第8話 MAでの夢の中

僕は深い眠りについた。夢の中で、僕はこれが夢だと自覚してみていた。目の前、王宮が見えた。記憶の中を探る。間違いない。2000年前のMAの王宮、僕の王宮だ。入り口に衛兵がまっすぐに立っている。衛兵からは、もちろん僕の姿は見えていない。僕は重い城壁ドアを透明人間のようにスーッと抜ける。中庭に規則正しく植えらた緑の木々が輝いている。とても気持ちのよい中庭だ。僕の好きな庭園、間違えない。僕は、王宮内に入った。長い廊下、ふかふかの絨毯。懐かしい感触だ。王の広間で王と大臣達が険しい表情で話合いを行なっていた。

“思い出したことがある”そうだ。この会議は戦闘が激化する2日前の会議だ。僕はこの時参加できなかった。いや、正直には参加したくなかった。夢なのに思い出したら今も胸の真ん中がドロドロ苦しくなった。この時、僕は嘘をついた。嘘をついて“熱がある”と自室にこもっていた。この戦略会議は、月の星人の能力の無効化、つまり月の征服の会議だった。この時期、宇宙全体が混沌としていた。星の奪い合い。僕は次期王だが、平和主義だ。権力争い、ましてや他の星への侵略などできない。奪い合い嫌いだ。MAの星人達のことを考えると他の星を手に入れることでMAが豊かになると分かっている。しかし、それには代償がいる。何かを得るために時間、労力は惜しまないが、“命は別だ。犠牲者の上に得るものなど何もない。”これが僕の譲れない意見だ。『甘い』その通りだ。王や大臣たちは言う。“しかし何が悪い。”『上に立つ立場として、いかがなものか?』参加しないでも大臣たちの口癖が目に浮かぶ。しかし、その大臣たちは、もちろん王や僕を含めた王族たちは誰一人、血を流さない。テーブル上の議論のみ。このおかしな状況を僕はどうしても受けいれられない。一般人の犠牲のもとに月との全面戦争。”ありえない。”それに僕は、すでにナシル姫と出会っていた。ナシル姫を人質に?殺す?そんなことはできない。僕には考える余地はなく、できない。だから僕は逃げた。この腐った略奪の野蛮な2000年前の世界から逃げた。もちろん逃げずに王や大臣たちと議論して戦う道もあったが、すべに彼らの性質を見抜いて、僕はあきらめた。戦わない。奪わない。血を流さない。すべて僕側の都合だ。自分の意見が通らない時は“逃げてもいい”と僕は思う。卑怯だと言われても自分の血を流さず勝利を得るなんて。ありえない。「やあ、ジョン。」突然イルが現れる。僕は思わずイルの肩を捕まえて、「イル、2000年前の自分の星、MAのワープ、送ってくれてうれしいよ。し・か・し、今僕は2000年前の夢の中で、もがいているんだ。それに記憶は、いっぺんに戻らない。ピースのかけたパズルのように僕の記憶はまだ、虫食い状態だ。こんなのおかしいよ。マンガだったら2000年前にワープした時点で記憶はすべて思い出して、OKのはずが。イル、ちょっと手が凝りすぎ。もっとシンプルにワープさせてほしい。記憶をすべて戻してくれ。頼む。」イルが少し偉そうに「仕方ないな。じゃあ、交換条件だ。僕はお宝ハンターだ。まず、お宝をいただく。」僕は?「イル、僕は今、仮の状態でMAにいる。お宝なんて何も持っていないよ。」イルは少し意地悪そうな目をしてメタリックスライムに変身。「じゃ、君が今日、友達になったベアタの記憶から君、ジョンを消して、僕がその思い出と時間をいただくよ。」イルのメタリックスライムのボディがピカリと光る。「だめに決まってるじゃんないか。もし、今、ベアタと出会ったこと楽しい夕食の思い出を消されたら、僕は、この今のふかふかのベットを手放さなくてはいけない。それに出会いは大切だ。金では買えない。ベアタは僕の友達だ。」イルは更に意地悪な目で僕に「じゃ、ジョンは、何を僕にくれるんだい。」僕は考えた。他人を巻き込まず、価値あるもの。僕は考えた。考えた。“あった。”「イル、1年分の僕の“命”を君に上げるよ。お宝に匹敵するだろう。」イルは黙って、ニヤッと笑った。「ジョン、またね。」イルの声が小さくなる。僕の意識が薄れていく。「バタバタ。窓に鳥たちの声。太陽の朝日が部屋に入りこむ。やさしい朝の光。僕の頭の中がクリアになる。”思い出した。”僕はMAでの記憶をすべて思い出した。王たちのあの会議の日。ナシル姫は、その日、王宮にいる。そして大臣たちに殺されかける。”早く王宮へ行かなければ。僕はベットから飛び起きた。「ベアタ、ベアタのママ、おはようございます。僕は急ぎ王宮へ行かなければなりません。」ベアタのママは、何かを察したようで「ジョン、じゃ、急ぎなさい。困ったことがあったら、王都の”ムーンライト”というお店を頼りなさい。主人はMA1番の腕利きの魔道具の職人よ。こっそりと私の故郷の月の石の力を魔道具に込めているの。MAの魔道具より破壊量はすごいわよ。」「ありがとうございます。」ベアタにベアタのママはお店で使う道具の材料の荷物を渡した。「ベアタ、パパによろしくね。」ベアタは素直に「はい。」と答えた。僕はベアタのママに「お世話になりました。」と丁寧にあいさつした。そして王都行きの星内の近距離移動ワープバスに乗った。バス停に光のドアが現れ僕らは入って行った。光の線が進む。あと3分で王都に到着します。アナウンスが流れ。ビリビリビリー僕らは王都についた。

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