10:結成

 目が覚めたら遺跡の外だった。


 聞けば、MPが無くなって気絶した私とソフィアは、妹とすっかり傷と血量が回復したイーネスに背負われて遺跡の外に出たそうだ。

 そして外で一泊。

 翌朝にMPが回復したので目が覚めたのが先ほどで、予想通りだけど妹からしこたま怒られた……


 その後は遺跡の外で、来るときに無理をさせた馬の回復を待ってさらに一泊し、大事を取ってゆっくりと馬車を走らせてほぼ丸一日掛けて街に帰ってきた。

 つまり─意識があったのは二日だが─街に帰るまで三日掛かった計算だ。

 その間、すっかり怒ってへそを曲げてしまった妹が口を聞いてくれなくて、おねーちゃん悲しかったです。



 三日ぶりの街、久しぶりの宿だけど妹成分が不足しすぎて死にそう。

「二人部屋を一つ。出来ればダブルのベッドが希望です」

 しれっと条件を付けた私の横から顔がひょいと出てきて、

「一人部屋二つになりますかー?」

「ええっ!?」

「ツーン」

 そっぽを向きながらそんなことを言う妹。

 口で言っちゃうか……


「ごめん、もうあんなことしないから、ね。もう許して!」

 そりゃもうマジで拝み倒したよ。

 宿屋の人が、そんで部屋どーすんのって、ジト目で見てるんだけど知ったことかっ!

「絶対?」

「うん」

「でも人を助けないお姉ちゃんなんて嫌だなー」

 どーしろと……

「だからさっ今度からはあたしのを使ってよねっ」

 ちょっ! 赤面しながらそんなこと言われるとおねーちゃん勘違いしちゃうぞ?

「うん分かった。今度からは使う、すっごい使う!」

「なんか今のお姉ちゃん変態っぽいー」

 ぐっ……妹にHENTAIって言われた。

 おねーちゃんもう生きているのが嫌になったよ。


「君たちは本当に仲が良いな。

 こっちも部屋を貰えるかな、二人部屋で、こちらはベッドは気にしないよ」

 ソフィアから意味ありげにニヤッと笑われた。



 ちなみに部屋はシングルベッド二つになった。


 さて言い訳をさせて貰おうかな!

 実はこの宿、二人部屋でダブルベッドの空きは一部屋しかなかった。

 拝み倒した結果、妹は許してはくれたのだけどね~

「ダブルはやだっ! こういう時のお姉ちゃんは変なことするもん!」

 と、妹から私の名誉に関わる発言をされてしまった。

「そうなのか?」

「失礼なっ抱き枕にするだけだよ!!」

「だからさぁー、今の季節を考えてよね!? 抱きつかれると暑いじゃん!」

「うんなんとなく分かった。お姉さん、さっきベッドは気にしないと言ったが変えてくれ、僕の部屋をダブルベッドにしてくれるかな」

 と言う訳で、ソフィアのこの発言でダブルベッドの空き部屋は無くなり、私はシングルベッドの部屋に甘んじたのだ。




 一旦部屋に入って、二人揃って食堂に降りた。

 視線を彷徨わせれば、ソフィアとイーネスはすでに食堂で待っていて、こちらに手を振ってくる。鎧を脱いだり服を着替えたりと身支度を整えた私たちと違って、どうやらあちらは荷物を部屋に置いただけらしいね。

「もしかしてお待たせした?」

「それほど待っていない。でも仕舞ったな、僕たちも鎧を脱いでくるべきだった」

 妹が今から行ってきてもいいよーと言ったが、二人は首を振った。


 料理は頼んであるそうなので飲み物だけ注文する─飲み物はすぐにやって来た─。

 まずは全員が無事に帰還したことに乾杯した。

「まずはイーネスを救ってくれて本当にありがとう!」

「ああ本当に……、あんたたちは命の恩人だよ!」

「ううん、間に合って良かったよー」

「ええそうね」


「約束通り報酬は支払うけど、僕らはそれだけでは足りないと思ってる。

 さっきイーネスと話したんだが、どうだろう。僕たちと正式にパーティーを組まないか?」

「お礼がその理由なの?」

「そのほうが今後も返していけると思ったんだがダメか?」

 その言葉に嘘はなかった─【嘘発見センスライ】の魔法効果だ─。

「イーネスも同じ意見なのよね?」

「ああそうだね。命を救って貰ったんだから、当然お礼は命で返すさ!」

 命のお礼は命って……、もしやイーネスたちは熱血体育会系タイプなのかしら?

