第57話 捜索開始 その1

 行商一団救出任務。

 俺達は王国騎士団の大隊とともに、ラグーム平原南東部に到着した。


 ここは比較的、攻撃性の高いモンスターの生息数が少なく、安全な地域とされている。


 任務の拠点には最適な場所だが、デモンサイズの縄張りである中央部まではかなり遠い。


 到着して程なく、騎士や兵士達は着々と天幕テント設営を進めている。


 情報によれば、行商一団は約30名、内1名の死亡を踏まえても、残り29名という大人数だ。


 現状では、無傷でいられる者はほとんどいないだろう。

 ここに拠点を置き、治療を施しながらの捜索が最善なのは間違いない。


 「騎士へ告ぐ! 直ちに各隊ごとに整列し各個装備の点検を実施! 回復術士は担当天幕にて準備を開始すること! 小隊長以上、ガルベルト殿一行にあっては本部天幕へ集合されたい! 以上!」


 騎士団長メリッサの指示により、一斉に各々が持ち場へと動き始める。


 本部天幕は中央に位置し、取り囲むように各班の天幕が設置されている。


 情報伝達を円滑に行える配慮はここにも窺える。


 俺達が本部天幕内に入ると既に、騎士団長メリッサを筆頭に各小隊長や回復術士長、補給担当の兵士長などが集まっていた。


 今回の作戦には100名以上が参加する。

 モンスター1匹に対しては大規模すぎると思うかもしれないが、魔将の名持ちネームドが相手なのだ。この人数でも足りるとは限らない。


 早速、メリッサとガルを中心にして作戦の概要、そして詳細が伝えられていく。


 本作戦の目的は〝行商一団の捜索・救助〟だ。

 敵を倒すことではなく、生き残った者を助け出すことが最優先の任務となる。


 各小隊はラグーム平原中央部を取り囲む形で配置され、光の魔法石による合図で、中央部へ向かって捜索を開始する。


 ただし、魔法石の効果範囲外エリア外へ脱出できる距離までに捜索範囲は限定され、危険度の増す魔法石付近の捜索にあっては、メリッサとガルが担当する。


 俺・ルーチェリア・ルーナの三人は、騎士団の南に位置する隊へ加わるように指示を受ける。


 『俺もガルベルトさんと一緒に……』とお願いはしてみたが、その要望は認められなかった。


 今回の魔法石付近の捜索はデモンサイズと対等以上の交戦能力を有し、生きて帰ることができる者……つまり、メリッサとガルだけが行うということだ。


 騎士団の各小隊長も王国屈指の精鋭揃いだが、魔法石付近に限れば戦力外と見られている。


 それだけ今回の任務は厳しいものになるということだろうが、俺の中には未だに余裕という二文字がちらついていた。


 作戦会議を終えた俺達は、それぞれの捜索開始地点を目指し歩みを進める。


 配属された南方捜索隊の開始地点はここからそう遠くはない。


 ガルとメリッサも同じ南を出発地点とするらしく、俺達と一緒に向かっている。


 「ガルベルトさん、デモンサイズってそんなに強いのか? まだ、ここに来たばっかの頃、追い掛けられたなって思い出くらいしかないんだけど……」


 「ビハハハ、そうであったな。懐かしいものだ。もう半年以上前の話か。あの時は私もついうっかりしていたな。まさか貴殿が、平原中央付近まで散歩に行くとは思わなかったからな。然しもの私も焦ってしまったぞ」


 ガルはそう言って、頭をポリポリと掻きながら笑みを浮かべた。


 「まあ、俺のせいだったけど。あの時は、本気で死ぬと思ったよ。でもアイツ、ガルベルトさんに睨まれたら逃げ出したよな? こんな大規模な部隊編成って、本当に必要なのか?」


 「ハルセ殿……あの時、デモンサイズやつが退いたのは、魔法石から離れていたからだ。戦うには厳しいと感じたのだろう」


 ……感じる?


 まるで、あのモンスターに意思でもあるかのような話し方だ。

 魔人に近い存在ということは、それだけ知能も高いということだろうか?


 「私が放浪の身であった頃、デモンサイズやつとは一戦交えたことがある。メリッサ殿と共闘した時であったな。奴の鎌から繰り出される飛ぶ斬撃……あれは、無詠唱魔法と呼ばれるもの。連続魔法を捌ききるだけの実力が伴わなければ、対峙するだけ無駄だ。命を散らすことになるぞ」


 「無詠唱? そんなことが可能なのか……いや、そもそもだけど、モンスターが魔法を使えるのか?」


 何の気なしに避けまくっていたあの攻撃は、デモンサイズが無詠唱魔法を連発していたということなのか?


  異世界版ビギナーズラックとはいえ、奇跡的すぎる生還だ……。


 「基本的には使えないはずだ。言語どころか、自我というものすら持っていないものがほとんどだからな。でも、上位のモンスターには言語を使えたり、自我を持ってたりするものもいる。それに身近にも例があるじゃないか」


 「身近?……あっ、そうか、ルーナ!」


 「その通りだ。ルーナ殿も上位モンスターの位置付けだからな。それにデモンサイズは、モンスターと魔法石の融合により生み出された〝人型〟であったとも言われている。今は魔法石と分離されて、その力に制限があるのやもしれぬな」


 「カマキリ、ルーナより強い?」


 自分の名前に反応したルーナが、興味深げに言葉を挟む。


 ルーナの強さ……確かに、上位モンスターと呼ばれる存在については知識もなければ、見たこともない未知の存在だとばかり思っていた。


 だが、それは俺の勘違い。

 ルーナは、その最上位とも言える〝竜種ドラゴン


 (──もしかして、ルーナってめちゃくちゃ強いの?)

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