第46話 作戦会議
街での市場調査を終えた俺達。
早速、家に戻ると作戦会議の続きを行う。
「いいか、あんまり大声を出すなよ。秘密裏に動くのがサプライズの肝だろ」
「OK! ハルセ、分かってるよ」
「ガゥウ!」
二人とも返事だけはしっかりしているが、不安だ……とはいえ、もうすぐ日が暮れる。
夜間はモンスターの活動時間。
禁猟中は数も増加するし、易々と話し合いに集中出来る状況ではない。
必然的に静かに部屋で行うしかないのだが、
「ルーナも書きたい~そのノート貸して、ルーチェリア」
「
といった感じで、言ってる傍からこれだ。
「ルーナ、今回はルーチェリアに任せるんだ。あまり時間がない。それにルーチェリアに書いてもらったほうが、文字の勉強が出来るだろ?」
「わかった……ハルセの言うとおりにする。勉強する」
全身から溢れ出る残念感……。
一先ず、ルーナも落ち着いたし、これでようやく会議が出来る。
俺達の目標は、次の狩猟解禁日まで狩りに頼らずに生活し、ガルにかかる負担を軽くすることだ。
そのためには最初に市場調査が必要だ。
物の値段が分からないとお金の計算もできない。
これはサプライズ作戦を成功させるための基本的な情報だ。
次に、得られた情報を基に一期に必要な額の試算を行う。
分かっていることだが、必要な物を無尽蔵に買えるわけではない。期ごとに使えるお金は決めておかなければならない。
特にルーナの食欲に合わせていては、我が家の家計は崩壊する。
この予算設定が、俺達の生き残りをかけた戦いだ。
そして最後が金策……。
ガルの管理している残高がどの程度かは不明。
ここはないものとして考えるほうが無難だろう。
「う~ん、一日当たりのメニュー換算で、四人で銅貨60枚は必要……」
「ルーナ、沢山食べる。だからもう少し追加する」
今、ルーチェリアは必死に試算している。
彼女は我が家の食事メニューを一手に引き受けてくれているし、当然、何がどの程度必要かも一番理解している。
船頭が二人もいても仕方がない。
ここは彼女に任せておくのが一番だろう。
ただ、頭を悩ませるルーチェリアの隣には、欲望のままにちょいちょい口を挟む輩が張り付いてはいるが……。
「よし、出来たよ。これでどうかな?」
ルーチェリアが笑顔でノートを差し出した。
ノートには過去のメニュー表から導き出した試算結果とその根拠、さらに必要性までもが細かく記されていた。
丁寧というより念入りだ。
この短時間でこれだけやれるとは、いつもの緩いルーチェリアからは考えられないが……流石だ。
「ルーナ、たくさん食べれる?」
「う~ん……少し控えてもらうかな。食べ過ぎは
「ハルセは駄目……ガルベルトならいい?」
「ガルベルトさんもダメ! 自分のお皿だけ!」
ルーナの食欲には手を焼くばかりだ。
だが、人間に擬態していても本質は竜種。
そう思えば、あんなに食べるのも無理はないか……。
(いや、しかし……ここはルーチェリアの言う通り。乗り切るには、我慢してもらわねば……)
ルーナは「ブーブー」と文句を言っているが、そんなことで時間を無駄にできない。
今は量の問題じゃない。
食べられるかどうかがかかっているんだ。
「ルーチェリア、助かるよ。問題ないし、これでいこう」
「OK! ハルセ。過去のメニュー表、残しておいてよかったね」
一仕事を終え、達成感に満ちた表情のルーチェリア。
対照的に悲哀に満ちた顔をテーブルの上に置いているのは、ルーナだ。
「ルーナのご飯がぁ~」
「少し減るだけだろ? 我儘を言わない。美味しいご飯作ってくれるんだから、ルーチェリアには感謝しろよ」
「少しだけ、減る? それなら我慢。ハルセのいうとおり我慢……」
(どんなことを言っても、俺の言うことは聞いてくれるんだよな……可愛いやつだ)
可愛い邪魔はあれど、経過は良好。
着々と話は進んでいる……ように見えるが、最後の課題が一番難しい。
