02:旅の準備は念入りに

 グランドキャニオンもどきを抜けて、やっとこ辿り着いた町。

 いやぁまさか三日も歩く羽目になるとは思わなかったねー

 MPの回復速度が滅茶苦茶遅くて、魔法を節約した結果がこれだ。お陰様でMPはずいぶんと回復したけど、この遅さ、今後に不安を覚えるレベルよね。


 さて町の門に回って門番さんに挨拶をする。

 すると門番さんはぎょっと目を見開きこちらを凝視した。

「なにか?」

「すまない。君たちはもしやエルフと言う種族だろうか?」

「ええ見ての通りです」

 エルフ族特有の薄い金色の髪に青い瞳の妹、それとは色合いがちょっぴり・・・・・違うけれど双子の私も紛うことなくエルフだよ。

 どんなにエルフ色じゃなかろうがこの長い耳が証拠よっ!

 見るからに田舎の町だし、こちらではエルフが珍しかったかしらと、自分の色合いを棚に上げて首を傾げていると、門番さんはちょっと来てくれと私たちを促して町に入っていった。


 つまり門が空になるのだが……

 おーい、門番いなくなっていいの~?


 門と門番の間を行き来する視線。しかし門番さんから早く早くと急かされたので、まぁ良いのかなぁ~

 ─念のための【敵意感知センスエネミー】には反応なしっと─



 門番さんに続いて町を歩いていると、すれ違う人がみんなハト豆喰らったように口をぽかんと開けて立ち止まりこちらを凝視してくる。

 これってどういう反応だろう?


 居心地の悪い視線を受けながら少し身震いしていると、妹もそれを感じていたのか、小声で「(お姉ちゃん~)」と袖に巻きついてきた。

 おお、よしよし!

「おねーちゃんに任せなさい!」

 なんの根拠もないけど、頭をポンポンと撫でながら言ってみた─逆の手だから撫でにくいよ─。

 お陰で妹から尊敬のまなざしを貰ったのでおねーちゃんは満足だよ!



 私たちが連れて行かれたのは、なんとこの町の町長の家だった。

「ようこそいらっしゃいました。

 お二人はエルフ族だそうですね」

 にこやかに話しかけてくる町長とその奥さん。─お茶を淹れた後は隣でもの珍しそうに座ってる─。

 その表情の通り、相変わらず【敵意感知センスエネミー】には反応は無い。

 なお奥さんの方から、

「(本当に耳が長いわ……)」

 呟くような小声だけど耳の良い私エルフイヤーにはしっかり聞こえた。


「町の人も私たちを見てビックリしていましたが、このあたりではエルフ族と言うのは珍しいのでしょうか?」

「そうですね。過去の大きな戦争の所為で、大陸から魔力が失われて精霊が減ったと聞いております。それ以来、妖精族と呼ばれる種族の数は減っているそうです。

 かく言うわたしもエルフ族を見たのは生まれて初めてですよ」

 なんとびっくり、この町で珍しいじゃなくて大陸で珍しいだったようだ!


 隣では妹がのんきに「ほぇ~」と妹が相槌を打っているのだが、この子は事態の大きさに気付いていないっぽい。

 つまり今の話を集約すると、この大陸は全体的に魔力が薄いってことだ。エルフ並みにレアな場所を今から探さなければならないとか、気が滅入るわ……



 さて町長さん。

 宿とか食事やらを提供してくれると言うのでお言葉に甘えることにした。

 ─もちろん【敵意感知センスエネミー】と【嘘発見センスライ】で安全は確認済みだよ─


「ところで町長さん、この金貨を見たことがありますか?」

 取り出したのは転移前の大陸で使用されている某帝国の金貨だ。ついでに銀貨や銅貨も見せておくが……

「見たことがないですね」

「そうですか、家にあった物なのですが古い国の貨幣なのかな……

 ところで、換金所に行けばこれはこちらの貨幣と交換して貰えるでしょうか?」

「そうですね、街や王都の大きな換金所であれば量り交換ならして貰えると思いますが、残念ながら比率は随分と悪いと思いますよ」

 比率が悪いと言うことはつまり目減りすると言うことだ。

 それは某帝国さんに悪いので最悪の時までは保留としよう。


 ちなみに町長さんが、エルフ族に伝わる貨幣ならば珍しいから譲って欲しいと言ったので、金銀銅貨を一枚ずつとこちらの銀貨と銅貨数枚と交換した。なおエルフ族に伝わる貨幣じゃなくてごめんなさいと心の中で謝っておいたよ。

 これで金貨一枚分ほど、こちらの通貨を手に入れることができたわ。







 町長さんから、好きなだけ泊まっていいと言われたので─もちろん限度はあるだろう─、ひとまず三日だけ滞在させて貰えるようにお願いした。

 小さな町なのでここでの換金は諦めるとして、人々の生活やいろいろな物の相場などは確認しておきたい。

 もちろん情報収集もね!


