第66話 知識の宝庫へ その3

 図書館通いを始めて早、半月が過ぎた。


 開始前に比べて、俺達は実に多くのことを学んだ。要注意モンスターの生息域、薬草の種類や採取法、各種薬液の抽出法など、生き残るために必要な知識はほとんど覚えた。


 とはいえ、まだまだ実践的に使えるほど、俺の頭は整理出来ていないし、余裕と言えるほど自惚れてもいない。


 もう少し時間をかけて……と思ってはいるのだが、正直なところ、俺は少しばかり焦っている。


 ……その理由は、ルーチェリアだ。


 記憶力の低い俺とは対照的に、ルーチェリアの集中力は驚異的だ。物覚えもよく、薬学に関しては、以前から熟知していたのではないかと疑ってしまうほどだ。


 しかも、短時間で精製してくれた回復薬の味も比較的飲みやすかった。


 ガル特製回復薬の毒薬みたいな見た目からは解放されたし、ルーナの合成回復薬に匹敵するほどの品質だ。


 ルーチェリアには修練でもずっと置いていかれていた。今はその差も埋まってきているとは思うが、またここで知識面でも差をつけられるのは、少しばかり情けない。


 今日も朝一から王立図書館に来た俺は、一つ考えた。


 俺達はゲームやアニメから引用するならば〝パーティー〟の関係……ならば、其々の役割に応じた知識の習得に専念するほうが、効率がいいのは明らかだろう。


 例えば薬学の場合、ルーチェリアが得意になりつつあるし、ルーナも調合は可能だ。わざわざ薬学の本を開くだけで眠くなる俺が学ぶよりも、任せてしまったほうが賢明と言える。


 その間に俺は力のことや、敵に関する知識といった別のことを学ぶことが出来るし、パーティー力の底上げこそが、今一番必要とされる力であると気づいたのだ。


 ……というわけで、俺達は役割分担に基づいて、それぞれの読書を自由にしている。


 ルーチェリアは〝薬学〟と〝剣術〟に関する本を、ルーナは〝ドラゴンママのお手伝い〟という可愛らしい名前の絵本を。そして俺は、魔法に関する書物や、度々耳にしていた〝歴史書〟を手に取っている。


