姫「嫁に行くことで戦争を止めたいが、わたしの顔は普通なので美しい身代わりを立てることにした」

蛙川乃井

ことのはじまり

「姫様にはこれより外遊に出ていただきます」

「外遊」

「はい。西の最果てに小国がありまして、ガラス質の花が咲くという非常に稀有な土地、姫様もお気に召されるかと」

「戦争」

「……です。戦争です。姫様にはお逃げいただきたく存じます」

「我が国もその西の小国と変わらぬくらいに小国ではないか」

「ご存じで」

「我が国は攻めづらい立地のために戦を仕掛ける国がなかった。

 それ故に建国以降戦の経験のないままと来ている」

「はい」

「戦えば負けるぞ」

わたくしは承知の上でございます」

「ということは母上と父上は承知せしめぬと」

「だって聞いてくださいよ姫様! 王様は神の加護を信じる頭お花畑のボンクラ! 王妃様は王家守護隊の力を過信するボンクラなんです!!

 兵力の違いを解いても『神がお守りくださる』とか『兵1人が敵5人を殺せばいい計算です、問題ありません』とか言うんですよ!!」

「我が親ながら阿呆なことだ」

「せめて……姫様のお付きという名目で国外に逃亡しなければわたくしも死んでしまうと思い……」

「本音ダダ漏れだぞお前」

「いいではないですか! 長年連れ添った間柄でしょう!」

「人聞きが悪いから言葉遣いを改めろ。恋人みたいではないか」

「というわけで、ぜひ姫様には国外逃亡していただきたく。

 西の国は良いですよ。私の生まれ故郷なのです」

「えっなに……お前外国人だったの?」

「はい。知りませんでしたか? 顔立ちとか髪の色とかで」

「……そういえば、出会ってからここ10年ほどまともにお前の顔を見たことがなかった」

「いつも薄布越しですからね。暑くはないですかその布」

「暑い。だがこれは王家淑女のたしなみ、婚姻するまでは人前で外せぬのが決まりだ」

「存じております」

「だが、わたしは王家淑女ではなくなる。外してもよかろう」

「はい?」

「ふむ。……なんとまあ整った顔だ。銀髪に翡翠の瞳とはさてはお前、龍だな?」

「宮中ではそのように噂されておりますね。西の国ではよくある風貌なのですが」

「お前、たしか妹がいたな。美しいか?」

「おお話が飛ぶ飛ぶ。おりますよ、我が妹ながら、驚くほど見目麗しいのが」

「そもそも。この戦の発端は、我が王家から強国へ嫁を出さなかったことだ」

「王様も王妃様も、政治的な思惑を一切理解しないですからね」

「暗君の話は脇にどけておけ。

 今、強国は東の大国にも戦を仕掛けている。我らのような小国に回す兵力は極力惜しみたいだろう」

「つまり?」

「こちらが下手したてに出れば許されるのでは?」

「もう戦だ! ってなってるのがそんな簡単に片付きます?」

「問題ない。あの国の王は美人に目がないのだ」

「……姫様、一応お聞きしますけど、わたくしの妹を巻き込んで、なにをなさるおつもりで?」

「ははは。お前の想像している通りであろうな」


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