第30話 守るべきもの

 ── ハルセ&ルーチェリア VS ロドリゴ ──


 ルーチェリアと合流を果たした俺。

 今回の最重要目標メインディッシュであるロドリゴと遂に対峙している。


 何度も、ロドリゴあいつは「お仕置きだ!」と言いながらこちらを威嚇してきた。


 だが、ここからは形勢逆転。

 俺達がお仕置きをする立場だ。


 ニコと同様、魔法石に頼った戦い方では俺達には遠く及ばない。

 

 「ルーチェリア、ここからは二人で行くぞ。準備はいいか?」


 「OK、ハルセ……来てくれてありがとう」


 「当然だろ、それにお互い様だ。俺も助けられたからな」


 「いつまでペチャクチャと話してやがるんだ。それよりも儂に1つ提案がある」


 俺とルーチェリアの会話。

 ロドリゴがやや顔を引きつらせながら割り込んでくる。 


 「お、お前達ももう疲れただろう? 顔を見れば分かる。そこでだ、この辺で手打ちとしないか? ワシも見ての通り、左手が使えなくなっちまった。ルーチェリアよ、復讐には十分すぎる手土産だろう?」

 

 呆れた提案だ。

 感情を煽る言葉を投げつけるロドリゴ。

 反射的に言い返すことなく、一呼吸ついて相手を見据えるルーチェリア。


 「ふざけないで。どれだけの命を奪ったと思ってる。貴方にも人の心があるのなら、ここで自身の命を持って償いなさい」


 冷静なルーチェリアが戻って来た。

 俺は隣で少しばかりホッとしている。


 そんな落ち着いた返答と対照的にロドリゴは、 


 「たかだか葬られる運命にあった獣人の命が、ワシの命と対等とでも思っておるのか! この左手だけでもお釣りがくるほどの差があるのだぞ」


 と興奮気味に言い返してくる。

 

 傲慢かつ我儘。

 独りよがりな言葉の羅列。


 自分の命は何よりも優先すべきことであり、最も高位な存在とでも思っているのだろうか。


 これ以上、こんな男と話をしていても埒が明かない。


 俺とルーチェリアの考えは自然と行動へと変換される。


 ロドリゴの目の前からフッと二人同時に姿を消すと、それぞれが側面へと瞬時に回り込む。

 

 「大地よ、我に仇名す者を大地の檻に封じよ、〝大地封鎖アースチェーンシール〟!」


 「ふん、そんな攻撃が効くとでも思っているのか? 儂が馬車に乗っていた時に放った技だろう?」


 ロドリゴは勝ち誇った表情で右手をギュッと握り締め、転送魔法を発動させる。


 だが、そうくるのは分かっている。

 俺の放った魔法が避けられることは想定内のことだ。

 

 「水の息吹よ、流麗なる磨かれし流槍となりて敵を撃て。〝水麗流槍ウォータースピア〟」

 

 そう、俺達は二人。

 ルーチェリアもすかさず水流槍を作り出し、脱出ポイントに狙いを定めている。


 俺が作り出した大地の檻を脱出したロドリゴ。

 肉体の再構成を行うべく、光の収束が壁外で開始される。


 その様子を確認していたルーチェリア。

 「今だ!」とばかりに腕を振り下ろすと、頭上に作られた複数の水流槍が、然もガトリング砲のように回転を始め、連続して射出されていく。


 流石のロドリゴもこれで終わり。

 そう思った、その時……。


 「火よ、その猛る業火により敵を滅せ。〝獄連火ヘルファイア〟」


 俺達とロドリゴの間。

 小さな火のような球体が現れ、一瞬にして拡大する。


 余りの熱波に俺とルーチェリアは急いで距離を取った。


 燃え盛る大きな火塊。

 水流槍を次々と飲み込みその役割を終えると、再び縮小し何事もなかったかのように消え去る。


 火属性魔法……。

 それも相当な術者で間違いないだろう。


 一体誰が……と、考える暇もなく俺達はその答えを知ることとなる。


 「グルルル。お前達、正々堂々と勝負したらどうなのだ? 二対一とはガルベルトは何を教えていたのやら」


 「──!?」


 俺達の前に現れた一人の獣騎士。


 獣王騎士団副団長ジアルケス=フォルガマ。

 


