第33話 戦いの後片付け その1
どれだけの時間が経ったのだろう。
夜空はその色を薄く、月もその身を隠し始めた。
「おはよう、君達! 無事だったようだな!」
目覚まし代わりに届く、聞き覚えのある声。
どうやら戦いの後、そのまま眠ってしまっていたようだ……。
俺達の周囲には王国騎士団の大隊が配備され、すでに残骸の撤去が始まっていた。
「メリッサさん!? いえ……騎士団長! 来てくださったのですか?」
「ん? 何だ何だ? 硬いなその呼び名は。メリッサさんでいい……いや、自分で〝さん〟付けでいいってのも変な話だな。アハハハ、メリッサでいいよ」
「いえ、そのようには……」
「まぁいい。三人ともぐっすり眠れたようだな。だが、ここは多くのモンスターの生息地だぞ。ガルベルト殿! 貴殿まで油断しすぎではないか? 我々が来なければ美味しく頂かれていたかも知れぬぞ」
「ビハハハハ、面目ない。ハルセ殿やルーチェリア殿にも心配をかけてしまうしな。一から鍛え直しだ」
和やかな会話だ。
でも俺は、周りを見て気になったことがある。
メリッサのそばへと静かに歩み寄り、小声で尋ねる。
「あの、メリッサさん。この作戦って〝秘密〟ではなかったのですか……?」
「ああ、そうだが? 何か問題でもあるのか?」
「いや、その、これだけの騎士や兵士の皆さんが、俺達の姿を今まさに目撃してしまっているわけで……」
「……確かにな。だが貴殿らは投獄中のところ、第三者審問会の召喚を受け、北東の町【シルクベルト】へと連行されていたのであろう? そんな最中、大変であったな。罪人扱いとはいえ、本来、第三者審問を受けるまでは、最終的な刑の確定はしない。我々が救助に来るのは当然の流れだと思うのだが?」
「え? あ……それはどういう?」
「フフッ。──とまぁこういう設定だ。君らが囚われの身であるのは変わりはないが、ここに居る皆には丁重に扱えと言ってある。それと……そう言う訳だから続けて〝内密〟にな」
メリッサは俺の肩に手をあて、耳元で囁くように答えると、自らも後片付けを始める。
耳に当たるメリッサの吐息。
その甘い誘惑に俺は思わず顔を赤らめてしまう。
疲れを一瞬忘れてしまった……と、まぁ、それはともかくだ。
メリッサとの再会に、戦いがようやく終わったのだと、安堵の空気感に包まれていくのがわかる。
「ハルセ、もう食べられないよ……☆□△▽〇……」
俺の膝枕で、寝返りを打ちながら寝言を言うルーチェリア。
これだけ騒がしい朝が来たのに、余程疲れていたのだろう。
(いいな、このアングル……俺も膝枕して欲しいよ)
メリッサに続き、さらに浮つく俺の心。
だが、これも致し方ないところだ。
(だって……ルーチェリアは可愛いから……あ、いや、妹的に……ね?)
そんな俺の内心を見逃さない視線がすぐ傍にある。
「おうおう、若いのはいいもんだなぁ。こんな時にもお盛んなようで」
こんな時でも、すかさず茶化してくる
「う~ん、おはよ……ハルセ」
ようやく起きたルーチェリア。
眠たそうな目を擦りながら、俺を見上げる。
(う、上目遣いが可愛すぎる……)
甘えているかのような、そのトロンとした瞳はまさしく宝石!
俺への最高のご褒美と言ってもいい。
(くっ……可愛すぎるだろうが……妹的とは言え、間違いが起こるかも知れないだろうが……)
いや、待つのだ俺よ。
この三人での生活を守っていきたいんだろ?
俺の
せっかく戦いに勝ったのに破綻しかねない……。
恋心は罠だ、異世界にまで持ち込んではいけない……。
(──でも、どうして? どうしてダメなんだ……?)
とこんな具合に、ルーチェリアのこととなると色んな思いが交錯する。
だが、別に嫌な悩み事ではない……寧ろ。
「どうしたの? ハルセ」
そんな俺の心境など知る由もないルーチェリア。
上目遣いのままこちらをジッと見つめてくる。
「……よし! 目が覚めたな。俺も瓦礫の撤去作業を手伝いにいこっと」
思むろに立ち上がる俺。
スタスタとぎこちない足取りで、騎士達の元へと向かう。
「待ってよ、ハルセ。私も行く」
小走りでちょこちょこと、ルーチェリアも俺の後を追うようについて来る。
そんな光景を和やかな表情で見つめる、ガルベルトとメリッサの二人。
「あの二人は仲がいいな、ガルベルト殿」
「ああ、もう半年になるが、あのようにベッタリだ」
「私達もその〝ベッタリ〟とやらをしてみるか?」
意外にも満更でもない表情のメリッサ。
ガルの肩に軽く体を当てている。
「お、あ、いや……いかがいたした? メリッサ殿。それに、何をご冗談を……」
「おや? 顔が赤いぞ、ガルベルト殿」
「う、煩いぞ。……あ、いや、失敬」
過酷な戦いの後の平和な光景。
ガルとメリッサの二人の様子も気になるが、俺は今、目の前の状況にも驚いている。
撤去作業を手伝いに来た俺とルーチェリアであったが、その殆どは終わっていて、既に撤収準備へと取り掛かっていた。
あれだけの馬車の残骸や盗賊の死体。
それに、獣王騎士団のものも多くあっただろうが、見事なまでに片付いてしまっている。
俺達が作戦成功を知らせる魔法石を投じてから、直ぐにここへ向かって来たとしても、手作業だけでは片付けられないほどの量だった。
これだけ速く片付けられたのは、間違いなく属性魔法の力だろう。
風属性魔法を
荒れた草原には木々の苗木を植え付け、水属性魔法で発育を促す。
こうして目の前で実際に見ていると、魔法と言っても色んな使い方があることを改めて実感する。
戦いのみならず、その属性の力を使って生活を豊かに彩る。
この世界は本当に素晴らしい。
願わくば戦いのためではなく、この世界の幸せのためだけに使われて欲しいものだ……。
以前いた俺の世界でも、古くから戦いはあった。
平和を願う人々がいる一方、数千年という長きに渡って戦いが無くなることはなかった。
小さな世界での権力争い。
私腹を肥やすために殺し合い。
そして、戦いを望まぬ人々から死に絶えていく。
この世界と一緒くたに考えるのは違う気もするが、戦いとはどの世界であっても嫌なものだ。
「お前達、疲れているだろう? 手伝いはいいから、こっちに来て一息入れたらどうだ?」
撤収作業が始まった現場。
そこで立ち尽くしている俺とルーチェリアに一人の兵士が声をかけてきた。
俺達はその言葉に甘えるように、兵士がいる仮設テントへと歩いていく。
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