 すれ違うだけで凝視されると居心地が悪いので、旅で使うフードローブを被って町を歩く─本当は【幻覚イリュージョン】を使いたいけど、MPが勿体ないから断念した─。

 道に並ぶ店の様子を見て、あちらの大陸との値段の違いを見ていく。通貨が違うのだから物価ももちろん違うのは当たり前だが、こういうのは早めに確認して置かないと後で痛い目を見るんだよ。


 品が直接見れる利点を生かしてまずは道に並んだ屋台から、少量ずつ料理や飲み物を買って食べてみた。どれもこれも私たちには香料や香辛料が強すぎるらしく、口の中の味覚が壊れたようにピリピリと感じる。


 隣で「ふえぇ」と妹が顔を顰めた。

 どうやら先ほど買った串焼きが辛くて食べられないらしい。

「お水飲む?」

 コップを差し出すとさらに嫌そうな顔。


 実はこの水、味がある。

 水は無味がいいというのに、こいつも何かの香料が入っていて後味が全くすっきりしない。むしろ後味はすべてこの味に変えられると言うべきだろうか。

 随分と嫌そうな顔だったけど、結局辛いのには耐えられなかったのか、妹は水を受け取って飲んだ。

「不味い……」

「だねぇ」


 MPさえ潤沢ならば【生活魔法】で水なんていくらでも出せるのだけど、この土地ではMPの回復が死ぬほど遅い。

 ぶっちゃけ、睡眠による回復以外は期待しない方が良いほどにね……


 だから水程度でMPなんて消費していられない。




 それから一時間後、私と妹は揃ってお腹を壊した。

 その勢いったら、エルフはトイレに行かないし~とか、とても洒落を言ってる状況じゃなかった。

 ─【毒浄化キュアポイズン】が効いた─


 最初は食べ物が腐っていたたのだろうと思ったのだが、診断してもらった結果、水に当ったと言われた─町長さんに話したら、念のためにと知り合いの医者を呼んでくれたのだ─。

「エルフとは噂通り繊細なんですねー」

 と言ってハハハハと笑う初老のお医者さん。

 ハハハじゃねーよ!!

 危うく美少女キャラから色物キャラに変わるところだったわ!!

 と言う怒りはさておき。


 さて詳しく聞けば、旅人の中には水が合わずに当たる人も多いとかで、漢方の様な粉末の薬を頂いた。お腹を壊したら薬、そして水を繰り返せってさ。

 そんなの嫌だーと思ったのだが、繰り返しているうちに慣れてそのうちにくださない・・・・・ようになるんだってさ……


 後ほど私専用の固有スキルである【鑑定】を使ってみたら、『濾過の不十分な水』と書いてあったよ……

 そっかーだから味つけて誤魔化してるんだ~

 どうやらこちらの大陸は文明レベルがやや低いみたいだね。



 夕食が終わり、部屋に戻る─借りている部屋は一つなので妹と同じ部屋だ─。

「おねーちゃんは冒険者登録しようと思うの」

「いいんじゃない」

「……」

「どうかした?」

 一大決心でとても重大なことを告げたつもりなのに、妹があっさりと肯定したのでおねーちゃん驚いたよ。


「えーといいの?」

「うん、だってお金ないんでしょう」

「あるし!」

「それは向こうのお金だよね?」

 おっしゃる通りで御座います……


「明日はあたしも行くからね!」

「うん、分かってる」

 私は苦笑しつつ、灯り消すよ~といって眠りについた。

 ベッドで眠ったからMPの回復が多いっぽい?



 ─とても珍しがられたが─無事に冒険者ギルドの登録を終えた。

 早速掲示板から今出ている依頼情報を確認し、目的にあった物をチョイスして、妹の待つテーブルへ持ち帰った。

「これから元の大陸に帰る為に魔力のある場所を探します」

「うん」

「だからこの辺の魔力が高そうな場所を片っ端から踏破しようと思うのよ」

 持ち帰ったのは遺跡探索の依頼書。

 昔から存在する遺跡には、もしかしたら魔力が高いまま残っている物もあるかな~と思ってのことだ。

 他だと強大な魔物のいる場所と言うのもあるけれど、魔力が薄いこの大陸で無茶をするのは危険ってことで今回はパスした。


「旅先で常にエルフの居そうな場所は探すとして……

 もう一つ、海岸線を歩きましょう」

「あっそれは分かるよ。元の大陸とやり取りしているかどうか知りたいんでしょ?」

 うん正解、さすがは私の妹だね!

 あわよくば船に乗って帰れちゃうんじゃない~ってね。

 まぁそんな都合のいい話があるとは思えないけどさ、調べる前から排除していい話でもないよね。

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