イケメンの肖像を燃やす

今日もイケメンを燃やした。


この国ではイケメンが大人気だ。

街を歩けばすぐにイケメンのポスターが目につく。


この汗一つかかなそうな、毛も生えてなさそうなイケメン達。


俺はいつまでこのイケメンを目にしなきゃいけないんだ。


カシャーーー

「性差別反対」

そんな文言を添えてイケメンの画像をSNSに放り投げる。


すると瞬く間に同士達が「気持ち悪い」「夢見すぎだろ」「顔しか見てない奴が描いた絵」と共感する言葉をリプライしながら拡散してくれた。


この時だけ唯一、自分の居所を許されたように感じる………。


俺は生まれた時からイケメンのことが嫌いだった。


もちろん、現実の顔立ちの良い男性に罪は無い。

だが、その都合の良い部分だけを切り取って貼り合わせたキメラのようなフィクションのイケメンが大っ嫌いだった。


しかも都合の良い部分だけのはずなのに、俺にとっては全く都合が良くなく、物凄く気持ち悪いのだ。


みなシュッとしてとんがった顎になり、唇は強調され腫れぼったく膨れ上がっている。

まつ毛もそんな長いはずが無いのにフサフサに伸ばされ、肩幅は広く、それでいてのっぺりとした体つきだ。


そして見下したような気怠げな瞳で腹黒そうな笑みを浮かべ、「俺の嫁になれ」などと語りかけるーーーー

そんな奴、誰が好きになるか!


何度もそう叫びそうになった。


イケメンのポスターを見かけるたびに、そいつの胸ぐらを掴んで「消えろ!」と殴りたくなったものだ。


そう、俺は極度のイケメン嫌悪症だったのだ。


こんな話をしても、周りからは「気持ちはわからないでもないけど、気にしすぎだ。」とやんわり引かれるだけだ。


俺はこんなに苦しんでいるのに。

俺はこんなにつらいのに。

誰にも自分の苦痛をわかってもらえない孤独ーーーー

それを抱えながら生きてきた。


そんな俺の地獄の人生が、SNSの普及により一変したのだ。


世界は広く、俺と同じくイケメン嫌悪症の人が存在した。


「どうして普通に生きていたいだけなのに女性向けに歪められた男性像を目に入れなければならないのか」


俺と同じ悩みを抱える者がいたのだ!


そこで語られるイケメンへの罵詈雑言………

全て俺が共感できるものだらけだった。


もっと言ってくれ。

もっと言ってくれ。

もっと言ってくれ。

もっと言ってくれ!


もっともっと、イケメンの悪口を言ってくれよ!!!


俺は俺と同じ悩みを抱えた者が想像以上に沢山いること、イケメンはやはり害悪なものだったことがわかり、イケメンからこの世を救うしかないという使命感が俺の中に生まれた。


この世をイケメンから解放しなければ。

いや、イケメンをこの世から追放しなければ!


それから俺はイケメンのポスターやフィクションを見かけるたびに、その問題点と共に画像をSNSにアップすることが人生の楽しみとなった。


こうするだけで、同士達が「やはりイケメンは害悪」と再認識し、俺の言って欲しいことーーイケメンへの悪口ーーを語り散らし、拡散してくれるのだ!

こんなに楽しいことは無い!


だがこの活動は楽しいことだけではない。


俺のようなイケメン嫌悪症の者がいれば、反対にイケメン愛好家が存在する。


そいつらは必死になってイケメンを擁護したり、逆にこちらを傷つけるような言葉を吐いてくるーーーー


「イケメンに嫉妬してるだけだろブス」

「自分がモテないからってイケメンに当たるんじゃねえよ」

「なんで嫌いなものを受け入れられないの?心が狭過ぎるだろ」


酷すぎる。

俺は何もモテないからイケメンを問題視しているのではない。


単純にイケメンに傷つけられてきたから、その仕返しをしているだけだ。


なんで俺だけがイケメンに苦痛を味わわされなきゃいけないのか。

イケメンが好きな奴らの為だけに、なんで俺がこんなに苦しまなければならないのか。

イケメンが好きな奴らの楽しみは、俺とその同士達の犠牲の上に成り立っている。


そのことを、世の中みんなに思い知らせてやるためだ!!!


そのために俺は今日もイケメンを燃やす。

この世からイケメンがいなくなるその日まで、俺はイケメンを燃やし続ける。


俺はイケメンを、絶対に許さない。

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燃えるイケメンの肖像 ユダカソ @morudero

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