07:森の遺跡②
階段に入ると【
うわぁ近代的だねーと、意に返さない私とは違って、妹は「うひゃあ!?」と可愛らしい声で驚いていた。
さすが私の妹だ、なんて可愛い声かしら?
ちなみに電気が点いたとともにシュッと入口が閉まった音がしたので、どうやらこの施設は生きているようだね。
えっ遺跡じゃないのかって?
こんな近代施設、もう遺跡なんて呼んでやるもんか!
一歩一歩階段を降りながら、長いな~とぼやく。
なんでエスカレーターじゃないのかしら?
そう言えば何も襲ってこないけど、重要施設だとロボが護ってそうだけどなーと悪い予感が頭を過る。
そんな予感が頭を過るのも、この場所の魔力量の所為だろうね。
実はこの大陸は【転移の魔法陣】を発動するほどの魔力が無いと言うだけで、少しだけならば存在していた。しかしこの施設に入ってからは、空気中の魔力はほぼ皆無になっている。
『希薄』から『無し』へ、この差は大きい。
たぶんここでは寝てもMPが回復しない気がする。
魔法が無い私って微妙なんだよなー
あれ?
「ねえ鎧の【
「お姉ちゃんも? やっぱり発動してないよねー」
なるほど、どうやらこれも『希薄』と『無し』の差っぽいなぁ
あっヤバい!
慌てて腰に手を回して確認するが、予想通り【魔法の袋】も反応なしになっていた。もしも中身が失われていたらと思うと嫌な汗が出る。
この行動で、全財産と【転移の魔法陣】が一瞬で失われたことになる!!
一抹の不安が拭えず、
「ちょっと一旦戻るよ」
「えっなんでー?」
「ここはどうも魔力が無しの空間みたい。この中じゃ【魔法の袋】が発動しないから、食事も薬も取り出せないよ」
慌てて妹も確認したが、やっぱりあちらの袋も反応なし。
食い物よりも薬よりも魔法陣の方がヤバいって言うのはもちろん言わない!!
先ほど降りてきた長~い階段を今度は上り始める。
ああそうか、だからエスカレーターじゃないんだな~とその理由が分かったよ。
上り始めて三分ほど、通路の灯りが白から点滅の赤に変わった。そして、『ビィビィビィ』と、今度はけたたましい警戒音が鳴り始める。
いよいよロボが来そうな雰囲気だわ。
こんな状態で会いたくはないので、慌てて階段を駆け上る。
しかし私はこの施設をまだ舐めていたらしい。
足をかけた段がガタンと音と共に失われた。つまり階段から段が失われてフラットに変わったのだ。
こうなるとただの滑り台で、無様にうつぶせになった私と妹はその勢いのままシャーっと元階段だったスロープを滑り落ちて行った。
※
ぶべぐしゃ!
「ぐぇ」
決死の覚悟で妹の頭を抱えて落ちた結果、私は妹の下敷きになった。
妹に怪我はなかったので、おねーちゃんは本望です。
「いててありがとうお姉ちゃん」
「どーいたしまして」
どれだけガチで痛かろうが、ぐっと涙をこらえるのも姉の役目だよ!
ちなみに細い妹の肘が脇腹に入ったのでマジで痛い……
ここは真っ白の部屋。点滅と警告音はいつの間にか消えているのだが、さてどこまで落とされたのだろうか?
