第67話 知識の宝庫へ その4

 【精霊大樹】に関する記述。


 〝精霊大樹=大精霊〟はリヴルバースの中心に聳え、この世界全体に対して精霊を循環させている。


 魔法とは、精霊大樹の幹に刻みこまれた【発動言詞はつどうげんし】が呼び起こされることで行使できる力であり、発動者の属性力に応じた〝精霊の力〟が大樹より与えられる。


 ……精霊力の行使。


 ガルから聞いた魔法に関する説が、この文によるものかは分からないが、妙に納得させられる。それと、この世界の生命については〝種族間の交配により器が形成された後、精霊が宿る〟と記述されている。


 この世界における魂の位置付け……。


 精霊は死ねば、体から抜け出る。

 だが、死しても抜けることが出来なければ、内部で暴れ出す精霊もいる。


 単純に考えればそういうことだろう……。


 「ふぅ~……」


 俺はエルリンド茶を口にし、ホッと一息入れる。


 人間の集中力は、それほど長くは続かないものだ…。とはいえ、隣では次々とルーチェリアが読み終えた本を積み上げている。


 彼女は本に夢中で、俺には目もくれない……。


 (短時間でこんなに……内容を覚えているんだろうか?)


 「うぅ~少し休む! ガゥウ!」


 一方、ルーナは絵本に飽きたらしく、寝転んだまま再び、俺の横へコロコロと転がってきた。


 目を輝かせ興味津々な様子で、俺に尋ねてくる。


 「ハルセ、何飲んでる?」


 「ん? これか? エルリンド茶だ。飲むか?」


 「茶…苦い? 苦いならいらなぁい」


 エルリンド茶は確かに苦い。

 まぁ、味は単純に以前の世界にあったコーヒーと似たようなものだ。


 家では、ルーチェリアもルーナも砂糖がわりのグラニーを沢山入れて飲んでいる。


 「ルーナにはラムソーダを頼んだはずだけど、もう飲んだのか?」


 「うん、飲んだ! ガゥウ!」


 シャカシャカと氷だけになったコップを鳴らすルーナ。相変わらず飲むのが早い…とはいえ、ここは我慢してもらおう。


 ルーナの望むままに頼んでいては、いくら安いとはいえ塵積ちりつもで金がいくらあっても足りなくなる……。

 

 そんな思いを巡らせる俺とは裏腹に、ルーナはとあるページを指差し首を傾げていた。


 「ハルセ、これ何て読む?」


 一先ず、飲み物から目移りしたようだ。

 俺は胸をほっと撫でおろし安心すると、ルーナの視線の先へと顔を向ける。


 ページが捲れたのだろうか。

 精霊大樹に関する記述ではなく、そこに記されていた言葉は…。



 〝異世界からの転生者〟



 (こ、これって……)


 以前、アハド王が口にしていた言葉だ……。


 「ハルセ、どうした?」


 「あ、ああ…いや、ルーナのおかげで調べたいところが見つかったんだよ、ありがとう」


 「ルーナ偉い?」


 「ああ、偉い偉い」


 俺が撫でようと手を翳すと、ルーナは自分から掌へと頭をスリスリと擦りつけてくる。


 興奮気味のルーナ。

 俺はルーナを抱き上げて隣に座らせると、追加のラムソーダで気を逸らす。

 もう一杯くらいならいいだろう……。


 「ルーナ、お礼にラムソーダ頼んだから、大人しくしとくんだぞ」


 「ホント? ホントのホント? やった──! おとなすくしとく! ガゥウ!」


 ルーナは余程嬉しいのか、飛び立つように立ち上がると体をクネクネ小躍りしている。


  (ラムソーダって、そんなに旨いのか……)


