第51話 異世界フリマとバイト採用 その1
── 翌日 ──
昨日までに、合成回復薬の精製を完了させた俺達だったが、街へ売りに行くことまでは叶わなかった。
薬草採取に調合作業……寝不足の上に多忙を極めた結果、当然のように朝から眠りについていた。
ガルは生活の
事情を知らないガルにとっては、朝から寝ている俺達の姿はただただ怠けているだけに見えたのだろう。
「怠惰だぞ、貴殿達!」と叩き起こされると、鬼のようなトレーニングが待っていた。
記憶はどこかへ飛び去りかけ、もう帰らぬ人と兎と
そんな中にあっても相変わらずのルーナ。
秘密を惜しげなく披露しかけていたが、俺とルーチェリアがそれを阻止した。こういった流れに対応するのも、ここ数日で大分こなれてきた。
正直なところ、秘密どころの話ではなかった。
疲労を盛大に披露しようとも、
鬼の
しかし、その壁を俺達は乗り越えた。
「もうサプライズやめよっかな……」と心は地に落ちかけだったが、生活のためだと気合で凌いだ。
そして今日、ついにサプライズ作戦は最終段階へと入る。
昨晩のうちに精製された
俺一人でよくやったものだ。
俺達は早朝、ガルの分の食事と「ちょっと出てくる」と置手紙を残し、静かに家を後にした。
目指すは、王都リゼリア商業街だ。
「ねぇハルセ、荷車を勝手に持ち出して大丈夫かな?」
「ああ、大丈夫だろ? メモ書きしてきたし。俺達が持ってったって思うさ」
「そうじゃくてさ、サプライズでしょ? 荷車まで持ち出してたら、怪しまれないかな?って」
「まぁ、確かに言われてみれば……だけどさ、この量を手に持つのも無理があるだろ?」
「うん、そうなんだけどね……」
「心配すんなって、どうせ帰ったら作戦はオープンになるわけだし、怪しんでる暇なんてないさ……多分……」
「う~ん……もう持ってきちゃったし、今更考えても仕方ないかぁ」
「オープン、プンプン! ガゥウ!」
静けさ纏う朝の澄んだ空気。俺達が交わす、何気ない会話。耳へと流れ込む可愛い響きが、溶け込むように広がっている。
昨日は一日中、むさくるしい
(まさに天国。実に幸せだ……)
自然と緩む俺の頬。
荷車を引きながら、朝日を見上げる。
「ルーチェリア、ハルセの顔、何だか変」
呼吸を深く、一息して前を向く。
王都へと続く道を俺達は気ままに歩んでいく。
(……ん? 心なしか、冷めた視線を感じる。まぁ、気のせいだろう)
俺達が橋の中腹に差し掛かる頃、城門がゆっくりと開き始める。
嫌味なあの門番二人。
然しもの騎士団長であるメリッサからの言いつけは、しっかりと守ってくれるようだ。王国守備の要である騎士団長の言葉……そこには、王の意向並みの効力があるということか。
(それにしても、到着前に城門を開いてもらえるなら、この国民章って何の意味があるんだろう……?)
俺達は毎回止められていた城門を顔パスで通過し、王都内へと入っていく。
朝早くにもかかわらず、商業街へと向かう人の波。朝市の活気とでもいうのだろうか。その賑やかな雰囲気が俺の心を弾ませる。
改めて、ここに来た目的の確認だが、それは街で出店を開き、合成回復薬を売ることにある。
とはいえ、実は昨日まで出店か買取店かの選択で迷っていた。
(買取相場が安すぎだけど、あんまり売れなかったら、リッドさんに相談してみるかな……)
この間、市場調査に来た時は素材の店リコ・リッドは生憎の店休日だった。とはいえ、本当に店休日だったかどうかは分からない。
普通は〝CLOSE〟であったり、何かしら示されているものだが、あの店に至っては入口の看板どころか、扉にすら何もなかった。
取り敢えず、まだ始まってもいないのに買取をして貰う考えなんて時期早々。ルーチェリアもルーナもやる気は十分だ。
市場調査の際に聞いていた空きスペースに到着すると、率先してテーブルを設置し、商品を並べ準備に取り掛かる。
この国では商業街活性化の一環として、国民であれば出店を自由に開ける場所が設けられている。しかも、出店料は
異世界版フリーマーケットといったところだが、やはり出店料が要らないのは大きい。
ただ一つだけ注意すべきことがある。
それは期間的な場所の独占は出来ないということだ。毎日同じ場所を占領するかのように継続した販売は禁止されている。どうしてもしたいなら開業する必要があるし、売り上げに応じた税も払わなければならない。
考えてみれば、よく出来た仕組みだ。
「ハルセ! 準備OK!」
「OK! ガゥウ!」
それにしても、甘美な響き……と、いつまでも心を揺らしている場合ではない。今日一日で〝5箱分〟の合成回復薬を捌かなくてはならない。
俺達三人、肩を組んで円陣を組む。
そして、朝市開始を告げる宣誓。
「よし、サプライズ作戦開始だ!」
「よ──し! 頑張るぞぉ!」
「おぉ──っ! がんばる。ルーナがんばる。ガゥウ!」
明るく元気な声が空に響く。
後は、今日の売上がそれに見合うものになることを祈るだけだ。
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