08:遭難

 私たちはトゥリンドベリの町から、南回りの海岸沿いと言う進路を取った。

 なぜ海岸沿いなのかと言えば、前に話した通り、別の大陸へ渡る船の情報とか無いかなーと思ってのことだよ。

 まぁ予想通り無いけどねー




 トゥリンドベリの町を出て最初の大きな街で、私はあちらの大陸で手に入れた宝石を売りお金に換えた。


 〝光陰のエルフ〟だとの言われ、冒険者の間で噂に上がるほど遺跡を踏破しまくっている私たちだけど、魔物討伐と違って時給にすれば報酬は低め。

 何もない遺跡だと、中で出会った魔物の討伐報酬分しか儲けがなく、掛かった時間に比例した代金にならないのだ。


 だから私は定期的に、宝石をお金に換えて補っている。

 宿泊を野宿か安宿に落とせば冒険者として得た賃金でも足りるのだけど、この大陸でのエルフの希少さを考えると高くても安全を買うべきだと判断している─夜に忍び入られて暴漢されたり、もっと最悪だと縛られてどこかに売られるなんて真っ平御免だ─。


「お姉ちゃん無理しなくてもあたしは安い宿でもいいからね?」

 と、妹は言うのだが……

 私は高級宿屋>野宿>安宿くらいの勢いでこちらの大陸を信じてない。


「ダメよ。まだ資金はあるんだから、買えるうちは安全をお金で買います」

 魔法が使えたらこんな苦労しないんだけどなー

 もちろん〝帰れる〟と言う意味と、〝防犯〟と言う意味の両方でね……




 宝石の換金を終えて冒険者ギルドに立ち寄った。

 依頼書の貼られた掲示板を見て、遺跡探索を探していく。

 ここは二枚か~、少ないな……



 一枚剥がし、二枚目を剥がそうとしたところで別の手が伸びてきて先に取られた。

「あっ」

「すまない。悪いが早い者勝ちだ」

 銀色の鎧に身を包んだ、顔立ちが整ったショートカットの騎士風の若者がニッと笑みを見せながら、依頼書をひらひらと振って背を向けた。若者は槍を持った軽装のポニテ女性の元へ行き、彼女と一言二言話すと連れだってカウンターの方へ消えて行った。


「お姉ちゃん、ぼーっとしてどうかしたの?」

 突然後ろから声を掛けられてビクッとする。

「ううん別になんでもないよ」

「嘘だぁ。さっきの騎士の人カッコよかったもんね~」

「そうかなぁ~。

 って、ええっ!? あーいうのが趣味なの!?」

 おねーちゃん許しませんよと、顔を近づけて詰め寄れば、妹は「近いっ、お姉ちゃん近いってばぁ~」と、どうどうと手で制してきた。


「あたしじゃなくて、お姉ちゃんがあーいうの好きなんでしょ?」

「いや、別に」

「だってお姉ちゃんの未来の旦那さんもすっごいごつい鎧着てたじゃない」

「なんで私は鎧フェチ扱いされてるの?」

 あいつは剣聖ですしそりゃあねぇ。つーか妹よ。普通は鎧より中身でしょ……

「えーそうなんだー」

 真顔で驚かれておねーちゃんちょっと悲しかったよ。




 一つ目の依頼で入った遺跡はハズレだった。

 かなり前に発見された奴らしくて、隠し部屋もすべて開けられていたし宝箱も残っていなかった。ついでに魔力もなしだ。

 依頼通りに、遺跡に棲み付いた魔物の間引きを済ませてギルドに報告した─発見済みの遺跡探索の依頼は大抵が棲み付いた魔物の間引きだ─。


「お疲れ様でした。

 これほど早い日数で依頼を終えるとは、流石は有名なお二人ですね」

 ─目深にローブを被り種族の特徴である耳は隠しているが、ギルドの人にはこちらの素性が筒抜けなのは仕方がない─

 お世辞か本気か知れぬ台詞を、すっかり張り付いた感のある笑顔で言うギルドの受付嬢─きっとエルフが珍しいから話したいだけだろう─。

 私は適当にやり過ごして報酬を貰い、カウンターの列から抜けた。


 私は妹を待たせていたテーブルへ戻り席についた。

「ただいま。ご飯は注文してくれた?」

「うんー」

「失礼、ここ良いかな?」

 横から突然声が割って入ってきて顔を上げると、そこには前にニアミスしたあの銀鎧の騎士が立っていた。隣には槍使いが、あら、いないわね?


