15:部屋割りはモメる

 遺跡の終わりは唐突にやって来た。

 魔物部屋モンスターハウスのあった部屋、あの部屋の少し先の通路が最後。


 最奥にあったのは汚い色をした鉱石だった。

 水晶のように美しい六角柱をしていると言うのに、なんでこいつは緑掛かった肉が腐ったようなマーブル色してんすかねぇ!?


「見ているだけで匂ってきそうだねぇ……」

「だが無臭だぞ?」

「ねえお姉ちゃん……」

 問いかけるような妹の声、その意味は分かっているので私は無言で頷いた。

 この鉱石こそがこの遺跡に魔力を発散している元凶だ。


 きっと早い段階で生まれたのが、あの壁に擬態するフロアイミテーションと言う魔物なのだろう。あいつが通路を塞いだことでここが密室になり、魔力が増した。

 だからあれほどの数の魔物が発生したのだ。


 しかし残念なことに、魔力は魔物を産むのに使ってしまったらしく、この空間に存在している魔力量はそれほど多くはない。

 また蓋をして長期間放置していれば、いずれは魔力が増して【魔法陣】が発動するかもしれないけど、うーんダメかな。

 前例もあるしきっと魔物が湧く方が先な気がするなぁ。


 だったら答えは簡単だ!

「こいつ掘るよー!」

「はーい!」

 この鉱石を掘り起こして実験する方が楽しそうじゃない?


「ところでチィ。掘るのはいいがこれはギルドに証拠として提出するぞ」

「えー!? やだよ。これは私のだ!」

「我がままを言わないでくれ。

 このような場所がいくつもあったら大変だ」

「じゃあ半分こね!」

「交渉はしてみよう」

「半分! これが守れないなら出さないわ!」

「分かった半分だけだぞ」

「やった! ありがとねー」




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 喜ぶチィから離れたソフィアはため息を吐いた。

「やれやれ、ツゥ、君のお姉さんは特定条件だと随分と幼くなるな」

「あらお姉ちゃんはそこが可愛いのよ?」

「否定はしないが、もう少しわきまえてくれると僕が楽できるよ」

「それは無理でしょうねー」

 そういうとツゥは楽しそうにクスクスと笑った。


「ん~、何の話~?」

 そこへ上機嫌にだらしなく頬を緩めてクリスタルの欠片を抱いたチィが入ってきた。

「お姉ちゃんが若くて綺麗だってさ」

「えっ!? ソフィアってやっぱりそういう趣味があったの?

 あのぉー私はそういうのはちょっとぉ~」

「ちょっと待ってくれ。そんな話はしていないぞ。

 それになんで僕がフラれたみたいになってるんだ?」

 二人のエルフは声を上げて笑った。


 その笑いは、「おーい、さっさと掘り起こして早く帰るんじゃないのかい?」と痺れを切らしたイーネスが怒り出すまで続いた。



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 街に帰ったのは冒険者ギルドの期限から約一日と半分ほど遅れた頃だった。

 どうせ遅れてるんだから馬に無理させないで~と妹が言ったので、おねーちゃんとしては交渉するしかないよね!



 報告があるソフィアをギルドで降ろして、三人で宿に向かった。

 ちなみにこちらの宿のお値段は中の上と言うところで、私が普段使用していた宿に比べれば少々落ちる感じかな?


「絶対に二人よ!」

「えー四人でいいじゃない」

「ダメ!」

「なんで~」

「あんたらいい加減におしよ」

 宿の部屋が、ダブルベッドの二人部屋か、四人部屋しか空いていないと言われたので、二人部屋派と四人部屋派に分かれて戦っているのだ。

 ちなみに私は二人部屋派だよ!


「なんで四人部屋なのよ!」

「だってダブルベッドだとお姉ちゃん変なことするもん!」

「するのかい?」

 イーネスがジト目で私を見つめてくる。

「……しない」

「こりゃするね」と、イーネスはため息を一つ。

「ほらっ! やっぱりじゃん!!」

 視線を反らしながら答えたのは悪かったと思う。

 でもさ~勝手に代弁しないで貰いたい!


「ほんの少し抱きつくだけじゃ、……ないかな?」

 妹からきつく睨まれたので、語尾は再び視線を反らしながら答えてしまった。


 昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって甘えてばかりだったと言うのに、いつの間にこんな子に育ったのだろう。

 おねーちゃんはすっごく悲しいです。



 ちなみに……、ソフィアが戻るまで揉めていたのだが、

「ハァ……

 疲れているというのに、君たちは全く困ったもんだな。分かった、ねえお姉さん三人部屋と一人部屋の空きはあるだろうか?」

 ソフィアがそう聞けば、とっくにうんざりしていた宿屋のお姉さんは頬を染めながら─絶対ソフィアを男と勘違いしてるだろ!?─、「もちろんございますよ」と返したのだった。

「よしではチィが一人部屋で、僕らは三人で部屋を取ろう」

「ちょっと待ってそれはダメよ!」

「それ以外なら四人部屋だ、いいね?」

「……くっ汚い!」

「お姉さん、どうやら一人部屋と三人部屋でいいら──」

「うわあぁぁごめんなさい四人部屋でいいです!」

「だってさ」

 そしてソフィアは勝ち誇ったようにニヤリと嗤った。


 こうして四人部屋に決まった。

 ただし!

「私は妹のベッドの隣を主張するわ!」

 そうやって意気込んで部屋に入ったのは良かったが、残念ながら私の主張が通ることは無かった。


 なぜなら……

「なにこの部屋」

 壁の左右に二段ベッドが二つ、つまり上下以外は壁の端と端で、これじゃあ隣も糞もないじゃない?


 これなら上下の方が近い分マシだと、しぶしぶ妹の下のベッドに入ったよ。

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