第69話 故郷再訪

 王立図書館での知識習得に区切りをつけた俺達は、再びルーナの故郷へと向かう。


 朝一で出発し、ダカール山脈地下へと続く入口はもうすぐ……のはずだが、目に入るのは壁のようにそびえ立つ岩山のみ。


 前回の入口は何処にも見当たらない。

 俺は岩肌をキョロキョロと見回す。


 (おかしい……この辺りだったはずだが……)


 首を傾げる俺を横目に、ルーナが壁へと近づく。

 すると、どこからともなく竜の像をあしらった台座が、左右へ別れて出現した。


 「今から開けるね」


 そう告げるルーナ。

 台座に刻み込まれた紋章の上へと手をかざす。


 反応するように赤光を纏う竜像の目。

 互いに向き合うように回転し、その光を山脈の岩肌へと照射する。


 「こ、これは……」


 今まで壁でしかなかった場所に、突如として現れた地下への入口。それは、鮮明なホログラムのように映し出されている。隠されてるとは聞いていたが、一体どんな原理だろうか?


 「ルーナ、ここの出入りはどうやって覚えたんだ?」


 「声が教えてくれたよ」


 (──声……か)


 ルーナのそれと同じ声かは分からないが、俺自身に眠る力も、声によって導かれている。

 

 「ハルセ、この台座に刻まれた紋章だけど……」


 「ん? ルーチェリア、何かあったのか?」


 「うん……これって〝地〟の紋章じゃないかな? ハルセの目に浮かぶものと似てる気がするし」


 ルーチェリアは台座を指差してこちらを見る。

 俺の目……そう言えば、自分の目に浮かぶ紋章なんて、これまで確認したことがなかった。


 「そうなのか……じゃあ、ステータス表示させるから見てもらえるか?」


 「OK!」と親指を立ててアピールするルーチェリアを前に、俺は右目へと集中する。


 そして、浮かび上がる紋章。


 「ハルセ、やっぱり全く同じだよ。ここは〝地〟の紋章に関係する場所なのかも……」


 この場所が地属性に関係している?

 であれば、ここで生まれたルーナは地属性?

 つまり、地竜アースドラゴンということなのか?

 いや、本に書かれていた特徴でいうなら、古竜エンシェントドラゴンなのだが……。


 思案に耽る俺。

 だが、ふと気づいてしまった。

 ルーナ自身にステータスを確認してもらえば、一つは解決するんじゃないのかということを。 


 俺は早速、ルーナに声をかける。


 「ルーナ、今ステータスは見れるか?」


 「ステータス? あれかな? やってみる! ガゥウ!」


 気合を入れて、目を閉じたルーナ。

 「うぅ~」と声を漏らしながらも集中しているようだ。


 「……」


 「……」


 「ハルセ、ダメだった……てへっ」


 いつの間にか、笑ってごまかすことを覚えたのか……。じゃれつくように俺に顔を擦り寄せた。


 それにしても……まだ駄目ってのはどういうことだろう?


 通常、ステータス確認には、一定のレベルが必要だということらしいが、あの戦いぶりを見れば、十分に確認できる力はあると思うのだが……。


 とはいえ、本人が出来ないというのであれば仕方のないことだ。


 一先ず、これくらいにして先に進もう。



 ◇◆◇



 ダカール山脈地下へと足を踏み入れた俺達は、ルーナの暗視能力を頼りに、巨大な魔法石が突き立つ地下フロアへと辿り着いた。


 石柱のように大地へ突き立つ【魔法源石まほうげんせき】 そこから放たれる仄かな橙色の光が、俺達を温かく包み込む。


 ルーナは特に心地いいのだろうか。

 石柱の傍に駆け寄ると、抱きつくように頬をすりすりと擦りつけている。


 「ルーナ、あんまり離れるなよ」


 「うん、大丈夫。ここに居る」


 今回も以前と変わらず、俺とルーチェリアでの内部調査が始まった。


 「ハルセ、まずは歴史書の文字と照合をするんだよね?」


 「ああ。骨が折れるけど、ルーチェリアは右半円を確認してくれ」


 階層フロア内に刻まれた文字の確認。

 俺とルーチェリアは、二手に分かれて作業を進めていく。


 広さもさることながら文字の見づらさもあって、作業は予想以上に難航した。結局、全ての照合に2時間程はかかっただろうか。


 ようやく、確認を終えた俺とルーチェリアは、互いにもたれ合うように背中合わせで座り込んだ。


 「やっと終わったな……それで、どうだった? 俺のほうは全て歴史書と合致してたよ」


 「私のほうも同じ。やっぱり本が示していたのは、この場所だったんだね」


 王立図書館の〝歴史書〟にあった魔法陣のような幾何学模様きかがくもようとそこに記された文字。


 おそらく、この場所のもので間違いないだろう。


 「ハルセ、次は何を調べるの? 文字は確かに合ってたけど、この円の北と南にある〝古〟と〝地〟以外の文字が解読出来てないし、結局、何なのかは分からないよね?」


 ルーチェリアの鋭い指摘……確かにその通りだ。

 とはいえ、文字が全て分からなければ道は開けないのだろうか? こういった場合、必ず何かしらの突破口があるはず。


 ……そう言えば、入口の紋章。


 「ルーチェリア、ここの入口の紋章は〝地〟を示していたんだよな?」


 「うん、そうだけど。何か閃いたの?」


 「ああ。俺の推測だけど、この文字で描かれた円……これは魔法陣だ。そして、これを発動させることで何かが起こる。ここまでは分かるか?」


 「え、うん、わかるけど……どうやって発動させるって言うの? それに何が起こるか分からないし、危険じゃないかな?」


 「冒険に危険はつきものだ。でも心配すんな、二人は俺が守る。以前見たアニメやゲーム資料だと、洞窟内の行き止まりとかで、魔法や道具アイテムを使うと先に進むことができるってのが結構あったんだ。ここが地属性に関係するというなら、俺の力で何か起こせるんじゃないかな?」


 ……ゲームやアニメの知識を〝資料〟とカッコよく言ってみたが、まぁいいだろう……。


 俺の話に深く頷いたルーチェリア。

 安全のために、二人には範囲外へ出るように指示をした。


 俺としても何が起こるか分からない…。

 ルーチェリアは言われたとおり、石柱にもたれ掛かるように眠っていたルーナを抱きかかえると、円の外へと移動した。


 「ハルセ、準備OKだよ。とにかくやってみよう!」

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