 その騎士はこちらの返事を聞く前に勝手に座り、こちらを見ながら、

「光陰のエルフって言うんだって?」

 妹がガタッと席を揺らした。もちろんすぐに立てるように椅子を引き摺った音だ。

 用心してフードを目深に被っていると言うのに、その二つ名を言われたのだから、妹が警戒するのも無理はない。


 さてはて、どういうつもりかな?

「相方さんはどうしたの?」

「その件で相談があるんだ。

 ここの食事を奢らせて貰ってもいいだろうか?」

 顔から笑みは絶えないが、しかし声が焦っているように聞こえるのは私の気のせい?


 さて今のところ【敵意感知センスエネミー】に反応なしか……

 ─妹に意識が行っている間に唱えておいた─


────────────────────

名前:ソフィア

種族:人族

年齢:21

称号:パラディン


HP:257/257

MP: 52/ 52

ST:216/216

────────────────────

 『パラディン』

 高位騎士

 物理攻撃に耐性

 衝撃に耐性

 盾使用時にHPおよびST上昇

────────────────────



「ご馳走になると、あなたのお願いを聞かなければならないのよね?

 例えば遺跡に取り残された相方を探す手助けとか……」

「そうとは限らない。しかし、そうだな。そこまで分かっているのならば話くらいは聞いて欲しい」

 今の台詞は【嘘発見センスライ】に反応があった。ただし全くの嘘ではなくて、話だけじゃなくて願いを聞いて欲しいと言う願望と言う意味でね。


「高い食事代になりそうだから止めておくわ」

「食事は手付けで、報酬は別に払おう。これならどうだろう?」

「なぜ私たちなの?」

「君たちに実力が伴っているからさ」

「そうかしら珍しさから付いた二つ名かもしれないわよ」

「僕はそうは思わない。

 実は僕らは君たちが行った遺跡に別件で入ったことがある。僕らも同じく二人だったけど、これほど早くに解決は出来なかった。だから頼む」

 切羽詰まった声、嘘は無しか……


「相方さんが捕らわれてから何日経った?」

「今日で二日目だ。食事は四日分あるが、彼女も馬鹿じゃないからきっと節約はしていると思う」

 それを聞いて妹が席を立った。

 視線を向けると、

「時間がないんでしょ、ほらお姉ちゃんも早く!

 いーい、ご飯は後で絶対に奢ってもらうからね」

 妹にそう言われてしまえば仕方がない。

「案内してくれる。ただ私たちはあしがないのよ、移動と案内はお願いね」

「助かる!」



 美麗な銀色の騎士は、ソフィアと名乗った─【鑑定】で先に知っているのは置いておいて─。

「女の子の様な名前なのだけどもしかして?」

「ああ僕は女だ」

 それを聞いて「ええっ!?」と妹の驚く声が馬車の中に響く。

 私もビックリしたけれど、そこまで驚くのは失礼過ぎるよ~とか思ってたら、

「言われ慣れてるから気にしないで」と苦笑された。


 確かに言われてみれば、やや中性的だけどまつ毛は長いし唇も薄くて柔らかそうだ。

 そして胸は……、鉄板に覆われて不明。

「……お姉ちゃん、何見てるの。そして何見て赤くなってるの?」

「赤くなってはいない!」

 情報は正確にお願いします!


「見てたのは認めるんだね」と、ジト目。

「馬鹿だなぁ焼いてるのかい、私が見つめるのは君だけだよ」

 なんとなくノリでそんなことを言って妹の頬を手で触れた。

 すると妹の方も調子に乗り、「あらありがとう」と言いながらすっと目を閉じて唇を突き出してくる。

 これ以上は洒落にならない。

 はい終わり~とばかりに手を開き顔を掴んで追いやると、「ひどいよぉおねえちゃん」と手で押さえつけられた所為で口篭った抗議の声が聞こえた。

 くっくと嗤っていると、御者席の方からも笑い声が聞こえてくる。

「あら少しはマシな顔をするようになったのね」

「気を使わせて悪かった」

「その分報酬のご飯は弾んでよねっ」

 妹の台詞に、ソフィアまた声を上げて笑った。

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