし結果は、チカチカして耳が出たり消えたりして失敗。
ここからは私の見解だが……
どうやら【
つまり消費魔力は二倍。だから魔力が不足した時はチカチカと点滅したっぽい?
だったら単一効果で、消すだけしか能がない【
難点は……
「うわぁ気持ち悪っ」
三人の顔がうわぁ~って引いている様子から分かるように、私のエルフ耳がバッサリ先端方向だけ切られたように見えることだね。
よく見ればオカシイ、でもよく見なければ気付かない、かも?
「もう少し何とかならなかったのかい?」
「これ以上は魔力が不足して無理。
でもさぁ遠目に見ればわからないでしょ?」
「うーん。確かに離れてみれば、特徴のあるエルフの耳が見えないから、一見ではエルフとは知られないだろうな」
「でしょ!?
ねぇおねーちゃんも付けるからさ、我慢して付けてくれないかなー?」
「いいよー」
あっさりと承諾する妹に、私はほっと胸を撫で下ろしたわ。
まぁこれで耳の件はやや難ありだけど一応は解決だ。
最悪フードの隙間を覗かれてもパッと見では分かんないでしょー
「耳が消えたからって油断すんじゃないよ!?
女子供の誘拐も多い国だからね、あんたらはフードは取らない方がいいさね」
もとより取るつもりはなかったけど、今の物言いには少しばかり引っ掛かりを覚えた。
「イーネスはいいの?」
「はははっ嬉しいことを言ってくれるねぇ。でもあたいみたいな筋肉女は需要なんてないんだよ」
「僕も大丈夫だ」
聞かれていないけど律儀に答えるソフィア。
うんそれは知ってるわ……
パッと見だとソフィアは線の細い青年にしか見えないもん。初見で彼女を狙う人がいるとすれば、間違いなくそっち系の人でしょ……
そしてそっち系の人だった場合は、実は女性だと知れれば逆ギレすると思うよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます