17.浮気現場じゃないんだから
17.浮気現場じゃないんだから
―伊織―
スマホを握りしめる手が、寒さでかじかんで動かなくなりそうだった。
今から行く、から結構時間が過ぎている。一体どこから来ようとしているのかも知らないのに、もう少し具体的に情報を教えてほしい。相手は芸能人だし、一般人にあまり詳しい事は言えないのかも知れないけれど。
それにしても、寒い。
眞白は大丈夫だろうかと思って隣を見ると、何やら浮かない表情でスマホを見つめていた。つん、と華奢な肩を押す。
「(どうしたの)」
聞くけど、眞白は小さく首を振るだけでまたスマホへ視線を戻してしまう。
もしかして、と嫌な予感がわいた。もう一度、眞白の肩を叩く。
「(約束してた相手、怒ってる?)」
すると、慌てた様に眞白は笑ってみせた。
「(大丈夫、気にしんといて)」
気にしないでと言われても、どう見ても何かあった顔をしている。
頼むから早く来てくれと思いながら顔を上げると、明らかに周囲から浮いた雰囲気の二人組がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
どちらも細身の長身だけど、ニット帽に見覚えがあるから左側を歩いているのが瞬だろう。もう片方が誰だか分からない。もしかしたら悠貴を連れてくるかも、という淡い期待を抱いていたが、どうやら外れらしい。
「え、わっ」
急に肩を掴まれてよろけた。
「何?眞白……」
振り返ろうとしたら、眞白は俺を盾にするみたいにして背後に隠れてしまった。もっとも、眞白の方が俺より背が高いからあまり意味は無い。
「ごめん伊織くん。遅くなっちゃった」
ようやく俺の前まで歩いて来た瞬が首を傾げる。
「えっと……お友達はどうしたの」
「いや、なんか急に」
「……眞白?」
不意に、瞬と一緒に来た男が口を開いた。
「あれ、大知くん知り合い?」
瞬が男の名前を呼ぶ。
大知。そういえば、そういう名前のメンバーがいたような。
「眞白、呼ばれてる」
背後に手を伸ばし、眞白のコートを引っ張る。ようやくおずおずと顔を覗かせた眞白の表情は、ものすごく気まずそうだった。
「……ふうん」
大知さんは、眞白を見るとぼそりと呟いた。
「大事な用事、ね」
それを聞き、眞白が見せてくれたメッセージアプリの画面が脳裏をよぎった。
……もしかして。
眞白を見ると、泣きそうな顔で助けを求めるように腕を掴んできた。その手には、いつも通り指輪が光っている。
ため息が聞こえてきた。
「そんな、浮気現場見つかったみたいな顔しないでくれる」
「……あー、えっと。取りあえず店入ろうよ。ね?」
場をとりなすように瞬が間に入ってくる。促され、重い足取りで店に入った。
……何なんだ、この空気。
そもそも何で、俺はここにいるんだっけ?
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