光と陰のエルフはお家に帰りたい
夏菜しの
01:新大陸発見?
「何処ここ?」
「ねぇお姉ちゃん、それはあたしの台詞なんですけどー?」
うっかり漏れた私の呟きに、きっちりツッコミを入れたのは双子の妹だ。
私の眼前に広がるのは乾燥した赤茶けた大地。イメージはそうだなぁ、グランドキャニオンかな?
思ってみて、誰に伝わるんだと首を傾げる。
そう言えばこれって、異世界に転生する前の、生前の記憶を持っているから言える表現だもんね。
古い遺跡にあった【転移の魔法陣】に乗ったらこんな場所に飛ばされてしまった。
害のない魔法陣なのは分かっていたのだけど、行き先が知れない魔法陣に乗るのは今度からやめようと
「だから乗るのは危ないって言ったのに。即死する転移先だったらどうすんのよー」
「ごめんって。でも無事に生きてるんだから、結果おーらいだよ」
「お姉ちゃんの今の台詞、そっくりそのままお母さんに言うからね」
「うっ……」
目が笑っているから本気ではないのは分かるのだけど、それはマジでやめて欲しい。家に帰ったら、マジで容赦のない折檻が約束されてしまうじゃないか。
私は【魔法の袋】から─木の板に書いた─帰りの魔法陣を取り出した。
「んじゃぱぱっと帰ろうか」
二人で魔法陣に乗りキーワードを唱える。
こんなものがあるから危機感が失われているとか言っちゃダメだ。なんでも備えあれば憂いなしなのよ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや魔法陣が反応しないな~と思って」
「壊れてるんじゃない」
【魔法の袋】に入れっぱなしなので壊れるはずはないのだけど、万が一と言うこともある。念のために魔法陣から降りて板に掘られた模様を確認してみた。
しかしどこも壊れているようには見えない。
大丈夫だよ~と言いつつ、もう一度試したがやはり発動せず。
まっいいか。
「もう一枚出してみよう」
こちらは家に帰るやつじゃなくて、生まれ育った森の中の一軒家に繋がる魔法陣だ。
とっくに使わなくなった奴なんだけど、非常事態なので仕方がないと思いたい。
反応なし!
「……」
「もしもーし、おーいお姉ちゃーん?」
「落ち着いてまだ焦る必要はないのよ。
だってまだ二枚あるんだもの!」
全部……
ダメでした……
「う~ん。どうやら魔力が魔法陣に供給されないのが原因ね」
「それってどうやったら直るの?」
「普通は呪文が発動すると、
「そういえばここ変じゃない?」
「言われてみれば確かに」
「なんだか潤いが無くて空気が乾燥しているような感じ」
「私もそう思うわ」
砂漠っぽい気候の所為かと思ってたけどどうやらそういう話じゃなさそうだ。
「つまり……「魔力がない!」」
「ど、どうするのよ! これって帰れないってことよね!?」
ワタワタと慌てる妹。うんうん可愛いわ~じゃなくて。
「落ち着きなさい。魔力のある場所に行けば今まで通り使えるんだからさ。まずはこの殺風景な場所を出てから考えましょう」
「いつも思うんだけどさーお姉ちゃんって不思議と度胸あるよねー」
「そう? 普通じゃないかな」
私はただ、二人で慌てても事態が改善しないのを知っているだけだよ……
「心配されると色々と厄介だから手紙を書いて送っておきましょう」
「はーい」
私が─言い訳盛りだくさんの─手紙を書きまして、妹に手渡す。
妹は手紙に向かって【
この魔法は、手紙が動物の形を取って相手に向かう魔法だ。今回は帰るだけにカエルでもいいのだけど─いや良くないか……─、大抵は地形に左右されない飛べる鳥が使用される。
当然妹が選んだのは『鳥』だったようで、、手紙は『鳥』に変化すると妹の手から飛び立ちパタパタと羽ばたいていった。
よしこれでOK!
ボトッ!
「ん?」
「お姉ちゃん……、鳥さん死んじゃったよ」
なんと魔法の鳥は、五メートルほど羽ばたいたところで力を失くしてぽとりと落ちてしまったらしい。
地面には私が書いた手紙が一通、風に揺れていた。
「なるほど。魔力が無いからか姿が維持できないのね」
はい、帰ったら叱られるの決定~!
私たちは太陽を背にして殺風景な大地をテクテクと歩いていた。
ちなみにこの方角の先に何か視えたとか、魔法で何かあるぞと分かったとか、そんな大層な理由じゃなくて、太陽に向かって進むと眩しいし、熱いからです。
さて同じく無言で歩く妹が何を考えているのかは知らんけどっ!
私はただぼぅ~と歩いている訳ではない。歩きながらも果敢にこの場所を調査&解明しているのだ!
魔力のない場所で真っ先に知っておくことは一つ。
私の手持ちの魔法がちゃんと使えるかどうかでしょ。
何故なら体を動かすのが得意な妹と違って、武器で戦うのが苦手な私にとってはかなりの死活問題なのです!
歩きながら簡単な魔法を発動させてみると発動した。
しかし威力がしょぼい気がするな……
いや待て、そもそも簡単な魔法ってこの程度のしょぼさじゃなかったっけ?
う~ん。普段はMPに困ってなくて、しょぼいのなんて使わないので判んないや。
魔力の動きを察知して妹がこちらを振り返って立ち止まった。なお私の体力が無くて遅れていたのではなくて、他ごとに気を取られていたからです!
「何してるのお姉ちゃん」
「魔力がないこの場所で魔法がどのくらい使えるか試してるのよ」
「それだったら普通に使えるよ」
「その根拠は?」
「鎧にかけた【
そんなことは妹に言われるまでもなく、私だって自分の装備に掛かった魔法効果が発動しているのは把握している。
そもそも【魔法の袋】から品物が取り出せたしねぇ
「自分で唱えてみたらどう?」
「ちょっと待ってね」と言うと、妹はあらぬ方向に向かって魔法を詠唱した。
「【
氷つぶてが、妹の前方に突き出した手のひらから出現し、前方に向かって飛んで行った。
「ほらっ大丈夫みたいだよ」
「ねぇ今の氷小さくなかった?」
「えっそうかなぁ? う~んそこまで見てなかったなー」
よし。
風と氷を『
そいやっと手を前に出して、
「【
ゴォォォと巻き起こる氷と風の嵐。
うん涼しくなった~
じゃなくて!
「あれぇ小さいよ?」
「そうね……」
これは【水魔法】と【風魔法】のスキルレベル双方が上位ランク以上の時に、『
広範囲魔法と呼ばれるだけあって、普段ならば貴族の大邸宅なんかも軽く飲み込むほどの大きさなのだが、今現れた【
どうやら五分の一くらいの威力に落ち込んでいるようだ。
これじゃただの範囲魔法じゃん……
さらにもう一つ。
私は自分のステータスを見て「うわぁっ!」と、驚きの声を上げた。
「今度は何?」
「ふぇぇ~、おねーちゃんMP無くなっちゃったわ……」
「ええっ!?」
「うわ~んMPが全然回復しないよぉ~」
転生後に得た新たなレアな称号の効果で人並み以上に回復するはずの私の魔力が、先ほどからほぼまったく回復しないのだ。
そっかーこいつってば自然界から魔力を得てたんだ~と、知らなくても良いことを知ってしまったよ。
「魔法が使えないお姉ちゃんって……、すっごく役立たず」
「酷っ!」
「でも事実でしょー」
反論のしようは無く、仰る通りなので私はそっと視線を反らしたさ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます