第43話 もふもふヤギを守れ!? そして、リコが母になる……!?



 今回の町では、やっぱりいろいろとあったんですけど……。


 まずはギルドから。

 リムレさんは、僕たちの開拓村はとんでもない危険地帯で、初期開拓メンバーはみんな死亡した、という報告をした。まあ、これは完全に虚偽報告ですね。


 理由は、3年間の無税の期間? それを延長するため、とのこと。なるほど? でも、いいのかな?


 まあ、こまかい部分は気にしないことにします。


 ……サイゼラさんたちは、もうこっちに戻る気はないって言ってたし。


 実際、クマとか、トラとかで、危険地帯であることは証明されてるらしいし。


 そして、ギルド長の説明不足を理由に、リムレさんは退職してしまった。その時にギルドからがっつりと巻き上げた為替で、キッチョムさんたちと3人分のお嫁さん奴隷を購入して……。


 まあ、いいんですけどね?


 僕とリコも、新たに奴隷を購入して、今回はちょっと奴隷だけじゃなくて、家畜も購入した。サイゼラさんたちが、防壁があるから家畜が飼えるって主張したので。これがなかなか高かったですね……。


 ヤギ……というか、かなりアルパカのようなヤギでしたね。ええと、すっごいもふもふ感? あと、首が長めな感じ? 角はぐるんと巻かれてます。


 それを5頭、購入して、開拓村へと連れ帰ることになった。


 これがもう、本当にいろいろと大変でした……。






「テッシンさま!」

「テッシン! あっちからもくるよ!」


 僕は、瞬間移動のように見える最大の身体強化で、あっちこっちと移動しては、オオカミさんを蹴り飛ばしているという状態で。


 これでもう何頭目か……いちいち数えるのも大変な感じになってる。


 原因は、アルパカのようなヤギ。


 こいつが、めちゃくちゃオオカミさんに狙われているんですよ……。


 まあ、オオカミさんを倒すと、その毛皮を剥ぐので、さらに荷物も増えたりしますし……。

 このオオカミの肉は、あんまり美味しくないんですけど、新しい奴隷家族さんとか、新しい奴隷お姉さんとかは、喜んで焼いて食べてるというカオス……。


 前回、ヤギなしの時とは違って、本当に、毎日のようにオオカミさんがヤギを狙ってやってきます。どれだけヤギが好きなんだ、まったく……。


「ヤギが村に必要とはいえ……こう何度も襲われては……」

「テッシンさまがいなかったらどう考えても全滅っすよ……」


 リムレさんがため息をつき、キッチョムさんも額の汗をぬぐってます。


 まあ、このヤギ、なかなかすごい家畜らしくて。


 まず、糸づくり、布づくりですね。もふもふの毛が糸になって、布になるそうです。あ、オオカミの毛皮から取れる毛でも糸は作れるらしいですけどね。だから毛皮の回収が大事みたいで。


 それと、ヤギの乳。そのまま飲むこともあるそうですが、料理に使うことの方が多いらしいです。あと、なんと、そこからチーズも作れるとか。食卓を豊かにする夢がふくらみますね!


 そして、角。これもなんか、いろいろと使えるらしいです。切り落としても、また生えてくるんだとか。何ソレ、どういう仕組み?


 最後に、ヤギの肉。まあ、そろそろ死ぬだろうってタイミングまでは食べないらしいですけど……。

 ヤギの肉はクマさんよりも美味しいとリムレさんやナーザさんが力強く言ってましたね……。

 めったに食べられない……そりゃそうか。死ぬまでいろいろと利用するから、食べる機会は最後の最後になるんですね……。


 ただ、残念なことに、オオカミさんにめちゃくちゃ愛されてるらしいです。そんなに美味しいんなら、オオカミさんからしても、そういうことなのかも……。


 でも、ですね?


 かわいいんですよ、ヤギ。


 夜、引っこ抜いた木で囲んで作っておいた拠点で、僕のマントにリコが入ってきて、休むんですよね。だけど、その僕とリコに近づいてきて、座り込んで、身を寄せてくるんですよ。


 もっふもふのぬっくぬくで、リコとふたり、まるでコタツの中みたいにあったかくて……。


 動物って、こんな感じで懐かれるとめちゃくちゃ嬉しいというか、わかるよね?


「……いや、どこが一番安全か、動物的なカンで分かるんだろ」

「大正解っす」

「夜が一番、危険だから」


 ナーザさん、キッチョムさん、リムレさんが、そんなことを言ってますけど、まあ、それはどうでもいいです。


 守ってあげたくなる態度ですからね。ヤギたちは。






 開拓村……という名の巨大な防壁がある城塞村まで、あと2日というところで、日課のオオカミさんの襲撃がありました。


 もちろん、問題なく撃退したのは、したんだけど……。


 僕は身体強化で耳も敏感になっていて、ですね。


 まだ、どこかにオオカミさんが隠れてるってのは、音で分かるんですよ。ただ、僕の経験不足で、それがはっきりとどこかは分からないという。場所だけは不明。


 こういう時に頼りになるのは、リコの『直感』スキルです。


「……あそこ! テッシン!」

「ギャウっ……」


 リコが矢を放つと同時に、オオカミさんが隠れている位置を僕に伝える。僕たちって本当にいいコンビ。


 僕はリコの矢を追って……。


「あ……」


 リコの矢は隠れていたオオカミさんの目を貫いていて、それでオオカミさんはお亡くなりになっていたんですけどね。怖いな、『直感』スキルの力。


 ところが、すんごく小さい、赤ちゃんオオカミが、そこに4匹もいたんですよ。どうやら、リコが射殺したのは、お母さんオオカミだったらしくて……。


 これがいずれはあのサイズに成長するのかと思うと、生命の神秘を感じます。


「テッシン? どうし……」


 僕のところに近づいてきたリコが、僕の後ろから、赤ちゃんオオカミを発見して、沈黙してしまった。


「……リコが悪いワケじゃない」

「……う、ん」


 ……分かる。確かに、これは、罪悪感を感じてしまう光景ですよね。優しいリコなら、なおさらそうなるはず。


 赤ちゃんオオカミ……めちゃくちゃカワイイんです。で、そのお母さんをリコは殺してしまったワケでして。


 死んで横倒しになってるお母さんオオカミに、まとわりつくように4匹の赤ちゃんオオカミがひゅうひゅうと鼻息みたいな音をさせてるワケです。


 カワイイけど、可哀想、というとても微妙な状態があった。うん。


「テッシンさまー、倒したんなら毛皮を……っと、子どもっすね。早いとこ、殺さないとダメっすね」


 キッチョムさんがそう言ったのは、こっちの常識としては正しいんですよ。


「……ダメ。この子たちはあたしが育てる」


 気持は、すんごく分かる。でも、リコが言ってるのは、こっちの世界ではとんでもない非常識で……。


 まあ、リコはキッチョムさんから守るように、すばやく4匹の赤ちゃんオオカミを取り上げて抱きかかえてしまったので、これはもう、止められない感じ。無理だ。


 キッチョムさんにしてみると、リコに逆らうってことは、僕に逆らうということ。


 何か言いたそうにしているリムレさんやナーザさんも、僕の方を見て、僕がリコを止めないと分かると、そこであきらめるという感じ。


 ……やっぱり、マズいんだろうな、これ。


 それでも僕には、今のリコを止められない。気持ちも分かるし。


 僕とリコの開拓村は、城塞村になって、魔法少女村になって……どうやら今度は動物村にも、なりそうです。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る