「出口が無いなぁ」
三六〇度すべて白色。ドアノブやらスイッチの類は無し。
ゾンビ映画のワンシーンが頭を過る。ここでどこぞの壁が開いて、ゾンビか研究者がやってくれば、映画のまんまだよ。
ただし地球よりも文明レベルが高そうなので、出てくるのはそんなものよりも警備ロボの気がするけどさ……
嫌な予感は当たるもので、何もない壁の部分がシュッと開いて、一メートルほどの頭が丸い円柱のロボが無数に湧き出てきた。
「お、お姉ちゃん!?」
妹が怯えた声をだして私の袖をぎゅっと掴んだ。私は「大丈夫だよ」と妹をそっと抱き寄せた。
それはただの行動で根拠なんてどこにもない。
ロボの頭の部分が開き一本の黒い線が現れた。その黒い線を左右に行ったり来たりと赤いラインが点滅し始める。
体内のMPを使えば一発くらいは【
いよいよ呪文を詠唱しようかなーと言うときに、
『ピーガガガ(侵入者に告ぐ身分を証明せよ)』
赤のラインが小刻みに左右に揺れてロボが古臭い音を出して鳴いた。
「なんか音だしたよ!?」
「ええ、聞こえたわ」
異世界転生の特典で得た『言語理解』のアビリティを持っていなかったらヤバかった。きっと今の機械音が理解できずに、ここで命を落としていただろう。
「私たちはエルフ族よ。危害を加えるつもりはないわ」
そちらが何もしないなら~とか余計なことはもちろん言わないよ。
『ピーガガッガ(意思疎通を確認。言語を解析、しばらくお待ちください)
a、ア、あ、言語設定完了。聞こえますか、えるふ族』
「聞こえるわ」
『我々はこの星に不時着して救援を待っています』
「もしかしてここは宇宙船の中って言いたいの?」
『えるふ族、あなたと我々には情報の齟齬があります。あなたの言う〝ここ〟はこの場所を差していると推測します』
「そうね」
『我々の言う〝ここ〟はこの島を差します』
「えっ……、この半島が宇宙船だっていうの?」
『今の発言で情報の齟齬が解消されたと認識しました』
マジかーどんなけデカい船よ!?
ってことは待って、この島が科学文明の宇宙船だってことは魔力なんてなくない?
「ねぇ宇宙船ってなに、お姉ちゃん何言ってるのよ」
理解できていない妹には少しだけ待っていてと微笑んでおく。
「私たちは魔力を探して来たのだけどあなたたちの科学力で調査は出来ないかしら?」
『魔力でしたら現在は生命維持装置に変換して使用しています』
ちょっ!! ここらの魔力が無いのはお前らの所為か!?
「ちょっとだけ止めて貰えるか、魔力少し分けてくれないかなぁ」
『救援が来るまで乗員の生命の維持を優先。拒否します。拒否します』
「ダメだこりゃ」
「お姉ちゃん、もう諦めようよ」
「そうだね、ここから離れる方が魔力が多そうってのは分かったから、今度はここの反対側を目指してみようか~」
なお帰りはエレベーターだった。
宇宙船の表面を覆っているのは彼らの文明の成せる技なのか、それとも本気で表面を覆うほど昔から救援を待っているのか、まぁ私が知ったことじゃないけれど……
この島に出ると言われる魔物はきっとロボだろう。
高文明の兵器を棒っきれで倒すとか、どんなけ運良ければ倒せるのかしらね?
納得の生存率の低さだわ。
義理なんてないけれど、一応集落に立ち寄り宇宙船の話をしてみたが、森に入ったエルフの頭が狂ったと言われて相手にされなかった─過去にもそんなことを言い出す冒険者がいたらしい─。
話を聞いて貰えないだけならまぁ仕方がないか~と思うけどさー
でもね、先達の一部から、『俺たち女に飢えてます』と言う雰囲気を感じたので─危険感知系の魔法に反応した─、集落では何も口にしなかったし、宿泊することもなくすぐに外に出た。
MPが勿体ないけれど、後をつけてきた不埒な輩を撒くために、久しぶりに【
どこぞの王国の街から逃げた時のことを思い出したよ……
その後は森と海岸を行き来して船を待ち、私たちはほんの少しだけ生存率を少しだけ上げることに貢献した。
ちなみに【魔法の袋】の中身は欠損なしだった─マジ良かったと思う─。
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