14:無双

 蠢く壁の正体は、〝擬態〟する魔物。

 そのHPは凄まじく動かない癖に無駄に硬いし、おまけに〝再生〟までしやがる。そして最も厄介なのは〝物理反射〟のアビリティだろうね。


────────────────────

種族:フロアイミテーター

称号:なし


HP:800/800

MP:  0/  0

ST:  0/  0


筋力:D

敏捷:F

知力:F


アビリティ

擬態

再生

物理反射

────────────────────



 これはナニか?

 殴るとダメージが返ってくると言う意味でよろしいのですかね……


「えっと、ソフィア。

 ちょっと盾でその壁を軽く小突いてくれるかなー

 ちなみに攻撃を反射するらしいから本当に軽くだからね」

 念のために奮発して【神聖守護ディヴァインシールド】の魔法を使ったよ!


「了解だ」

 ソフィアは壁の前に出てホームベース型の大盾の鋭い方でゴッと小突いた。

 軽めとお願いしたにしては重い音が響いたのだけど大丈夫かしら……


 盾は一度前に行き静止、約一秒後に同じ力で跳ね返った。

「うわっ!?

 これは聞いていたからマシだったが、急に来ると驚くな」

「返ってきた力はどのくらい?」

「そうだな七から八割というところか。

 どれ……皆下がってくれ、いいかい見てるんだ」

 そういうとソフィアは、近くに転がっていた三センチほどの石を拾い上げて、フロアイミテーターが擬態した壁に向かって投げつけた。


 ゴッとやはり重そうな音が聞こえたが、石は壁に張り付いていて落ちない。

 ちょっと不思議な光景を味わったところで、一秒後。

 同じような速度でこちらに跳ね返ってきた。跳ね返った石は、ソフィアが元いた手前にころりと転がった─念のため投げた後、ソフィアは数歩横に避けている─。


「同じ距離までは返ってこない、やはり威力は減っているようだ」

「なるほどね」

「しかしこれは僕らには手の出しようはない」

「でしょうね……」

「どうするんだ?」

「あら簡単よ。動かないのが分かったのだもの」

 そういうと私は【魔法の袋】から油を取り出してまものに撒いた。

 そして火をつけて放置。

 酸素の量が気になるけれど、まぁ今回ばかりは仕方がないでしょ。



 壁に擬態した魔物は油の助けもありとてもよく燃えた。

 さてHPはどうかな~と確認すれば、再生よりも火の勢いが強いらしく徐々に減り始めている。

「エグいな……」

「そう?」

 焼け落ちるまでにはかなりかかりそうだけど、安全第一だよ。


「ねぇお姉ちゃん、あの壁ちょっと動いてるよ?」

「あらほんと」

 動かない敵かと思いきや、燃え盛る火から避けるためにまるで横開きの扉のようにゆっくりと横に動き始めていた。

 なんだよー思ったより根性ないな~


 壁の魔物がどいて生まれた隙間から、奥の部屋が見えて、そりゃあもう沢山の魔物がいるのが分かった。

「もう少し、来るよ!」

「了解だ」

「あいよ!」

 妹の合図で各々が武器を構えた。


 えっと私は……

 先ほど流れに乗って、私も武器を抜いてはみたものの、そもそも私の武器は戦鎚ウォーハンマーである。

 このパーティーは、一人がゆったりと歩けるほどの通路のドン真ん中に壁役のソフィアが立ちはだかり、その左右の脇から長モノの槍や、飛び道具の弓や刺突主体のレイピアで援護しながら戦うスタイルだ。

 そこに横やら縦に大振りする戦鎚ウォーハンマーが入る余地はないわけで……

 つまり私には武器を振るう場所すらないのだ。


 う~ん。

 どう考えても私には傍観する未来しか待ってないわ。



 前の大陸だったらMPも使い放題だから、後ろから支援魔法を入れまくっただろうけど、こっちではそうもいかない。

 むぅまだ隙間が狭くて出てきた敵も少ないし、範囲系の攻撃呪文はまだ早いよね。


 みんながんばれー!

 フレフレッ!

 ちなみに声に出すと緊張感が無いって叱られそうなので心の中でだけ応援してます!




 戦闘が始まって十五分ほど、私たちは先ほど休憩に入った通路まで引いていた。


 あの壁の魔物の奥には一〇〇匹もの魔物が入っている─マジ魔物部屋モンスターハウスだ─。

 魔物を倒せば死体が増える。

 それが続けば足の踏み場もなくなるし、血が流れて地面が濡れれば壁役のソフィアは踏ん張れずに危険が増す。だから徐々に引きながら戦っているのだ。


 全力で戦う命のやり取りを十五分。

 魔力が薄いお陰か、魔法や叫びこえを使う魔物がいなかったことも運が良かったし、間違いなくこの三人は強い。しかし人間には限界と言うものがあり、ずっとフルスロットルのまま戦い続けれるわけはない。

 後ろで見ていれば、特に負担が大きい、壁役のソフィアの動きが鈍くなっているのが分かる。

 私は何度目かの小回復と、体力増強の魔法を使った。

 一瞬だがソフィアの動きが蘇る。

 しかしこれは一時凌ぎ。


 数はまだまだ減っていない。

 きっと本人も気づいてるはずだろうし、どこで撤退を告げるべきか……




 何かできないかと考え、弱点でもないかと【鑑定】してみたら、

「あれ?」

「どうしたのお姉ちゃん」

 丁度、追加の矢を取りにきた妹に矢を手渡しつつ、私は「目を閉じて」と言った。

 妹が素直に目を閉じたのを確認して、

「【閃光フラッシュ】」

 魔法の閃光が辺りを照らす。

 閃光を見た敵の視力が奪われて動きが散漫になった─ソフィアとイーネスは背を向けていたので当然効果は無い─。

「助かる!」

「ちょっとだけ、五歩ほどでいい! 引いて!」

「了解だ!」

 ソフィアたちが視力を失った魔物から距離を開けた。


 よし。


 久々に効果範囲が広がる『範囲増強ワイド』を併用して、【精神吸収マインドスティール】を魔物に向かって放った。

「きたきたきたー!!」

 魔物からMPをごっそり吸ってすっかり満タンだ!


 なんとビックリこいつらなぜかMPを持ってやがったのだ!

 だったら簡単、敵から奪ったそのMPで、

「【雷嵐サンダーストーム】」

 魔力が薄いので広範囲にはならないが、一〇匹ほどの魔物を雷光が襲う。

 MPが減ったのでもう一回。再び敵からMPをごっそり貰って、もう一度【雷嵐サンダーストーム】を放つ。


 通路、そして部屋の至る所に雷光が光り、バンバンと魔物を焼き尽くしていく。

「これは凄いな……」

「ああ魔法恐るべしだよ」

 魔法を初めて見る二人は、ただただその威力に口を開けるばかりだ。


「はははっ、あははははっ!」

 ああ気持ちいい!!

 何やらテンションがおかしくなっているのはご理解頂きたい。


 五分ほどで部屋の魔物はすべて消え去った。

 久々に発散したので、いいストレス解消になりました!



 ちなみに、

「……ほとんど消し炭で証拠がないぞ」

「ありゃりゃ、やり過ぎさね」

「お姉ちゃん~?」

 平謝りしましたとも!!

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