第80話 最強の力
語られた過去のエピソード。
そこから察するに、俺は世界を救う〝勇者〟として召喚された……ということなのだろう。
目的は当然、四彗の討伐。
勇者と言えば、フレデリクの認識でしかなかった。
だが、今は俺がその役目を引き継いだ。
……何とも不思議な感覚だ。
そして、その勇者は〝地属性〟でなければならないとも話していた。
このことが示すことと言えば、俺に宿る極域の力【
右手を握りしめ、拳を見つめる俺の耳に、ラーシェルの優しい声が届けられた。
「ハルセ、改めて伺います。貴方をこの地へ召喚した目的と役割、理解はできましたか?」
「はい。俺は勇者であり、四彗を討つ者。そういうこと……ですよね?」
「その通りです。ヴァルル」
俺が勇者か──雲の上の存在かと思っていたし、改めてそう言われても実感はない。
当然と言えば当然のこと。
俺はそんな大層な人間ではない。
「ラーシェルさん、召喚された理由は分かりました。でも、俺に四彗を倒すことが出来るのでしょうか? 勇者フレデリクでも成し得なかったこと……その時と何が違うのですか?」
「そうですね……貴方自身も感じているでしょうが、数ある極域魔法の中でも、大気振撃こそが〝最強の力〟であるということです。ヴァルル」
「最強……? 極域の中でも最強の力?」
「その通りです。貴方に与えた力は過去、勇者フレデリクへも魔技伝承を試みました……ですが、彼には適性が足りなかった。冴えわたる剣技、属性力も凄まじいものでしたが、極域にはあと一歩届かなかったのでしょう」
ラーシェルはフレデリクの話をしながら首を傾げた。
適正が必要なことは知っていたが、ラーシェルが驚くほどの属性力を誇っていたフレデリクでも、極域には届かなかったというのか……。
俺に与えられた最強の力。
これを使うには、一体、どれほどの属性力が必要だというのだろう。
「あの……フレデリクの属性力でも足りないとなると、今の俺でどうにかなるとは思えないのですが……」
「フフフ、大丈夫。心配することはありません。適性は生まれつきのものですが、属性力は鍛えることで高められます。貴方はこれからもっと強くなるでしょう」
「俺の、努力次第って話か……でも、中域魔法すらまだまだだし、先は遠いですよね。それに大気振撃が極域最強だと言うなら、他の極域と比べて何が違うんですか?」
眉をひそめた俺と、対照的に穏やかな顔のラーシェル。
「では、逆に私から尋ねてみましょう。火・水・風・光……それらに干渉できるものが一つあります。何だと思いますか?」
「他属性に干渉できるもの? 魔法を使うために必要……いや、全てに共通するものかな……それって──大気!?」
「そのとおり、気付きましたか? 世界に存在するエレメントである火も水も風も光も、大気の影響を受けるのです。全てに干渉出来る力こそが、大気振撃なのです」
(なるほど、確かに言われてみれば……大気ってこんなにすごいものなのか)
俺は一人、納得するように小刻みに頷く。
「そうですね……考えてみれば数ある魔法の中でも、これだけは別格な気がしてきました。この力があれば属性間の優劣に関係なく、対等以上に渡り合える……そう言うことですか?」
「ええ。でも、それだけでは四彗を完全に消滅させることはできません。肉体を倒したとしても、覚醒した精霊核は破壊できないでしょう。精霊核を破壊しなければ、他への転生が起こる可能性も高いのです」
「では、どうすれば……」
「大気振撃は【
各属性の理に触れる? 地属性と他属性の融合ってどういうことだ? そんなことが可能なのか?
「あ、あの……もう少し簡単にお願い出来ませんか?」
「あらあらごめんなさい、難しく説明してしまいましたね。
「俺の地属性魔法に、さらに他の属性を付与することが出来ると?」
「ええ。ただし、どこでも使えるわけではありません。発動を持続するのも難しいでしょう。貴方は地属性なんですから、その場で見つけた力を一時的に借りているだけなのです。火属性であれば火山など火の精霊が豊富な場所が必要です。他に方法があるかもしれませんが、自分だけでどこでも発動できるのは地属性だけということを忘れないでくださいね、ヴァルル」
俺の中に眠る力……。
それは、全ての属性を纏わせた地属性魔法を放つことが出来る究極の力。
しかし、その力には大きな制限もつきまとう。
まず、発動状態を維持するのが難しいこと。
長期戦は厳しいとなれば、一撃必殺的な使い方に特化する必要が出てくる。
そしてもう一つに、発動するには環境が必要なことだ。要は、都合よく敵の属性に相対する環境が得られるかどうかだが、四彗もそこに抜かりはないだろう。
(──自分の弱体化に繋がる環境での戦いは、きっと避けるはず……)
こうして考えると、使いどころが難しい魔法だ。
でも、ラーシェルも言うように他にも手段はあるのかも知れない……。
だが、その前に、先ずは大気振撃を自在に使えるようになることが大前提であるのは言うまでもない。
習得に必要なこと。
それは、属性力を鍛え上げること。
(今の俺のステータスは……)
◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆
名前 :瀬野 晴世
種族 :人間(異世界人:男)
年齢 :15歳
レベル :21
属性種別:地
属性力 :1470
体力 :1800
筋力 :630
敏捷 :550
物理耐性:700
<属性魔技>
[属魔:低]
属性開放-
[属魔:低]
属性開放-
[属魔:中]
[属魔:中]
属性開放1-
属性開放2-
[属魔:極]
◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆
(〝属性力1470〟か……これじゃあ足りないんだよな。レベルは21まで上がってる……)
俺のステータスには、今のレベルや習得した属性魔法、それに解放技までしっかりと表示されている。
でも、大気振撃に関して言えば、魔法強化レベルは〝??〟となっていた。
完全に習得出来ていれば、最低でも〝LV1〟となっているはずだ。
必要な属性力の基準とかあればいいのだが……。
「ラーシェルさん、大気振撃に必要な属性力って目安とかあるのですか?」
「いいえ、ある程度の基準が分かるのは高域まで。こと極域に関しては、どのくらいというのは分かりません」
「では、高域ならどのくらい必要なんですか?」
「そうですね……同じ領域の魔法でも必要な属性力は異なりますから、はっきりとした数字は言えませんが、フレデリクが得意としていた高域魔法を例に挙げるとすれば、少なくとも〝5000〟は必要だと思いますよ。ヴァルル」
「──ご、5000ですか……」
今の俺の属性力からは限りなく遠い……。
しかもこれを超えれたところで、極域が使えるかもどうかも分からない。
現時点で使える属性領域は〝中域〟まで。
まず、俺が目指すべきは〝高域〟
いきなり極域ではなく、段階を踏む必要があるのだろう。
(──今回はこれくらいかな……)
これから進むべき道については、だいたい分かった。俺は、談笑するルーチェリア達の様子を遠目に眺める。
(さて、そろそろ戻るか……今から戻っても夕方になるしな)
その思いが顔に出ていたのだろう。
ラーシェルが俺を気遣い、声をかける。
「そろそろ時間ですかね? 貴方もこれからすべきことを既に見定めているようです。他に聞きたいことがなければ、トリト達に地上へ送らせましょう」
(ちょっと待てよ……あっ、そうだ、まだ聞きたいことはある)
四彗封印戦……その戦いを終えた勇者のその後。
歴史書にも綴られていない真実。
俺は顔を上げ、口を開く。
「最後に、聞きたいことがあります」
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