 (どうしてお前がここにいるんだ? ガルはどうした? 何故ここにジアルケスこいつが……)



 ここにジアルケスがいるということ。

 それは、ガルに何かがあったと言う事を物語っている。

 

 「何故お前がここに? ガルベルトさんはどうした?」


 ジアルケスは不敵な笑みを浮かべる。


 「気になるか? ガルベルトやつはここには来れない。悪いが諸君、ロドリゴは我が国にとっても大切な取引相手でな。お前達のような賊に討ち取らせる訳にはゆかぬのだ」


 「お前! ガルベルトさんに何をしたんだ!?」


 「どうもこうもないだろう。お前は分かっておらぬのか? 国家間の取引相手を殺そうとしているのだぞ。国賊行為……文句を言える立場になどない」


 怒りにまかせて飛び出そうとする俺をルーチェリアは慌てて制止した。


 「ハルセ、挑発に乗ってはダメ。殺したとは言ってない。今はガルベルトさんを信じよう。私達まで冷静さを欠いてしまったら、それこそ相手の思う壺だよ」


 この戦い……一番辛い思いをしているはずのルーチェリア。


 自身の気持ちを押し殺し耐えている。

 俺が守ってやらなきゃならない。


 それなのに、逆に守ってもらっている。


 自分の情けなさに苛立ちを覚えた俺は、奥歯を強く噛み締める。


 「ルーチェリア、ごめん……大丈夫だ」


 「うん……でも謝らないで。ハルセが隣に居てくれるから、私も冷静に戻れたの。それにまだ生きてる。一緒に乗り越えよう」



 (──俺が居てくれるからか……)



 ずっと聞きたかった言葉。

 誰かに言ってほしかった言葉だ。


 こんな窮地で……しかも異世界で聞くことになるなんて……。

 

 俺の頬を無意識に一筋の涙が流れ落ちた。


 「……どうしたのハルセ? どこか痛めた?」


 「ああ、いや、何でもない。大丈夫。今は目の前に集中だ」


 「う、うん……」

 

 個人的な感情は今は伏せよう。

 まずは、この厳しい状況をどうにかしなければならない。


 ロドリゴだけであれば問題なく倒せた。

 でも、ジアルケスの出現によって形勢は大きく不利になった。

 

 「おやおや、この血みどろの物体は何だ? この特徴ある髪の毛は……ニコか? そうかそうか、もう笑えなくなってしまったな。グルルル」


 ジアルケスはニコの頭部を踏みつけ、笑みを浮かべて眺めている。


 そしてその背後、


 「おお、フォルガマ様。来ていただけたのですね……助かりましたぞ」

 

 とロドリゴが縋るように駆け寄る。


 「その呼び方はやめろと言ったではないか。まぁロドリゴ殿、無事で何よりだ。それよりも傷が深いようであるな。回復の魔法石は持っていないのか?」


 「あ、す、すみません……ジアルケス様。あの獣人のメス豚のせいで……使えなくなりました」


 「そうであったか。では早々に決着をつけて私の部下の所へ戻ろう。獣復士がいるからな」


 「それは助かります、ジアルケス様」


 ブツブツと話をしているジアルケスとロドリゴ。

 内容は全く分からない。


 だが、この間にも作戦を練らなければ。

 

 当然ながら警戒すべきはジアルケス。

 ロドリゴは出血多量の影響か、少しばかり足下が覚束ないようだ。


 このまま放っておいても息絶えるだろうが、ジアルケスがそうはさせないはずだ。


 相手は獣王騎士団副団長。

 まだまだ俺達の手に負える相手ではない。

 ガルでさえ振り切られてしまっている。

 

 俺達に出来る最善の手段は何か……。


 「ハルセ、私に考えがあるんだけど……ジアルケスへの攻撃は避けて、防御と回避に徹しよう。今の私達では勝つのは難しいと思うの。それよりもロドリゴに早く止めを刺して、ジアルケスあの男がここにいる理由を失くしてしまおう」