それは、この世界でお金を稼ぐ方法だ。
前の世界でも同じ。
お金を稼ぐのは簡単なことではなかった。
今の俺達は無職……無敵ならよかったが、一字違いでここまで変わるとは恐ろしい。
この難局をどう打開するのか。俺達はそれぞれの案を出し合った。
まずはルーチェリア案〝調合薬の販売〟についてだ。
これならば堅実に儲けることができるだろうが、問題も大きい。
それは、俺もルーチェリアも調合の経験がないということ。
我が家では調合はガルの仕事だった。
俺達はただ飲めと言われれば、グビグビと飲むだけ……。
「ルーチェリア、まさかとは思うけど、薬学の知識から学ぼうってことじゃないよな? 調合薬って、そんなに簡単に作れるものでもなさそうだけど……」
「そ、そぅよねぇ……一期も勉強すれば、試薬程度ならいけるかも知れないかな……」
(……そりゃあ、そうだよな)
調合なんて簡単にできるわけがない。
薬師という
街の薬師は当然、
努力し習得する流れは、どの世界も変わらない。
だが…一期もかける余裕は、我々にはない。
ということで次の案。
ルーナ案「お金を街の人から貰ってくる」についてだ。
最初は「募金かな?」と思った俺。
……だが、それは違った。
期待しすぎたか……甘味料をドバッと入れたような甘さだった。
要するに〝貰ってくる〟というより〝巻き上げる〟ということだ。
「お金、街に沢山ある。それを貰う。ルーナがハルセの邪魔はさせない! ガゥウ!」
そうだ、わかってくれるだろう? 何も大丈夫じゃないんだ。
募金じゃなくて、まるで盗賊みたいな提案……俺達が盗賊団なら間違いなく、これが手本だろう。
だが、俺達は盗賊ではない。
心優しき真っ当な国民なのだ。
よって、本案は
(……って、予想通りではあるが、実行可能な意見がない)
二人の表情を察するに、真剣に考えてはくれている。
ただ、今は時間がない。
もっと早く、家計の
俺自身の甘えにも問題があったし、誰にも文句なんて言える立場じゃない。
不穏な雰囲気。
でもその時、首を捻る俺とルーチェリアに向かって、一際明るい声が響いた。
「ハルセ! ルーナね、調合できる! お薬作れる! ガゥウ!」
と、ルーナが思い出したかのようにはにかんだ笑顔を見せる。
「ん!?」
「え?……ルーナ、どういうことだ? 詳しく聞かせてくれ」
思いがけないところから飛び出した一声は、まさに救世主だ。
ルーナは、拙い言葉で懸命に伝える。
まだ生まれる前……殻の中にいた頃のこと。
ルーナに語りかける謎の声のこと。
言葉、擬態の方法、外の世界の危険。
多くのことをその声から学んだ。
勿論、回復薬や解毒薬の調合といった薬学知識もその声が教えてくれたものだ。
「ルーナ、任せられるか? その知識があれば、商品として売ることが出来るかも知れない。一から勉強している時間はないし、頼りっきりになるとは思うけど……」
「うん! ルーナ頑張る! ハルセのため! でも、上手くいったらご褒美ほしい。ガゥウ!」
「ご褒美か……わかった、俺に出来ることなら何でも」
ルーナは俺の返事に大喜びして、笑顔でくるくると回った。
ルーチェリアはその様子を見て、困ったような顔をした。
「いいの? あんなこと言ったら、何お願いされるか分からないよ?」
「まぁ、俺に出来ることだから……。ルーナ、ご褒美って何を考えてるんだ?」
「シシシッ……」と何やら企むような笑みを見せるルーナ。
「そ・れ・は……な──いしょ! ガゥウ!」
(ったく、どこで覚えたんだ? そんな言い方……って、ルーチェリアしかいないか)
一抹の不安は残る。
だが、これにかけて行動に移すしかない。
――――――――――
ここまで読んでくださり、どうもありがとうございます。
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