 こうしてルーナを宥めた俺は、転生者の項目について読み進めていく。



 ■異世界からの転生者

 リヴルバースの外に存在する異世界から召喚された者を指す。


 ■リヴルバースと異世界

 異世界はリヴルバースの外の世界のことである。

 異世界とリヴルバースは其々の時間軸が異なり、波のように揺れ動く時の波長が重なり合う時、互いの世界は繋つながり合う。



 (───異世界からの召喚?…… 時間軸? 時の波長?……って一体何なんだ……)


 現状、俺が〝召喚された者〟に該当しているのは理解出来る。


 だが、時間軸と時の波長の表す箇所は、正直よく分からない。


 リヴルバースと異世界の間には、其々の時の波長という〝道〟が存在していて、それらが重なった時、〝一本の道〟となり通行出来る……といった簡単な解釈でいいのだろうか。


 その一本の道を生み出すのが召喚……?


  仮に誰かが召喚したというのであれば、一体誰が? 何の目的で?……と、疑問は次々と溢れてくる。


 召喚魔法なるものが存在するのか、はたまた、一定周期で時の波長が重なり合い、自動的に召喚されるものが選び出されるのか……。


 当然、図書館で分かるはずもないことばかりだ。


 まぁ、お陰でこの世界に来ることが出来たわけだし、俺としては誰の仕業であろうと文句はない。


 ……寧ろ、感謝したいくらいだ。


 俺はそれから、転生者に関するページに何度も目を通した。頭では分かっているが、少しでも手がかりが欲しかった。


 でも、それ以上の記述は見当たらない。


 「流石に分かりやすい解説なんて載ってないよなぁ……」


 俺は軽く溜息を漏らし、次のページへと指を動かす。


 何気なく開いた先。

 そこには、見開きで大きな円形の模様が記されていた。


 (円? いや、ただの円じゃないな……)


 俺の視線を引き留めるもの……。

 幾何学きかがく的模様の中に、何やら文字のようなものが配列されている。


 (この文字、どこかで見覚えがある……)


 うろ覚えの記憶に俺が頭を悩ませていると、隣で大人しくラムソーダを飲んでいたルーナがキラキラとした満面の笑みで、その模様を指差す。


 「これ、ルーナの家の文字! ガゥウ!」


 「……あっ!?」


 確かにそうだ、どおりで見覚えがあるはずだ。

 ルーナの言う通り、あの時見たものと酷似している。


 「ルーナ、この文字読めるか?」


 「ん──……これと、これしか読めない」


 ルーナは文字を指し示しながら、〝古〟と〝地〟であると教えてくれた。


 胸を張り腰に手を当て、エッヘン!といった感じに誇らしげに教えてくれたルーナには悪いが、それだけでは、断片的すぎて全くわからない……。


 ただ、何かを示したものであることは、確かなのだろう。俺は以前、訪れた際に書き残していたメモ帳を開く。


 そして、歴史書に記された文字との照合を行う。


 フロア全体に刻まれていた文字。

 その全てを網羅出来ていたわけではないが、要所要所は捉えている。


 結果……文字に関しては、概ね合っていることが分かったが、本のような幾何学模様はあの場所にはなかった。


 そう言えば、この模様……どことなく魔法陣に似ている気がする。


 これはあくまで俺の予想だが、描かれた文字の集合体は魔法陣を成していて、発動時にこの模様が浮かび上がる感じではないだろうか……?


 俺が魔法陣を初めて見たのは、メリッサとリオハルトが使用した転送魔法の時だ。

 あの時も、地面に描かれた魔法陣へと光が走り、全体が模様のように浮かび上がる感じがあった。


 ハッキリと覚えていない上に、所詮、憶測の域……だが、可能性はある。


 俺は黙考しながら、何か手がかりがないかと次のページに指をかけるが、特にその形跡は見当たらない。


 〝古〟と〝地〟とは一体何を示しているのか……。


 パラパラと歴史書を捲る中で、俺は終盤のページに〝とある名称〟を見つけた。


 ……求める答えがそこにあればいいのだが。

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