13:開けてはいけない扉

 自然の洞窟風になった遺跡は思いの外に深かった。

 かなりの距離を進んだところで、

「ソフィア、これ以上潜ると期限には帰れないわ」

「確かにそうだな。しかし遺跡は続いている」

「私は依頼書を見ていないのだけど、この深さの遺跡だと一週間でクリアは難しくないかしら?」

 それに魔力がちょっぴり濃い所為か、敵も少々強いようだしね。


「確かにそうだな。

 ちょっと待ってくれ確認する。ツゥ! 戻ってくれ。休憩にしよう!」

 声が聞こえたのだろう、少し先を進んでいた妹から元気な返事が返ってきた。



 四人で円を組んで座る。

 暖かいスープやお茶が欲しいが、洞窟の中なので火は無し。火を通さずに食べられる固いパンやら干し肉、乾燥フルーツと言った保存食で我慢だ。


 干し肉を硬そうに噛み千切りながら、「今日のはしょっぱいね」とイーネスが愚痴を言った。私と妹のは自家製の妹が作った奴で、昔から慣れ親しんだ味だ。

 お陰様で安定感は半端ない。


 先ほどからカバンをがさがさやっていたソフィアが、「あったぞ」と依頼書を取り出して見せてくれた。

「ありがとう」

 私は依頼書を受け取りざっと目を通した。


 さてと、書いてあることは普通。

 遺跡の地図があり、間引きするようにと書かれている。

 証拠の品として魔物の体の一部を持ち帰るようにと書いてあるが……


「上限の数が異常ね」

「どれ?」

「ほら普通の三倍くらいあるわよ」

 確かに倒した数は少ないけれど、普通だったら中クラスの報酬が貰えるほどには倒しているつもりだ。しかしこの依頼書によれば、今の討伐数だとまだ最低ランクの報酬が貰える程度しか達していなくて、あと五倍ほど倒さないと最高報酬に届かないらしい。


