04:出航
一週間も待ちぼうけを喰らって、やっと船が帰ってきた。
そもそも行き来する船が一隻しかないってのがおかしくない!?
という、私のボヤキはこの際置いておいて……
一週間経った今ではすっかり私たちの噂が町中に広まっていた。
相手をするのも馬鹿らしいと、無言を貫き無視し続けた結果ついたのは、〝愛想のない方〟と言う新しいあだ名だ。
〝金と質の悪い銀〟だの、〝光と陰〟だのは言われ慣れている。
だけど愛想がない方か~
これは凹むわ……
そもそもだよ? 妹だってにこやかとは程遠く、睨みつけるだけじゃん!
もしかして、こいつらマゾなのかなぁ……?
そんな訳で、いまでは必要な道具を買いに町に出れば、「あっ陰の方」だの、「チッ粗悪品か」とか、「こっちは愛想がないんだよなー」とか。
おい、お前ら全部聞こえてんだからな!?
エルフの耳舐めんなよ!?
まぁあだ名が嫌だからと言って、今さら愛想を良くするつもりはもちろんなくて、私はいつも通り彼らを無視してやり過ごした。
下手に睨んで、マゾどもにご褒美あざーすとか言われるのも癪だもんね……
「おっかえりー!」
宿のお部屋に帰るとテンションの高い妹に出迎えられた。
頬がうっすら赤いのでちょっとお酒が入っているのかな?
「チケット取れたよ。出立は明後日だってさ」
「やっと半島に渡れるんだねー」
「長かった……」
「今度の遺跡は魔力があるといいねー」
「ほんとにそうだね」
あれから私たちは魔力のありそうな古代遺跡を片っ端から踏破してやった。しかしこの大陸では、魔法陣が起動するほどの魔力は得られず今に至る。
今度の半島では珍しい固有の魔物も多いというから期待しているのだけどね……
「で、そっちはどうだった?」
「無事に冒険者ギルドの情報は手に入ったよー」
えっへんと胸を張る妹。残念かな、エルフなので貧乳だ。
まぁ私よりはでかいけどさっ
妹の頭をなでなでしてあげて紙を受け取って開く。
そこにはこれから渡る半島のざっとした地図と、今まで発見された遺跡の場所が記されていた。
もちろんこれは誰でも手に入るようなものではなくて極秘情報だ。
この世界で極秘と言えば、お金で解決できる話と言う意味だね。
むかーしむかしに荒稼ぎしたので、私はお金に困っていないから金に物を言わせて情報を買った。
「これで探索が捗りそうだね」
「うん、ゴールまでもう少しだねー」
「ゴールか~」
無事に帰ったら……
私は死ぬ……、つか殺される。
こんなに長い間、音信不通だったのだから、母にあったら〝死〟が視えるよ。
人生のゴールが見えてきた気がするわー
※
ここまで待たされたので船のチケット代は高額で、ダフ屋まで現れる始末だ。
ついでに言えば、お店の品も高額だった。今日明日で出ていく人数が多いからと、こちらの足元を見るかのように道具や保存の効く食料の値段が跳ね上がっていく。
時価かよってくらいの勢いでビビるね。
そのあたりの喧騒は予想できていたので、私は船のチケット代はこの町に来た時に先払いして置いたし、消耗品は先にこまめに買い足しておいて、【魔法の袋】に保管して置いた。
なお入れた物の時間が止まる【魔法の袋】がないとできないので、一般の冒険者には真似ができない高度な技だったりするよー
宿屋を引き払い港へ歩いていく最中、店先やら港やら、至る所で「高けーよ!」「昨日までの値段の二倍じゃねーか!」と言った声を聞きながら悠々と船に乗り込んだ。
ちなみに歩き去る間に三倍になってたわ─二倍で買わないなら俺が二倍半で買うって人が割って入ったのだ─。
「おっエルフのねーちゃん」
声に反応して一瞥すると、宿屋の一階で出会った頬に傷がある野蛮な男だった。
私はもちろん無視で、妹は切れ長の目で睨みつけた。
男は「チッ」と舌打ちして、相変わらずだなとぼやいている。
男を捨て置き私たちは二等客室の方へ移動した─目的地が目的地だけに、一等客室が存在しない船なので二等が最高級の客室だ─。
なおダフ屋が売るのは三等客室のチケットで、二等客室の半額くらいの値まで上がってるとか?
ちなみに普段の五倍だってさ。
定員をやや超えた人数を乗せて船が出港した。
久しぶりの船便なので暴動を恐れたという話が一つ、チケットの値段がバカ高いから儲けるためと言うのが一つ。
真偽は不明だけどさー
こいつらは安全管理とか人命優先とかいう言葉をもう少し知った方が良いと思うよ。
これで沈んだら呪ってやるからね!
半島までは一日とちょっと。
出航が早朝だったので、あちらに着くのは翌日のお昼だそうだ。
人を降ろして港へ帰るのに往復三日の予定だと言うが、海が
そして伸びた日付に比例して船の中の食事代も上がるらしいよ?
参考までに、一週間かかった前回は食事の値段は四倍だったそうだね。
二等客室の場合はチケット代に正規の一日分の食事はついている。
しかし日数が伸びると、二等用の豪華な食事は無くなり、あとは三等と同じ食事に下がるそうだ。
まぁそれは別に良いんだけどねー
食事を取る場所が部屋から食堂に変わるってのがよろしくない。
ここ一週間ですっかり知られた
そんな状況で彼らに混ざれば面倒事が手をつないでやってくるだろう。ここには宿屋の様な柵もなければ、あの頼れるおじさんもいないのだからね。
魔力さえ無尽蔵なら天候操作だってしてやるし、魔物も魔法で葬ってやるのに……
あっ魔力があったらそもそもこんな状況になってないわ。
あはははは、ハァ……
ちなみに波は静かだというのに、やっすい粗悪な船の所為で酔った……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます