第45話 市場調査

 ── 城門前 ── 


 初めて城門をくぐって入る。


 心ときめく俺達の前に、難色を示す二人の門番が立ち塞がる。


 その標的ターゲットにされたのは、ルーナだ。


 「君達二人は分かる……ガルベルトのとこの子だろ? だが、そっちの子は見たことがないなぁ。国民章もなければ通行証もない。通せる理由が何もない」


 と眉間に皺を寄せて俺に詰め寄る。


 「そこを何とか……」と食い下がるも、妥協してくれそうにない。


 「王の許可が下りたからといって、何でも出来るわけじゃないんだぞ。その子は置いて行け。さもなくば来た道を引き返せ」


 門番の強気な言葉。

 圧迫するような空気に、俺は少しばかり苛立ちを覚える。


 こんなところで言い争いをしている時間が勿体ない。


 そう諦めかけていた頃、俺達の方へ一人の騎士が歩いて来る。


 「おーい! ハルセ殿! 何かあったのか?」


 赤毛のポニーテールを揺らしながら手を振っているのは騎士団長メリッサだ。


 俺達の目の前に立ちはだかっていた門番二人。

 メリッサの姿を見るや否や、スッと壁を背に上官に対する敬礼を行う。


 「メリッサさん、ちょっと困ってしまって……。僕たちの新しい仲間も街に入れてもらえませんか?」


 「ん? 新しい仲間、ねぇ……」


 俺達の前に来たメリッサ。

 ルーナの目線に合わせて、膝を曲げ腰を落とす。


 「はじめまして、私の名前はメリッサ。貴殿のお名前は?」


 「メリッサ! 綺麗! 私ルーナだよ、ガゥウ!」


 「ガゥウ?? アハハ、ありがとう。ルーナ殿か、可愛い子だ。ハルセ殿も隅に置けんな。花嫁候補が二人もいるとは」


 「なっ!?」


 思わぬ被弾を受けた俺。

 慌てて「そんなんじゃありませんよ」と否定するも、ルーチェリアは頬を膨らませ不満を漏らす。


 「ハルセのバ~カ……」


 俺はその場凌ぎに首を横にブルブルと振る。


 「ダレ、通してあげてくれ。城内での彼らの行動については、私が責任を持つ。よいな?」


 「ハッ! 団長、お言葉ながら確認なのですが……以後も同様の措置でよろしいのでしょうか?」


 「そうだな。彼らは私の友達だ。以後同様に頼む」


 メリッサの特別な配慮もあって、俺達は城門から街へ入ることを半永久的に許可された。


 勿論、ルーナも一緒だ。


 城門を通り、商業街までの道をメリッサと並んで歩く。


 それにしても、さっきから人とすれ違うたびに、振り向かれることが多い気がする。



 まぁ、理由は単純明快……メリッサが目立つのだ。



 綺麗な顔立ちとスタイルの良さ、触れたくなるほどに軽快に弾むポニーテールと見え隠れするうなじ……。


 この鎧の下を是非拝見したいと熱望する志願兵は、星の数ほどいるだろう。


 「ハルセ、鼻の下伸びてるよ~。いやらし」


 俺の肘辺りをギュッとつまんで、からかうように指摘してくるルーチェリア。


 「ところで、今日は三人で買い物に来たのか?」


 「ガルベルト、お金ない、ガゥ……☆□△▽〇!?」 


 「──?」


 俺とルーチェリアは真顔でルーナの口をさっと塞ぐ。


 そして、ハッとしたように会話を繋いでいく。


 「そ、そうだな、ルーチェリア。今日の晩御飯は何にしようかな……」


 「き、今日はね……ええと。ブルファゴもおいしいけど、ラピードの料理も試してみたいな、アハ、アハハ」


 「へぇ~あのウサギって食べられるんだ。知らなかったなぁ……ハハハハ」


 「ん?……どうしたんだ二人とも、なんか急によそよそしいが」


 「気のせいですよ、メリッサさん!」


 「そう、そうですよ。ねっ、ハルセ」


 俺とルーチェリアの迫真の演技は、大根役者並みにぎこちなかったのだろう。


 それ以上踏み込むことはなく、苦笑いを浮かべるメリッサ。


 滑りまくっている俺達を温かく見守るその優しさは、流石だ。


 「まぁ、困ったことがあれば相談してくれ。邪魔したな。ここで失礼するよ」


 俺達はメリッサにお礼を伝え、商業街の入り口付近で別れる。



 「ふぅ~」っと吐く息と一緒に肩の力が抜けていくのが分かる。


 「ルーナ、家にお金がないってことは言ったら駄目だよ。恥ずかしいでしょ」


 「そうなのぉ? ハルセも恥ずかしい?」


 「まぁな……お金がないのに商業街にいるって思われるのは、少し恥ずかしいかな。冷やかしみたいだし……」


 「ハルセも恥ずかしい……わかった、もう言わない」


 少し落ち込んだ表情のルーナ。

 その突拍子もない言動に驚かされることは多いが、悪気があるわけじゃない。


 ルーチェリアもそれは十分に理解してくれていると思う。


 「よし、二人とも! ここからが今回の目的だ。メモ頼むぞ、ルーチェリア」


 「OK!ハルセ。鼻の下……伸び伸びしてたけど、大丈夫みたいね」


 「鼻の下伸びる? ハルセすごぉぉい! ガゥウ!」


 もう勘弁してくれ……と、俺の顔は物語っているだろう。


 ルーナは鼻の下を触ろうと、満面の笑みで背伸びをしてくる。


 だが、そんな興味も少し触れば消え失せる。

 竜種娘の関心なんて、秋の空より移り気が早い……。


 しかし、いつ来ても、この商業街は賑やかだ。

 俺達はさっそく、各出店の値札をチェックして回った。


 「ハルセ、このリンゴ、ひとかご銅貨8枚だって」


 「それじゃあ、さっきの店のほうが安かったな。リンゴは銅貨5枚から8枚が相場っと……よし、次いこう」


 果物や肉、野菜類と多くの店を回る。

 視界に広がる情報を逃さず拾い、大まかな相場の目途をつけていく。


 今までは色々な物をじっくりと見ることがなかったけど、市場調査はいい勉強になる。


 相場を知れば値切ったりすることも出来るだろうし、何より、ガルの助けにもなるだろう。


 任せきりだった現状を変える。

 これからは少しでも生活の助けになるような知識も学んでいかなければ。


 「ハルセ、こっち!」


 「スパイス! ガゥウ!」


 あの二人もやる気を出すのはいいが、少し目を離すとどこに行くか分からないから困る。


 「分かった! 行くからそこにいろよ!」


 こうして俺達の市場調査は、一日がかりで進められ無事完了したのであった。 




 ――――――――――

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