第5話 月の姫ナシル
僕はあっという間に、2000年前の世界に意識が飛んだ。目の前のイルが「ジョン、やっと思い出したか。行っておいで”あの時へ、あの時の君の世界へ“イルの声がだんだん小さくなる。目の前に光が放射線に現れ、僕を包み込む。僕の身体が七色に光る渦の中にすいこまれて行く。僕は飛んでいる光の中で思い出していた。僕が小さい頃、聞いた言葉だ。“タイムスリップは特別なことじゃないよ。誰にでも簡単にできるよ。記憶をたどり思い出した景色、匂い、音。その瞬間こそタイムスリップ。タイムスリップは誰でもできるよ。”そうして僕は光の渦の中から地面に「ドスン。」お決まりのマンガのように落ちた。「いた。」僕は硬い地面に落ちた。運良くまわりに人影はないようだ。僕は現代の記憶を持ったまま2000年前に戻った。僕は僕の顔を両手で確認した。鏡は?いや水でいい。「水辺。水辺。」僕は右手奥に小さな川を見つけた。顔を覗き込む。あの頃の僕だ。このMAの王子16歳のジョンだ。「死んじゃダメ。」後ろから女の子の声が聞こえた。女の子は僕のTシャツの裾を必死に引っ張った。「大丈夫だよ。僕は死なないよ。」女の子は、僕の声にホッとしたのか、引っ張っていた手を離した。僕は勢いがついて「ザブン。」水の中に落ちた。深くはなかった。水は澄んでいて気持ちが良かった。しかし、落ちたのが、カッコ悪くて「えへへ。」笑って僕はごまかした。心配そうに女の子が「大丈夫?」「うん、大丈夫。」僕は、ぬれた服を絞りながら女の子を見た。「ごめんなさい。君があんまり水辺に顔を近づけて黙っているから、このまま死んじゃうと思ったから止めようとしたの。だからシャツを引っ張って。」「いいんだよ。」「でも、あんなに顔を水辺に近づけて何をしていたの?」「あー、顔を見たくて。」「えっ?自分の顔を?見たことないの?」女の子はちょっと引いている。「いや、顔に何か泥でもついていないかな。って思ってみてただけ。」「そうなんだ。ごめんなさい。私の勘違いだったみたい。もし、よかったら、私の家、あそこ、見えるでしょう、赤い屋根の家。」「あー見えるよ。煙突があるあの家だね。」「そう。来る?」「いいの?」「もちろんよ。ママもいるし、洗濯すればこの天気だとすぐ乾くわ。」「ありがとう、そうさせてもらうよ。ところで、改めて、僕の名前はジョン。よろしくね。君は?」「私は、ベアタ。こちらこそよろしくね。それにしてジョン、見ない洋服だけどジョンはこの星の人?ジョンの星はどこ?」えっ、僕は答えに迷った。ベアタの質問もおかしい。どこの星の人?現代であれば、”せいぜい地球上のどこの国”って質問の仕方が普通だ。少し様子を見よう。「ねえ、ベアタ、僕のこの服、そんなに変かな?上のシャツはぶかぶかだし、下のズボンも短い柔らかい生地だし。このMAには無い素材だよ。」「へーえ、そうなんだ。」僕は必死に考えた。確かにお風呂上がりの短パンにTシャツ。現代でもラフな格好だ。しかし、ベアタは素地が違うと言っていたし、まあいい、出たとこ勝負だ。「これ?あるいていたら落ちていたんだ。カッコイイと思ったから、きちゃったんだ。」ベアタは、また少し引いたが「へーえ、ジョンって、貧乏なの?そうなんだ。」と受け入れた。僕は危ない、危ない。バレるところだった。とひやひや。しかし僕は”どの星から来たの?”の言葉にひっかかりを感じていた。疑問に思ったら”その場でクリア”が僕のモットーだ。「ねえ、ベアタ、この星は他の星と行き来しているの?他の星の人もたくさんいるの?」ベアタは、何をいまさら?当たり前のことを聞いているぼくにまた引いたが、「ジョン、大丈夫。君、生きてるよね?」そう言ってベアタは僕の両肩をたたく。「大丈夫だ。僕は生きているよ。ただ少し記憶喪失かも?」「そう、だから自分の顔、確かめたり、記憶喪失かー」ベアタなりに納得したようだ。
「それで ...」っと質問の続きをしようとしたら「ジョン、あそこ見て。」ベアタが指指す。現代にあるバス停だ。突然、光りゲートが現れた。人が降りてくる。「ベアタ、あれは?」「あれ、あれはバス停に決まってるじゃないの?たぶん隣りの月からの乗客よ。ここのバス停は近距離ワープ専用のバス停だから。もっと大きなバス停は王都あるわ。7.7の天の川を越えた長距離の星からのバス停は、王都ね。」
僕は驚いた。これがMAの2000年前の文明。
イル、僕を2000年前に送ってくれてありがとう。楽しくなりそうだ。「ママ、ベアタが叫ぶ。ナシル、ママー。」「えっ!僕のナシルじゃない。えっーー」
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