「本当だな。それにしては敵が少ない気がするが……

 他に脇道でもあったかな」

「いいえ無いわ」

「ああそうか、魔法で分かるんだったな」

 確信を持って答えた私に、ソフィアは便利だなと呟いた。


 魔法で脇道がないことは分かっている。この先がどこまで続くかは知れないが、この敵の規模であと五倍を倒すとすると……

魔物部屋モンスターハウスかしら」

「なんだいそれは」

「こっちではないのかしら? 部屋いっぱいに魔物が溢れていることを言うのだけど」

「見たことも聞いたこともない。

 部屋いっぱいか、想像がつかないけれど二十匹くらいだろうか?」

「部屋の広さにもよるわね。

 奥の方に魔法や鳴き声なんかで攻撃してくる奴が混じってると地獄ね」

「なるほど、こちらからは攻撃できないのに敵からは一方的にやられるということか」

「そういうことよ」

「では僕はそんなものに当らないように祈ろうかな」

「と言うことは先に進むのね?」

「ああ、この深さだ。事情を話せば違約金もある程度は免除されるだろう。

 それに君たち二人だったとしたら奥へ進むのだろう?」

 確かに私たちの目的だと何が何でも奥に進むはずだ。

 だってここは今までにない、魔力が増している貴重な遺跡なのだから……

 きっとその正体を掴むまではこの遺跡から出ることは無いだろう。


 しかし今は、目的が違う二人が一緒にいる。

「悩まないで欲しい。僕らは恩返しがしたいからここにいるんだ。

 最優先は君たちの目的だ、それを忘れないでくれ」

「ありがとう」

「こちらこそだ」

 そう言うとソフィアはニヤッと笑った。







 現れる敵は手ごわいが数は三~四と言うのが続く。

 しかしソフィアは優秀な壁役でその程度の数は難なく止めた。その間に二人のアタッカーが敵を倒していき、また先へと進んでいく。

 なお先ほどから回復が要らないので私はずっと空気です……



 斥候として先を進んでいた妹が戻ってきた。

「どうしたツゥ」

「行き止まりだったよー」

「脇道は?」

 それには「無いわね」と私が返した。


 報告を終えた妹が不思議そうな顔をしていたので改めて問いかけてみる。

「何か気になることがあったのね?」

「うん、行き止まりの壁が動いているような気がするんだよねー」

「分かった、私が視てくる」

「気を付けてねー」

 こういう時に妹は一緒に行くと言わない。それは言えば私がダメと言うのを知っているからだ─時間が無駄なのでそのような問答は私たちはしない─。


「あたいが付き合うよ」

 しかし妹が行かないのならばと、イーネスが手を上げた。

「いらないわ」

「だが危ないかもしれないだろう?」

「そうだな。僕もイーネスを連れて行った方が良いと思う」

 危ないからいらないと言っているのだが……、ソフィアも気になるのかイーネスに加勢した。


「護れる自信がない、だから一人で行くのよ」

 ずっとここまで護られていただけの私が何を言うんだと、ソフィアとイーネスは互いに顔を見つめ合って呆れていた。

 まぁ今はこれが相応の評価だろうけどさっ

 しかし妹が、「ここはお姉ちゃんに任せていいよ」と口添えしてくれたので、二人はしぶしぶと引き下がった。

 ただし、行き止まりが見える場所まで三人で移動することを条件に……


 そのくらいは譲歩すべきか。

 今度は私が折れる番だろうと、その条件を承諾した。



 MPが減るのがキツイのでこちらの大陸ではあまりやっていないけれど、私はお決まりの【魔法感知センスマジック】と【敵意感知センスエネミー】、そして【生命感知センスライフ】を詠唱して備える。


 さて妹が言った動く壁とやらはどうだろう?


 敵意あり、そして生命あり。

 と言うか……

 声を出して刺激すると良くないと考えて一旦皆のところへ下がる。

 そして人差し指を口元に当てたジェスチャーをしてから、小声で「(あれは巨大な魔物よ)」と告げた。




 私たちはひとまず先ほどの場所まで下がった。

「つまりあの壁には剣が利くと?」

「利くでしょうけど、あの大きさだと倒せるかは別の話でしょうね。

 それに、あの敵の奥。部屋になっている様だけど、きっとあれが壁になって出られないのでしょうね。中には一〇〇匹近い敵の反応があったわ」

「一〇〇匹だって!?」

「あたいはそんな規模の数、戦争以外で見たことがないよ」

 もちろんそれは魔物じゃなくて人の数だろうけど。

 魔物ならば、魔力が薄いのでこちらだと精々一〇匹が精一杯だろうか、それが一気に一〇倍だ。

 蓋を開ければ大惨事とはこのことだろう。


「開けない方に一票だ」

「あたいも同じくだね」

「あたしはお姉ちゃんに任せるよ」

「私は開けたい」

「しょ、正気か!?」

「ええ、そういう目的で行動しているのだもの。

 でも二人にまで無理強いはしないから、あなたたちは逃げて頂戴」

 二人はグッと喉を鳴らした。


 先に声を出したのはイーネスで、

「あたいは残るよ。あたいはあそこで死んでいたからね。

 だからさ。残った寿命はとっくにあんたらの為に使うって決めてんだよ」

「イーネス……

 君を窮地に追いやったのは僕のミスだ。だったら僕も君と共にあろう」

「馬鹿じゃないのあなた達?」

「開けることを即決した君ほどじゃない」

「だねぇ、あたいもあんたにだけは言われたくはないさねぇ」

 そう言って二人はくつくつと嗤った。



 今回は正念場の前なので、火を熾して温かいスープを準備した。

 それを飲みながら作戦を考えるのだが、

「あれを倒した後は、通路の狭さを利用して、敵をなるべく部屋から出さないようにして個別に戦うしかない」

 まぁそうだよね……


「状況を見て私も気絶しない程度に、範囲魔法を撃ちこんでみるわ」

 回復で残す分も考え、さらに目減りする威力を考えれば、倒せていいとこ二〇くらいかなーと概算してみる。

 あとの八〇を四で割れば、一人あたり二〇、うーん気が遠くなるね。



「よし行こうか!」

「あいよ!」

「うん任せてー」

「ええ」

 そう言えば、久しぶりに戦鎚ウォーハンマーを抜いた気がするわ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る