第58話 捜索開始 その2

 覗き込むように見つめるルーナ。

 俺は目線を合わせて答えた。 

 

 「そうだな、ルーナのほうが強いと思うけどな。 竜種ドラゴンなんだし、相手はただのカマキリだ。そういえばガルベルトさん、デモンサイズは風属性なのかな? あの技をみると……」


 「ああ、四彗魔嵐しすいまらんエリス=シャートレットの力によって生み出された魔将と言われている。当然、風だ」


 「四彗魔嵐……そうか、俺の地属性に対してもデモンサイズ糞カマキリのほうが上なわけか」


 「理屈上ではそういうことだ」


 ここまで話を聞く限り、今の俺では勝負にならないのは、なんとなくだが分かった。RPGとかでよくある、軽い気持ちで手を出して瞬殺されるシチュエーションと同じといったところか。


 ゲームみたいな状況って、現実リアルだと、まったく楽しくないことに気づかされる。


 更に、ガルはこうも言っていた。

 デモンサイズの力は、魔法石から供給される属性だ。


 そして、その魔法石の属性は、四彗の封印が弱まるほどに強まる。


 現在、四彗魔人が封じられている【複合型シールド国術式タワー封印陣サークル】は、それらを形成する高密度魔法石への〝属性付与〟が、獣国側優勢の影響もあり、上手くいっていない。


 それが意味することは、四彗魔人の復活が近いということ。


 つまり、デモンサイズの力はどんどん増しているということだ。


 (ガルとメリッサが警戒するほどの敵だ。どれ程の強さなんだ? とにかく、油断は出来ないな……)


 俺達がデモンサイズの話をしている間、ルーチェリアはメリッサの隣に並び、話込んでいる様子だ。


 時折、笑い声も聞こえてくるし、女同士で盛り上がる話でもあるのだろうか。


 これから死地に向かう雰囲気は一切感じられない。


 (……俺もルーチェリアたちと話したかったな)



 ◇◆◇



 ようやく、開始地点へと到着した俺達。

 いよいよ本番となるわけだが、ここの小隊長は俺にとって最悪の相手だ。


 城での会議では、俺を見下して文句を垂れまくっていた。


 俺は地属性という理由で、この隊では邪魔者扱いだ。きっと、溜まりにたまった日頃の鬱憤を俺で晴らしたいのだろう。


 「おい、お前ら! サッサとここに並べ! いいか? 邪魔だけはするなよ。ガルベルト殿の連れだからといって、勘違いするな。ここでは、お前らの命など捨て置くぞ。周りの騎士達の命のほうが、何倍も価値があるからな。あ、そうだ、死ぬなら早めにな。苛々する時間が短くて済む」


 近づいて来たかと思えば、こんな憎まれ口ばかりだ。ガルもメリッサも俺達の開始地点ポイントからは、大分離れたところまで行ってしまった。


 どうやら俺は、こんな奴の下で働かなくてはならないらしい。


 (……ったく、泣けるぜ)


 正直なところ俺は、自業自得の商人も侮蔑の視線を向ける騎士達こいつら、どちらの命にも興味はない。


 小隊長おまえが俺達の命の値踏みをする以前の問題だ。


 俺にとってはルーチェリアにルーナ、そしてガル。この三人さえ守ることが出来ればそれでいい。


 あとはメリッサだ。

 世話になっているし、ルーチェリアの恩人だ。


 こんな風に考えてしまう俺は、冷たい人間なんだろうか……いや、それは違う。


 俺は世界を守る勇者とか、慈愛に満ちた聖者でもない。


 忌み嫌うような奴らをかばったところで、何のメリットもない。


 俺は俺が思う大切なものを傷つける全てを、叩き潰すだけだ。


 そういえば、『肥料くらいでしか見たことがない』と言ってる奴もいた。


 ……地属性は弱く、軽蔑されて当たり前。


 でも俺は、先の戦いで世界最強と言われる獣王騎士団、その副団長であるジアルケスに一矢報いた。


 ここにいる騎士共にそれが出来るのか?……いや、出来るわけがない。



 (命を値踏みするなら、お前らのほうがよほど……)



 「ハルセ、どうしたの?」


 「大丈夫? ハルセ、顔色悪い」


 どうやら、俺は怒りで頭が一杯になってしまっていた。


 両隣を歩くルーチェリアとルーナが、心配そうに俺の顔を覗き込む。


 「あ、ああ、大丈夫だ。ごめんごめん、少し考え事をしていただけだよ」


 俺は深く息を吐き、気分を落ち着かせる。


 余計な考えは要らない。

 今はルーチェリアにルーナ……この二人を必ず守ることだけを考える。


 (──そのためには冷静でなくては……)


 「よし、これより、行方不明者の捜索を開始する! 横列隊形のまま距離を保ち、前進せよ!」


 小隊長やつの出発を告げる声。

 合図を受け、俺達は魔法石の効果範囲エリア内へと歩みを進める。


 以前、この地に足を踏み入れた時は何も感じなかったものだが、今回は違う……。


 (──な、何だこれは……) 


 ジリジリと肌をひりつかせる感覚。

 それは、痛みとかそういった類のものではない。


 何とも言えない重苦しい空気。

 圧迫感というべきか……威圧されているかのような感覚に近い。



 まさに〝この地に踏み入るな〟と警告を受けているかのようだ。



 そんな、異常な空気を察知したのは俺だけではない。ルーチェリアとルーナもこの違和感を感じ始めていた。


 「ハルセ、ここ何か変だよ。このまま進むのは……」


 「うぅ……ルーチェリアに賛成。ここ危ない」


 一方の騎士達は何も感じていないのか、躊躇なく前進を続けている。


 (──こいつら、何も感じないのか? 馬鹿なのか?)


 俺達が感じているもの……その正体を知るまでに、大して時間はかからなかった。

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