12:空気は見えないけれど、無いと困るよねー?

 遺跡にたどり着き、ソフィアは中に持ち込む荷物をまとめ始めた─私たちには【魔法の袋】があるのでそんな作業は無い─。

 そしてイーネスはというと、先に入って軽く様子を見てくると言うので灯りの魔法を使ってあげた。

「【光源ライト】」

「ヒュ~ゥ」

 私の魔法を見て、イーネスが後ろ上がりの口笛を吹いた。

 明るいのに両手が開くなんて凄いねぇ~とイーネスはご満悦の様子だ。


「魔法は珍しい?」

「そうさねぇとても珍しいさ。あたいは長年傭兵をやって来たけど、魔法を使う奴なんて会ったこともないねぇ」

「ねえねえ、魔法が無い世界だと馬車はどうするのー?」

「うん? どういう意味かな」

「そうねぇ。私たちの大陸だと、魔法で結界を張ったりして馬車を護っておくのだけど、こちらではどうするの?」


「別に何もしないが……」

 イーネスを救うときは急いでいるから何もしなかったのかと思ったけど、普通でも何もしないそうだ。

「ただ魔物が多そうな場所だと──」

 そう言いながらソフィアは馬車から馬を外してしまう。

 当然だが自由になった馬が勝手気ままに歩き始めてしまうのだが……

「ちょっと逃げちゃうよー」

 焦る妹、うん可愛い!

「大丈夫だ、これで馬は自分の意思で敵から逃げることができるだろう?

 それにこの子らは訓練されているから呼べば戻って来る。大抵はこれで問題ない」

 呼べば帰ってくるとか、たかが馬車馬なのに、まるで軍馬の様な話だったわ。

 文化の違いって面白いわね~




 ソフィアの準備が終わる頃、丁度先行していたイーネスが戻ってきた。

 きっといつもの事なので、息が合ってるんだろうねー

 戻ったイーネスに「どうだった」とソフィアが聞けば、「別になにもないね」と素っ気なく返ってくる。

 時間を考えれば、自然の穴に繋がる前、つまり石壁の部分だけの話だろう。


「じゃあ行こうか。チィ、ツゥ」

「そうね」

「はあい」

 ちなみに『チィ』と言うのは私の通称だ。そして安直なことだが、繋がりってか並びで、妹は『ツゥ』と名乗っている─もう一人妹が居たら『テェ』か……、うわぁ可愛くないな─。

 実名を名乗るよりは面倒が少ないと思って使っているうちにこっちの方に慣れちゃったんだよねー







 ソフィアとイーネスのペアだと斥候はイーネスの役だそうだ。

 そして私と妹だと、妹が斥候だよ。

 つまりこのパーティーには斥候が二人いる。


「ツゥの実力は視させて貰った──」

 と言うのはイーネス救出の時の件だろうね。

「斥候として申し分ないと思う。しかし罠の知識が不足しているように感じた──」

 うん正解だ。

 妹は生粋の森エルフなので屋外の自然を使った罠には長けている。しかし屋内の罠には疎く、基本的に私の【探知ロケート】の魔法で発見している。

「だから斥候は今まで通りイーネスに頼む」

 良い判断だねーと私は無言で頷いておいたよ。


 と言う訳で、斥候イーネス、続いて壁役のソフィア。その後ろに私が入り、最後尾が妹となった。

「弓使ってもいいかなー?」

「構わないが誤射はやめてくれよ」

「エルフは弓の名手だから大丈夫よ」

「そうそう、お姉ちゃん以外のエルフは弓の名手だよー」

 それを聞いた二人はプッと噴出して、堪えきれずに笑い始めた。一発必中の妹に対して、私の精度は一割二割程度。

 二人の笑いは甘んじて受けましょう……


 でもさぁこれでも前世むかしよりは随分マシになったんだけどねぇ~



 ここ一週間で何度か足を運んでいるので、崩れた場所まではほぼ敵は無し。

 問題は崩れた先だ。

「よし行くよ!」

 イーネスの声が緊張を含んでいた。無理もないよね。

「イーネス慎重にな」

「分かってるさ、二度も同じヘマはしないさね」

 イーネスが大岩の上に積もった砂を払いのけて開けた穴を潜った─二人が一時間ほど掛けて人力で開けたよ─。

 続いてソフィアが潜り、私が入る。最後に妹が入り、前方からホッと安堵の息が聞こえた。

 場に存在する魔力がまたほんの少しだけ上がった気がする。石壁の方は外と同じく希薄だが、自然の洞窟に繋がったところで少し増し、崩れた先はさらに増した。

 この遺跡はとても興味深いな……



 道は直進している。

 石壁の様なキッチリした道ではないから気付きにくいが、どうやら徐々に道幅が広くなっているようだ。


「イーネス止まって!」「ちょっと止まってー」

 私と妹が同時に声を上げた。

「どうしたんだい?」


 どうせ要件は同じだろうと、私は妹によろしくと視線を送った。

「その足元、罠があるよ」

「は?」

 しゃがみ込みじっと足元を見つめるイーネス。

 二~三分ほど経った後、

「本当だ、罠がある……」

「崩れた所もきっとその手の罠ね」

「二人ともよく気付いたな」

「ねえソフィア、ここは隊列を変えましょう。

 うちの妹は屋内の罠には疎いけど、自然に紛れたこういった罠には強いのよ」

「なるほど、イーネスいいかい?」

「ああ構わないよ。あたいにはコイツはわからなかったからね。

 自分より優秀な奴がいるなら、もちろん任せるさ」

「じゃあ済まない、ツゥはここからは斥候を頼む」

「はーい任せてよ!」

 そういうと妹は弓を仕舞って、レイピアを抜き前列に移動した。代わりにイーネスが後ろに回って最後尾になる。


 その後も似たような罠がいくつも設置されていたが、すべて妹が発見して解除した。

 先ほどは最後尾だったから同時だったけど、今は最前列だ。そのため、念のために使っている【探知ロケート】より妹の方が早い。

 魔力節約で効果範囲を絞っているからだけどさぁ、おねーちゃん役に立ってなくて悲しいよ。



 ちなみに、

「敵が来るよ! 四体~」

「僕が前に出る! 二人は後ろから頼む!」

「あいよ!」

「はあい」

 ソフィアは駆け戻る妹とすれ違い素早く前に出ると、通路のど真ん中に大きな盾を構えて仁王立ちした。さすが慣れたもので、イーネスはその後ろからショートスピアを使い的確にダメージを与えていく。

 そして妹も、負けじと隙間に上手く矢を通し、敵を射抜く。


 えーと、えーと……

 私は邪魔にならないように下がっておこうかな?


「ラストぉ~!」

「オリャアァァッ!!」

 イーネスの叫び声が響き、最後の敵が倒れた。


「怪我は?」

「大丈夫だ、全部盾と鎧で防いだ」

「ないよー」

「あたいも無いね」

 あっそうですかー


 怪我がないのはとても良い事なんだけどねー

 おねーちゃん、自分の空気っぷりに少し泣けてきたよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る