 ガルが俺に世界のことを教えてくれるとき、よく歴史書で学んだと言っていたことを思い出したからだ。


 俺は1ページ、2ページと順当に読み進める。

 そして早速、四彗魔人に関する話に目を奪われる。


 これはガルが俺に教えてくれた伝説級の存在……。


 四彗魔人とは、〝極域〟に達した四体の魔人のことだ。


 そこには、四体の魔人の名前やそれぞれが持つ強力な武器などが書かれていた。


 ■四彗魔炎しすいまえんファルド=フェルナンデス

 属性:炎

 従魔:炎獄魔将ドラゴルム


 火の頂点である極域【炎魔法】を身につけた存在であり、その性格は豪放磊落ごうほうらいらく。いわば弱者は相手にせず、力を追い求める武人として知られている。


 使用武器は獄竜刀:炎魔フレイムクレセント

 その外観は炎を纏まといし偃月刀。射程範囲が広く、まとう炎は一振りで周囲を焼き尽くす。


 ■四彗魔氷しすいまひょうリムルス=アイスロッド

 属性:氷

 従魔:氷晶魔将フェンリル


 水の頂点に立つ極域【氷魔法】を操る存在であり、その白銀の髪や淡い青色の瞳、その美貌から〝氷の女神〟とも呼ばれている。


 使用武器は魔剣・獄氷刃アイスソード

 その外観は氷の剣だが、常時刀身があるわけではない。類稀な属性力を刃に変換し実体化したものであり、魔剣と呼ばれる所以ゆえんでもある。


 ■四彗魔嵐しすいまらんエリス=シャートレット

 属性:嵐

 従魔:嵐斬魔将デモンサイズ


 風の頂点である極域【嵐魔法】を身につけた存在であり、可憐な少女の姿をしているが、本性は残忍冷酷である。


 使用武器は淵緑連接棍・嵐斧壊乱ストームクラッシュ

 鎖で繋がれた二挺の緑斧であり、高速で回転させることで生み出される風は、嵐を巻き起こすほどの威力を誇る。


 ■四彗魔雷しすいまらいエルバトール=エメルド

 属性:雷

 従魔:雷光魔将サンダーバード


 光の頂点である極域【雷魔法】を身につけた存在であり、四彗魔人の中でもリーダー格とされている。冷静沈着な性格だが、一度激昂させると敵味方区別なく荒れ狂う。


 使用武器は魔撃槌・雷轟サンダーロア

 持ち手が長く棒術能力をも発揮させる長槌であり、打ちつけた対象へと雷轟雷撃が放たれる。


 四彗の力は一国と対等であるとも言われているが、この書にある紹介文のような記述を読むだけでも、その片鱗は少なからず見えた気がする。


 世界を滅ぼしかねないほどの災厄を引き起こす四彗魔人とその従魔。


 その姿は〝魔神〟ではなく〝魔人〟と呼ばれるだけあって〝人〟なのだろうか。それぞれの説明の中に〝可憐な少女〟や〝武人〟など人間らしい言葉が綴られている。


 (人がどうやって、魔人と呼ばれる存在に……?)


 〝魔将〟と呼ばれる魔物は、四彗魔人により生み出されたとあるが、四彗魔人自体はどのようにして生まれた存在なのか……。


 倒すことが叶わず、結局は封印という結論に至った過去があるわけだが、 普通の人間や獣人にそれだけの力が備わるとは考えづらい。


 力の源……。

 だが、俺が手にした歴史書でそれを紐解くことは難しい。何故なら、それ以上の四彗魔人に関する記述はないからだ。


 気を取り直して歴史書を更さらに読み進めていくと、〝竜種ドラゴンに関する事項〟というものが目に留まった。


 俺が抱いてきた竜種に対するイメージは、強大な力の象徴として君臨しているもの。 この世界でもその考えは大きく覆されることはなく、概ね想定の範囲内のようだ。


 この世界には各属性に対応した竜種が存在する。


 火を吐く火竜ファイアードラゴン

 水を巧みに操る水竜ウォータードラゴン

 吹き荒ぶ風を纏う風竜ウインドドラゴン

 煌めく光で敵を欺く光竜シャイニングドラゴン

 大地を揺るがす地竜アースドラゴン


 その他にも屍竜ドラゴンゾンビが確認されているようである。


 各属性ごとの竜種については深く考える必要はなく、それぞれの属性に関連した力を持っていることが簡単に想像できる。


 屍竜については、全ての竜種の死骸が成りうる個体であるため、総称的な分類として考えたほうが良いのかも知れない。


 その屍竜の発生理由については、2つのパターンが記録されている。最初は、ガルから聞いたことがある光魔法を使った方法だ。


 光魔法【煌命シャイン輝蘇リザレクション】で、他生物でありながら〝無属性〟だった魂魄を竜種の死体へと移すことで甦らせるものであり、当然ながら、屍竜の属性は〝光〟に変わるそうだ。


 二つ目は、各属性ごとに宿る精霊が引き起こす【属性エレメンタル暴走スタンピード】である。この世界の生物は死した時、亡骸から精霊が抜けることによって、その役目を終える。


 だが、精霊が外部へ抜けることが出来ない場合が稀に存在する。


 属性暴走とは、体を放棄出来ない精霊が外部へと逃れるために、より多くの精霊達を周囲へ呼び寄せ、そのまま吸収してしまうことにより起こるものである。この場合、肉体としては死しても内部に残る精霊の力により、行動自体は制限されない。


 ……即ち、〝生ける屍〟だ。


 俺達の中にも精霊が宿り、それが意思を持っているということなのだろうか? 〝この世界の生物〟とは竜種に限らず全てのもの?


 次々と俺の中に生まれた疑問。それも続く【精霊大樹】に関する記述によって、解消されていくことだろう。




 ── 魔技紹介 ──


 【煌命シャイン輝蘇リザレクション

 ・属性領域:高域

 ・魔法強化段階:LV1 - LV3

 ・用途:回復特性

 ・発動言詞:『煌々たる生命の輝き』

 ・発動手段(直接発動)

  発動言詞の詠唱及び煌々と光輝く魂魄を移送する想像実行。

 ・備考

  魔法強化段階に応じた影響。

  無属性の魂魄以外には無効。

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