 現状を考えれば、非の打ち所がない最善の考え。


 流石はルーチェリアだ。


 だが、そう簡単に事が運ぶだろうか。

 歴然とした力の差……あれだけの魔法を使いこなす相手だ。


 防御すらまともにできるかどうか。


 「俺もそれは考えていた。ジアルケス相手では今の俺達に勝ち目はない。だが、ロドリゴを仕留めたところで大人しく去るだろうか……?」


 「でも、去ってくれることにかけるしか今は手がないよ。それに私達の目的はロドリゴとニコの抹殺。少なくとも目的は果たせる」

 

 ルーチェリアの説得力ある言葉。

 俺が言うべきことを代弁するかのようだ。

 今は自分達の力不足を卑下してる時ではない。


 ……すべきことは分かっている。


 この作戦を成功させ、俺達三人の生活に再び戻る。


 大切な仲間……ガルにルーチェリアこの二人を守り抜く。


 必ず全員で生きて帰る。


 「分かった、一緒にロドリゴを仕留めよう。だけど一つだけ追加だ……俺が必ず、ルーチェリアを守る」


 「私も……私もハルセを守るよ。一緒にガルベルトさんのところへ戻ろう」


 互いに視線で合図を送る。


 俺は、全身が隠れるほどの大きな大地盾纏アースシールドを展開すると、ジアルケスの視界を遮るように突進する。

 

 「ふん、自暴自棄にでも陥ったか。そんな単調な攻撃が私に効くと思っているのか?」


 ジアルケスは強靭な脚力を生かし、俺の頭上を背後へ回り込むように軽々と飛び越えていく。


 獲物を仕留めるか如く、目をギラつかせたかと思うと自慢の魔双剣を滞空状態で俺へと振るう。


 「〝全方位守備フルディフェンス〟」

 

 俺が解き放つ、大地盾纏の属性開放技。


 前面に展開していた盾は、俺を包み込むように背後まで広がる。


 文字通りの全方位の防御シールドの展開だ。



 ガギャン!



 鋭利な刃物に削りとられるような音。

 耳障りに盾の内側まで響いてくる。


 ジアルケスは魔双剣を振るった勢いのまま一回転し、距離を離し着地する。 


 「属性開放技まで使いこなすとは、流石はガルベルトの連れといったところか。だが、そのままでは攻撃出来ぬだろう?」

 

 ジアルケスは俺の地属性という稀な能力と属性開放に気を取られていたのだろう。


 一つ大きなことを忘れている。

 それは……ルーチェリアの存在だ。


 「むっ、そう言えば、あの女はどこだ!?」


 ジアルケスは思い出したように周囲を見渡す。


 だが、時既に遅しとはこの事。

 俺達の狙いは初めからロドリゴただ一人。


 俺が大地盾纏で視界を遮っている間に、ルーチェリアは【水麗幻沫ウォーターミラージュ】により、その身を隠すとロドリゴの首を取るため、矢庭に駆ける。


 そして、その時はもうそろそろだ。

   

 「うおおお、貴様──!!」


 ロドリゴのけたたましい叫び声が響き渡る。


 ……あと少し。


 あと一歩でルーチェリアの刃が奴に届く。




 ── 魔技紹介 ──


 【水麗幻沫ウォーターミラージュ

 ・属性領域:低域

 ・魔法強化段階:LV1 - LV3

 ・用途:補助特性

 ・発動言詞:【幻影の飛沫】

 ・発動手段(直接発動及び属性付与)

  発動言詞の詠唱及び光の屈折や水飛沫の乱反射による幻影効果を想像実行又は所有物への付加効果の想像実行。

 ・備考

  魔法強化段階及び環境変化の影響あり。


 【水麗流槍ウォータースピア

 ・属性領域:低域

 ・魔法強化段階:LV1 - LV3

 ・用途:補助特性

 ・発動言詞:【磨かれし流槍】

 ・発動手段(直接発動)

  発動言詞の詠唱及び激しい水流に磨かれし槍を放つ想像実行。

 ・備考

  魔法強化段階及び環境変化の影響あり。


 【獄連火ヘルファイア

 ・属性領域:高域

 ・魔法強化段階:LV1 - LV3

 ・用途:攻撃特性

 ・発動言詞:【猛る業火】

 ・発動手段(直接発動)

  発動言詞の詠唱及び全て焼き尽くす業火の宝玉を想像実行。

 ・備考

  魔法強化段階に応じた影響あり。

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