 妹に視線を送るとのほほんと陽気な笑みを浮かべて軽めのお酒を飲んでいるので、きっと私に任せると言うことだろう。

 さてどうするかな……


「少しだけ確認させて頂戴。まずあなたたちが冒険者となった理由は何かしら?」

「僕は仕えていた国が滅んで食っていけなくなったからだ」

「あたいは元々傭兵でね、最後はソフィアの国に雇われてたんだけどさ、戦に負けた後に行く宛てが無くて気づいたらこうなってたのさ」

「つまり二人ともお金と言うか食べていくのが目的と言うことでいいかしら」

「ありていに言えばそうだ」

 隣でイーネスも同様に頷いている。


「だったら私たちとは一緒に居ない方が良いと思うわ」

「つまり君たちは理由が違うと?」

「そうね」

 と、ここで注文したメニューがテーブルに並び始めた。

 奮発したのだろう四人分にしてはかなりの量だ。

「続きはこれを片付けてから、部屋でゆっくりと話しましょう」

「う、うん?」

「あたしたちのお母さんの教えなんだよー

 ご飯は温かいうちに食べなさいってね!」

 そう言ってへへへとはにかむ妹。

「ええ、怒るととても怖いのよ……」

 それを聞き二人がなるほどなと笑い、四人でしばし豪勢な食事を楽しんだ。

 ただしこれから大切な話があるので、私も彼女らもお酒は控えめだが……



 さて場所を変えて私の部屋だ。

 ちなみに妹はあまり飲んでいないのだが、そもそもお酒に弱いので、すっかりいい気分。今は後ろのシングルベッドにころんと寝かしてある。

 合コンでお持ち帰りされるタイプ。もちろん持ち帰るのは私です。


 私は自分のベッドに座り、二人は備え付けの椅子に私と向かい合って座った。

 これから話すことは私たちの秘密に関わることだ。しかし魔法の感知結果も含め、この二人の性格ならば話しても問題なかろうと私は判断した。


「私と妹はこの大陸の人間ではないわ。

 えっと、勘違いしないで欲しいのだけど、エルフだからと言う意味ではなくて──」

 ソフィアが「分かっている、続けてくれ」と促した。

「コホン。つまり私たちは別の大陸で生まれて育ったのよ。

 そこではエルフはここまで珍しいものじゃなくて、街に行けばそうね、一日で一度も出会わない方が珍しいと言うほどかしら?」

 種族としての人口は少ない、しかし街を歩けば普通に出会えるほどにはいる。

「それは想像もつかないことだな」

「まったくだねぇ」


「私と妹は運悪くここに来ただけ。私たちが遺跡を探ってるのは、元の大陸に帰るために魔力の高い場所を探しているからなのよ」

「つまり報酬の為ではないと」

「ええ、だから生活の為に報酬を求めるあなた達と一緒にはいられないわ」

「大丈夫だ、僕もイーネスも暮らすのに困らない程度の蓄えはあるつもりだ。

 だから今度は、僕らが、君たちを帰すために協力としよう。それにこれは君にとっても悪くないことだと思わないかい」

「どうして?」

「いまこの大陸では〝光陰のエルフ〟の噂が広まっている。

 今後は美しくそして珍しいエルフの姉妹を強引に手に入れようとする輩も出てくるかもしれない。

 それを防ぐ為に、これからは君たちに変わって僕らが表に出ようじゃないか。

 ついでにエルフ姉妹は冒険者を引退して森に帰ったと言う噂も流せば、どうかな?」

「その噂の効果は知れないけれど、私たちが表に出なくなれば、いずれエルフの存在は消えるかもしれないか……、ふむ」

「だろう?」

「ついでにあなたたちの名声も上がるみたいだしね」と冗談めかして笑ってやった。

「くっく、違いないねぇ」

「いいわ、そういう条件なら悪くない。パーティーを組みましょう。

 ただし約束して欲しいことがあるわ」

「分かった、それでいい」

「また即答?」

「言っただろう。恩を返したいと、だったら約束なんて些細なことだ」

 二人そろってニヤッと笑うソフィアとイーネス。

 これはたぶん、断っても勝手についてくるつもりだったんだろうね……


「じゃあこれからよろしく。

 で、約束だけど……、まず私たちの事は必要以上に詮索しないこと、それ以外はもう仲間なのだから平等、当然報酬も山分けね」

「でもそれでは──」

「守れないならここでさよならしましょう」

 私の言葉を受けたイーネスがソフィアの脇を小突く。

「そうだった。僕はもう従うと言っていたな、悪かった」

 私はよろしくね~と二人と握手した。


 そしてもう一つ……

 もしも旅が続いたとして、人族の限りある生命に影響が出ない程度。最大でも五年でこのパーティーは解散すると言うことはしっかりと伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る