第68話 知識の宝庫へ その5

 記述されていたのは、古竜エンシェントドラゴンという二文字。単純な閃きだが、フロアに刻まれていた〝古〟 という文字は、この古竜を指しているのではないだろうか。


 わざわざ、謎の幾何学模様の後に記述をしているのは、何かしらの関係性が…?


 俺は次のページへ続くように書かれている古竜という文字を見つけて、興味深く捲る。



 〝古竜は竜種の一種であり、その生態は謎が多い。〟



 (──あれ? 本当に、これだけ……?)


 書かれていたのは、この一文のみ。


 全く中身がない……古竜に関する情報が何一つない。謎を解く鍵を求めて読み進めたのに、これでは更に深みにはまってしまうだけだ。


 (確かめるにはもう一度、ルーナの故郷に行ってみるしかないか……)


 前向きに捉えれば、知識を入れた今の状態でなら、以前とは見え方も違ってくるだろう。


 それに、歴史書に描かれた文字との照合も完全には終わっていない。俺の気持ちは冒険へと傾きだした。


 (そろそろ進むか、次の段階ステップ……)


 歴史書冒頭の紹介欄には〝世界の成り立ち全てを網羅する一冊〟としっかり明記されているし、これだけ読めば、取り敢えずの準備としては十分だろう。それに、読書漬けの日々にも正直疲れた。


 「ハルセ、そっちは順調?」


 分厚い本を両脇に積み上げているルーチェリア。

 頭を悩ませる俺とは対照的に、にこやかに話しかけてくる。


 「ああ、順調というか、何というか……言葉が断片的すぎて、頭が痛くなるな」


 「まぁ歴史書だし、そんなに面白くは無さそうだね……。あのね、私が今読んでる本の中に古竜の話があってね、結構面白いんだよ」


 (ん?……んんっ!?)


 歴史書さえ読めば十分と思っていたが、実はそうではなかったらしい……。俺はルーチェリアに、その話の内容を尋ねる。


 「古竜の話ってどんな内容だ? 歴史書だと肝心なところが、何も載ってないんだよな」


 「うん、それがね。古竜の特徴がルーナに似てるんだよね」


 「ルーナに?」


 「そうそう。白銀に輝く古竜は竜種の王で、ダカール山脈の地下に住む地竜アースドラゴンを配下に持つって書いてある。あとは……古竜の属性は〝無属性〟みたいだね」


 ルーチェリアの言うとおり、確かにルーナ本来の姿は白銀の竜種ドラゴンだ。それに、ダカール山脈の地下に広がる地下牢ダンジョンのような領域が自分の家だと言っている。


 当てはまることは多い。でも、一つだけ引っ掛かることもある。それは、デモンサイズカマキリとの戦いの時だ。


 ルーナは、強力な火の魔法を使っていた。

 あの力は無属性では使えないはずだ。


 「ルーチェリア、他には何か書いてないのか?」


 「う~ん……後は、竜種は基本的に、本来の姿とは別の姿に擬態が出来るみたいね。地竜は、人型で生活してたみたいだし」


 竜種は擬態が出来る……。

 古竜だけに限らない話であれば、ルーナの種族としての決定打にはならない。


 「ハルセ、〝古〟と〝地〟分かったぁ?」


 隣から、ひょっこりと顔を覗かせるルーナ。

 俺とルーチェリアの会話に割り込んでくる。


 「〝古〟と〝地〟? 何のこと?」


 「覚えてないか? ルーナの故郷に刻まれた文字があったろ? 歴史書にもそれが載ってたんだ。その中に〝古〟と〝地〟を示す文字があった」


 「それって、この本に出てくる竜種とは関係ないよね? 〝古〟が古竜で〝地〟が地竜を指してるとか?」


 俺も考えたことだが、ルーチェリアも同じ……ってことは、意外と核心を突いている可能性があるのでは?


 ダカール山脈の地下に住む地竜を配下に持つという一文からも、仮にあの場所の地下に古竜や地竜の根城があるとすれば、刻まれた文字は、そこへの入り口を開く魔法陣なのかもしれない。


 ……これは、確かめる価値がある。


 俺達はその後も、古竜に関する本をたくさん読んだ。だが、それ以上の情報は得られなかった。


 知識習得もいよいよ最終局面。俺達は多くの知識を学び、この世界についての理解も以前に比べれば、大きく深めることが出来ただろう。ここからは詰め込んだ知識を〝活きた知識〟に変えていく。


 「さてと……半月も知識を学んだし、そろそろ次の段階に行こうかなと思ってるんだけど……」


 「次? 私はまだまだ読みたいのあるんだけどなぁ……」


 「次の階段?」


 俺は、ルーナの故郷への再訪を提案。

 対して、無類の読書好きが判明したルーチェリアは、少し不満そうな表情を浮かべている。


 であれば、ここは当然、多数決だ。

 結果は初めから分かっていたことだが、3人中2人が冒険派となり完全勝利。


 いじけ顔のルーチェリアには、「また調べに来ればいい」となだめることで、一先ず納得してもらうことは出来た。そもそも本は借りれば済むことだ……というのは、俺の感覚であって、ルーチェリアはこれで満足することはない。


 図書館の雰囲気が好きすぎる問題……それを満たすのは中々に大変だ。


 とにもかくにも俺達は、ルーナの故郷に再び行くことにする。これで、硬くなった体も少し解れることだろう……。


 ガルからは、知識習得の時間としての許可は貰っているが、読書尽くめで体が鈍っては、それもそれで大目玉を喰らうことになる。


 鬼畜としか言いようのない修練の数々……。

 あれだけは、絶対に避けなければならない。


 閉館時間まで読書を続けた俺達は、一人10冊まで借りられる本を30冊借りて帰路につく。


 これだけの本を誰が読むかって? 勿論、読書好きの兎……ルーチェリアだ。


 俺はもう当面、本のホの字すら見たくないと感じているのだが……。


 とにかく気分を切り替えよう。


 新たな知識。

 新たなる冒険……ここから始まるんだ。




――――――――――

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