第65話 知識の宝庫へ その2
王立図書館。
長年に渡り幾度となく修繕されたその外観。
重厚さは感じられるものの古臭さは全く感じられない。木目を基調とした外壁によって落ち着いた雰囲気を醸し出す。
近代美術館……まさに、そんな感じだ。
「凄いな……入口のゲートは魔法石になってるのか」
「うん! ここを通るだけで、私達のステータスはデータとして登録されて、国民章の情報と照合される仕組み。本を借りる時も、帰りにこの魔法石に翳すだけでOKだよ」
光の魔法石と記憶用水晶が埋め込まれた石柱が、入場ゲートのように設置されている図書館の入口。光の魔法石による照射でステータスを読み取り、記憶用水晶へと焼きつける仕組みだ。
「わぁお。これ凄い! 光るの綺麗! ガゥウ!」
これにはルーナも大興奮。
出たり入ったりと燥ぎ過ぎた結果、入口の管理員から早々に注意を受ける。俺たちは平謝りでゲートを抜け、図書館内部へと繋がる扉の前へと立った。
ウィン!っと開閉音が聞こえると同時に、扉が両側へと消えるように開く。扉の向こう側……そこに広がる円形状の空間。
中心には多くのテーブルや椅子が並べられ、それらを取り囲むように、幾重にも連なる書棚が複数配置されている。各書棚には魔法石が埋め込まれ、手を翳すことで、後方の書棚と入れ替わる仕組みのようだ。
幻想的な見た目の良さだけではない。
異世界の英知が詰め込まれたかのような造りには、感嘆しきりだ。
「ルーナ、いいか? 遊びにきたわけじゃ……」
先に釘を刺しておこうと思ったが、遅かった……。
パンパンと魔法石を叩きながら、書棚を入れ替えして遊び始めるルーナ。またしても俺達は管理員の注意を受ける。
結局、怒られるのは俺とルーチェリアの二人だけだが……。
俺は、ムスッといじけるルーナへと
(──まったく……やれやれだな)
取り敢えず気を取り直して、ここからが本番だ。
「さてと……ルーチェリア、早速探そう。世界地理と薬学、モンスターについてだったな」
俺とルーチェリアは数冊の絵本をルーナの隣へと置き、必要な本を探し始める。それにしても、流石は数百年の歴史ある図書館といったところか。蔵書一覧も確認出来るのだが、その数が尋常ではない。
「ハルセ、みてみて。火書列3番目の棚に〝世界と地形〟ってあるけど、これじゃないかな?」
「おっ、それだな! 早速見てみよう」
俺はルーチェリアが見つけた〝火書列3番目〟の棚を呼び出すため、魔法石へと手を翳して入れ替えていく。各書棚の列名は、基本属性に因んだものとなっており、確かにその配置は五角形となっているのがわかる。
「よし、あったぞ。この調子でいこう」
俺達は蔵書の一覧検索、書棚の入れ替えと言った便利機能を駆使しながら順調に集めていき、短時間の内に必要な書物を手元へと揃えた。
席へと戻ると、ルーナも嬉しそうに絵本を眺めて足をバタつかせている。あれだけの絵本だ。しばらくは大人しくしていてくれるだろう。それにルーナに関しては、その絵本の中から何かを学んでくれることを期待する。
早速、俺達二人は世界地理の書かれた本を開く。
ルーチェリアも地理については知らないことが多いらしく、広げた本を食い入るように見つめている。
先ず、見開きに世界地図が描かれていた。
三国しかないと聞いていたから、狭くて単調な世界だと思っていたが、実際に見ると驚くほど広くて多様だ。
改めてまずは復習からだ。
俺達の世界の名はリヴルバース。
この世界を統べる国家は【アズールバル王国】・【獣国ルーゲンベルクス】・【共生国家リフランディア】そして、国とは言えないが【中央聖魔教会】もこの世界に大きく関与している。
各国は大小さまざまな町や村で構成されており、その間には険しい山脈や深い森、広々とした平原に清らかな河川、荒涼とした砂漠など、様々な地形が広がっている。
大陸自体は数個の島らしきものを除き、大きく一つであるが、その面積は非常に広大だ。
「俺たちがいるのはここか……。話には聞いていたけど、こうして見るとアズールバルって、結構広いんだな」
「そうだね。まだ行ったこともない場所ばかりだね。ハルセ、この印はなんだろう?」
地図のある地点を指差しながら、首を傾げるルーチェリア。
俺は地図の端に載っていた説明を見ながら、疑問に答える。
「それは……あ、ここに説明が載ってるな。〝封印陣〟と〝紋章〟を示してるみたいだ。南と北、それと…うん、間違いない。丁度、4地点だし四彗魔人の封印陣を示してるんだろう」
「あ、そっか! 確かに一緒に書いてある紋章も風と光だから、
大陸南部から北西中部と東南東を結ぶ領域を広く統治しているアズールバル王国。その近傍では、3つの
それぞれの場所には〝封印陣〟を示す記号があり、属性を示す紋章も添えられているため、封印されている四彗魔人の判別も可能だ。
「ええと、あと2体は……北の封印陣は水だから
「そう言えば、四彗魔人って私たちみたいに会話が出来るのかなぁ?」
「そりゃあ、魔人っていうぐらいだし出来るじゃないかな?|竜種のルーナだって、普通に喋ってるしな」
会話中に登場した自分の名前。
そこに反応したルーナが「ガゥウ?」っと、寝転んだままこちらへと転がってくる。
「ルーナ、ここは家じゃないんだ。移動するときはちゃんと起きろ」
「ハルセが呼んだ。だから来た! ガゥウ!」
ルーナは俺を助けに来た
大人しく絵本を読んでいて頂こう。
「よし、ルーナ! 今みたいに呼ばれたら、直ぐに来るんだぞ。緊急時の呼び出し練習だ。はい! 戻ってよ──し」
俺の言葉に、〝ピシッ〟と右手を上げて敬礼のような
(──ったく、どこで覚えたんだそれは……)
世界地図と睨めっこをしていた俺達も、ある程度の地理が頭に入ったところで、次の
でも、それだけでは意味がない。
活きる知識とするためには、場所と何かを紐づけながら、より実践的に覚えていくことが重要だ。
「この地域は草食モンスターが多いみたいだ。今度の狩りは、ここに足を延ばしてもいいかもしれないな」
「でも、ここのすぐ近くは
そう……この感じだ。
場所に対して、モンスターの棲息情報を付加する。これなら、無駄のない知識になるだろう。
俺達は閉館時間まで図書館に籠り、知識を貪るように学ぶ。
初日から相当なハイペースだ。特にルーチェリアは休むことなく黙々と励んでいる。
(──こんなに積まれてるけど、何冊読む気だ……)
王立図書館の設備は、読書空間の提供だけでなく、食事についても
知識習得の初日。
俺達は、読み切れなかった本を数冊借りて帰路につく。
あれだけの本を一日で読んでいたルーチェリアは、まだまだ名残惜しそうだ……。
でも大丈夫、また明日も来るんだ。
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